堕ちた先の世界 [ 13 ]

一瞬で全身の血の気が引いていく。
気付けば評議院の男が数人、ルーシィの周りを取り囲むようにして立っていた。

どのぐらい走ってきたのだろうか。
ここはナツがいる場所からどのぐらい離れている?


「おい、何か言え。ナツ・ドラグニルはどこだ。隠せば逃亡幇助の疑いで連行する。」


何も言えず固まったままのルーシィに一人が槍先を向けて、強く言い放った。


「……ナツ?知りません。」


そう言いながらルーシィは地面に預けたままでいた体をゆっくりと起こす。
そのまま辺りに散らばった食材を拾いながら、ここに何人いるのか隙はないかと横目で様子を窺った。


「君は、ナツ・ドラグニルとチームを組んでいた星霊魔導士だな。」

「そう、ですが…彼がギルドを辞めてからはチームは解散しています。」


おそらくこの中で一番地位が高いと思われる貫禄ある男が静かに声をかけながらルーシィとの間合いを詰めてくる。
ルーシィは彼との距離を保とうと後ろに下がりそうになる体に力を込めた。


 逃げる素振りを見せてはだめ
 疑われる行動を起こしてはだめ
 ナツに関わる情報を与えてはだめ
 ナツとリサーナがいる場所から、評議院を引き離さないと―――


「どうして、ここに評議院が?ナツを探して…?」

「ここから南の方角にある山岳地帯の山の一つが炎で全て焼かれた。こちらの調査で魔力の痕跡を発見している。」

「山…魔力の痕跡って…」

「山全体を焼くほどの炎を作ったのも消したのも魔導士が関与している可能性が高い。しかし近隣の住民がギルドに依頼を届け、魔導士が現場に到着するよりも早く炎は消えていた。」

「……」

「我々は山から最も近くにいた魔導士を調べ上げた。ルーシィ・ハートフィリア、各場所から君の目撃情報を得ている。」

「……」

「ナツ・ドラグニルと共に逃亡していると予想していたが…。それでも君が最もこの件に関与している可能性が高い。ナツ・ドラグニルの居場所を、知っているんじゃないか?」

「いいえ私は、何も」

「嘘をつけば罪に問うことができる、知っていることを全て話せ!」

「私は知りません!何も!」

「山の近くで目撃情報があった魔導士はルーシィ・ハートフィリアだけだった!その後も街を転々としていたな、何をしていた!我々は貴様の動きを追ってここまで来た!」

「……っ」





―――私の行動の全てが、ナツを危険に追い込んでいたのかもしれない





ここで上手く誤魔化さなければいけないのに、ルーシィはそのことで頭が真っ白になる。
駄目だと思いながらも、上手く切り抜ける方法が何も思いつかず、ルーシィは言葉を詰まらせた。

今悩んでいる時間はない。ごく自然に誤魔化して、彼らをナツから遠ざけたい。
どうすればいい。なんでもいいから考えろ。考えて。思い付いて――――

ルーシィは、左手で抱え込んでいる紙袋を重そうに持ち直す仕草をしながら腰にある鞭へと手を移動させていく。


 もし、私がここで暴れたら?

 この人達は私を捕まえて評議院に連れて行く

 ここから、離れることになるはず


迷いはあった。けれど強い意志がルーシィを突き動かした。
もうがんばらなくていいのかもしれない。それなら、いっそのこと――――



「おーーいたいた!ルーシィ!」

「……え?」

「君は確か…グレイ・フルバスター。」

「なにやってんだ仕事の途中で。時間ねぇんだぞ。何だ?ルーシィが何かやらかしたのか?」

「君はフェアリーテイルの氷の造形魔導士だな。君の目撃情報も得ている。捜査の協力をお願いしたい。」

「は?目撃情報?こっちは仕事でこんな所まで来てんだ。おい、ルーシィ行くぞ。」


突然、いつもの調子でいつもの変わらないグレイが評議院の輪を掻い潜ってきた。
そのまま何でもないように評議院に攻撃しかけていたルーシィの手を掴んで、ルーシィを連れて行こうとする。


「…待て。その依頼内容を詳しく説明していただこうか。」

「マスター直々の極秘任務だ。いくら評議院と言えど軽々しく口外できないね。どうしても知りたいならうちのギルドに直接掛け合ってくれ。」

「…うまい言い訳だ。しかしこちらの捜査には協力してもらう。」

「こっちは仕事で急いでんだ。また今度にしてくれねぇか?この任務が終わればこっちから出向いてやってもいい。」

「ほぅ…。では、それまでルーシィ・ハートフィリアが逃げ出さないようにしっかり見張っておくんだな。」

「…何言ってんだ。ルーシィは俺たちの仲間だ。逃げるも見張るもねぇよ。」


グレイの言葉に評議院の男は、意味ありげに含み笑いをして見せた。
その表情に終始ポーカーフェイスだったグレイがピクリと眉を引き攣らせる。


「…行くぞルーシィ。」


グレイにしてはやや乱暴な所作でルーシィが持っている紙袋を取り上げ、ルーシィの手をしっかりと握り直して歩き出す。
ルーシィは、グレイに手を引かれながら後ろを振り向いた。

こちらが去っていくのを評議院の男達はその場から動かず、ずっとルーシィ達を見ていた。












「グレイ離して。」

「駄目だ。」

「…どうしてここに?」

「お前らを追って来たに決まってんだろ!?評議院に見つかりやがって、何やってんだよ!ナツはどこだ!」


評議院の者達から充分距離を取ったところで、ルーシィはグレイに小さな声で話し掛けた。
ルーシィの手を引きながらこちらを向きもせず、グレイは声を荒げて答える。
ルーシィは、そのまま手を強く掴んで止まらずに歩き続けるグレイの背中をぼんやりと眺めた。


 ナツに、評議院が近付いていることを、皆が来ていることを、知らせなきゃ
 でもナツにはリサーナが
 ナツから去った私が、もう一度ナツに何を言えるの?
 


 グレイが来なければ
 評議院をここから遠ざけられたのに



その想いがルーシィの頭の中で弾ける。
ルーシィは、強く握り引かれる手を、引きちぎれる勢いで振り払った。



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