堕ちた先の世界 [ 11 ]

ナツは、どこに行こうとしているのか。
相変わらず、何日も何日も人が通らない荒れた道を進んでいた。
ルーシィは、ナツの後についていき、近くの街で調達した食材で温かい料理を作り、夜は寄り添うように眠ることを繰り返していた。

眠るときに必要以上に纏わりつくナツには慣れないままだったが、それでもこうしてお互いの体温を感じながら眠ると、大きな安心感を感じる。
毎回胸の振動が騒がしく治まらなくなっていても、ナツの呼吸に合わせると、そのリズムと温もりに引き込まれて次第に眠りにつくことができた。

眠りの底に落ちていく、この瞬間はフェアリーテイルのことも評議院のことも、胸が痛くなるようなことは全て忘れて、ナツだけを感じて、底へ底へと落ちていける。
現実に目を逸らしちゃいけないことも、フェアリーテイルにも評議院にも、いつか立ち向かわなければいけないこともわかっている。
けれど、もう少しだけ、もう少し、ちょっとでも多くこの時間を引き延ばしたい。

ルーシィは漠然とここにある"幸せ"を感じ、こうやって一緒にいる時間が、永遠に続けばいいのに、と願っていた。
















「ナツ!そろそろ本当に危ないから起きるか、そこで寝るかどっちかにして!」


ルーシィの目前にある油の温度が上昇していく中、そろそろ衣をつけ終えたハムを揚げたくて、
ルーシィは、背後から腹部にかけていつのまにか纏わり付いているナツの腕を急かすように叩いた。
眠たい目を擦りながら地べたに座って朝食の準備をしていたルーシィの肩を枕にし、ナツは後ろからルーシィを抱きしめたまま眠っている。
時々首に刺さるナツの髪がくすぐったいし、背後からナツの体重がかかってきていて、はっきり言ってすごく重たい。
それでも眠そうなナツをやんわりと起こす作業を繰り返していたのだが、さすがに油で揚げる作業の時はとルーシィは焦っていた。


「ナツー!起ーきーてー!今から真剣勝負なの!危ないから!眠いならそこで寝て!」


油で揚げる料理にはまだ慣れていない。ルーシィはどんどん温度が上がっていく油を睨みつけながらナツの腕をバシバシ叩き始める。
大声を出しているというのに微動だにしないナツ。スースーと規則正しい寝息が耳元のすぐ近くで聞こえる。
ナツの様子にそんなに眠いのかと諦め、滅竜魔導士は耳がいいはずなのにとブツクサ言いながらルーシィは油の中にハムを投入し始めた。
香ばしい匂いが立ち昇る。きれいな狐色に染まっていくハムカツを次々と揚げていくルーシィは、ふとその一つを味見しようと口に持っていく。
しかし、ルーシィがその口を開きハムカツを一口齧ろうとした時、先にナツがルーシィの首元に齧りついた。


「いっ!…たぁーーーー!??痛い痛い!噛んでる噛んでる!ナツ!痛いって!痛い!…痛いってば!!」

















ルーシィの首には紫色の歯型。ナツの顔には引っかき傷一つ。
噛んだまま離れないナツにルーシィが爪で引っ掻いてしまった跡だ。
ルーシィは不機嫌そうに、揚げたハムカツをレタス、チーズと一緒にパンに挟んでいく。
その様子をナツはルーシィから充分離れたところでちょこんと正座をしながら見ていた。
ナツはルーシィのお許しが下るのを待っている様子だった。


「どうせ…この匂いが夢に出てきたとかで寝ぼけてやったんだろうけど、すごく痛かったんだから!」
「………………」

「次からいくら眠くても私が料理してる時はこっち来ちゃだめ!わかった!?」
「………………」

「…よしっできた!揚げたてサクサク〜ハムカツサンド♪わぁーー美味しそう!私天才かも!」


ルーシィはきれいに美味しそうに出来上がったハムカツサンドに目をきらきらと輝かせて眺める。
不機嫌なのは一瞬で吹っ飛び、ルーシィは自分の腕前に酔いしれていた。
その様子を見ていたナツは、お腹をぐーーと低く音をたてて鳴らす。その音を聞いて、ルーシィは思わず噴出した。
これはナツのために作ったものだ。そんなに見なくてもちゃんとあげるのに。
ルーシィはハムカツサンドを一つ手に持って正座しているナツの元へと足を運んだ。


「…はい。いっぱい食べてねナツ。」


ルーシィの胸の奥にじわりと温かいものが渦巻く。それはふつふつと湧き上がって大きくなっていく。これはきっと…愛しいという感情。
自分でははっきりと自覚できていない、その温かい感情に引かれるようにルーシィはふわりと微笑む。ナツに向けて。
正座をしていたナツがその笑顔に吸い寄せられるようにゆっくりと、立ったままナツを見下ろしていたルーシィに向けて近づいてくる。
近づいてくるナツに、ルーシィは悪戯心で手に持ったハムカツサンドをナツの口に押し込んでやろうとナツの口元に持っていった。
しかしナツはその手の動きを片手で捕らえて封じ、下から見上げる角度のままそっとルーシィに口付けた。
それは一瞬の出来事で、ルーシィがその行動を理解する前にナツはルーシィから唇を離して立ち上がり、
ルーシィの首に残った歯型の跡を治そうとするかのように、なでるように優しく、ルーシィの首元を舐め上げた。
















「…エルザ!……ロキ!?二人して何やってんだ!?」

「グレイ!?」
「あ、グレイ。よくここがわかったね!」

「二人共、何呑気ににケーキなんか食ってんだよ!?ナツとルーシィの行方は掴めたのか!?」


何日もかけてジュビアと交代で魔導四輪を動かし、街から街へと渡り辿り着いた先で運良くエルザと獅子宮の星霊を発見したグレイ。
しかし、二人は仲良くカフェテラスでケーキを食べていた。


「こ、これは…違うんだ、グレイ。決して探すのを怠っていたわけではなくてだな……」
「息抜きだよ、ね。グレイも食べる?…あれ?一人でここまで来たの?」


二人は街を移る毎にその街のケーキを食べていた。
その観光でもしているのかという呑気さにグレイは青筋をたてるのを我慢できない。


「向こうでジュビアを休ませてる。事態は悪化してんだ!んなもん食ってる場合じゃねぇよ!」


グレイは、フェアリーテイルの状況やリサーナのことを急いで二人に伝えた。
リサーナの行動に、エルザは表情を曇らせる。


「リサーナは動物に変身できる、ルーシィを見つけるより難しいだろうな…。ナツの目撃された情報は掴めていないが、ルーシィの情報は集まってきた。
宿を使った形跡は見つからないが、時々買出しに各地の街を出入りしているみたいだ。」

「ルーシィほどの美人だと、覚えている人が結構いるんだ。僕もかわいい子の顔は忘れないけどね。」

「ルーシィは、北へと移動している。…ルーシィはナツと一緒のはず。このままルーシィを追っていけばリサーナにも会えるはずだ。」

「…また北か。何があるってんだ?このまま北の方角に行ってもルーシィにもナツにも関係あるものはないはずだけどな。…あの山の方はどうだった?」

「何も残っていなかった。すごい熱量だったんだろうな、どこも、石一つない状態だ。」

「…そうか。エルザ、一刻も早くナツとルーシィに接触するためにもこのまま二手に別れたまま行動しよう。もし何かあれば…」

「わかった。信号弾を使って知らせる。ロキもそれでいいな?」

「うん。その方が効率いいだろうしね…。でももし見つけたらどうするの?説得するの?それとも無理やり連れて帰る?」

「まずは話し合うさ。でもそれで無理なら…引き摺ってでも連れて帰る。評議院にナツ達を見つけられる前にそうする必要がある。フェアリーテイルのためにも。…そうだろ?」


皆は強く頷く。今はフェアリーテイルの立場が危うくなっている。
フェアリーテイルのためにもナツのためにも、ナツが自首する形でフェアリーテイルの魔導士が評議院にナツを連れて行く必要がある。
自首すればナツの減刑の可能性が増え、連れて行けばギルドがナツを逃亡させた疑いを何とかできるかもしれない。
ナツもルーシィも抵抗するかもしれない、できれば理解した上で協力できればいいのだが、きっとそうしている間も評議院は待っていてくれない。

もし、このまま評議院が先にナツを見つけたなら、おそらくそのまま面会もできずにナツは幽閉されるだろう。
ナツの罪が大きくなっていっている今、その後も面会が許されるかどうかわからない。
ルーシィがナツと一緒にいればルーシィもそのまま逃亡幇助の罪で捕まる。

そうなる前に、ルーシィをナツから引き離さなければ。評議院より先にナツ達を見つけなければならない。
二人がフェアリーテイルを外れても、フェアリーテイルの魔導士達は二人を想う気持ちを変えられなかった。
ナツの力が大きな混乱を招いたことは避けられない事実だ。そこにどんな理由があったとしても事実は変えられない。
償える罪ならば、償う機会を与えたい。また、共に笑い合えるために。
でも、このまま会えずに評議院に連れて行かれるのだけは避けたかった。
二人には言いたいことがたくさんある。仲間として。友として。
そして何年経ってもずっと、この気持ちが変わらないことを伝えたい。
そう思う気持ちは皆、同じだった。



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