堕ちた先の世界 [ 5 ]

ルーシィは、酒場の女主人に何度もお礼の言葉を重ねた後、北の方角へと旅立った。
このまま北の方角。それは、フェアリーテイルが得た情報か、獅子宮の星霊が得た情報かわからない。
でもどちらでもいい。そこに何かがあるのなら。ナツの手がかりが掴めるのなら。
胸の奥にどんよりと重くのしかかった喪失感をそのままにして、手がかりかもしれない情報を見過ごすことなどできない。
ルーシィは、何日も何日も北へと移動しながらナツの手がかりを求めて彷徨った。
しかし、どこに行ってもどんなに探しても、ナツの痕跡はなく、目撃された情報も手に入らない。
それでも諦めきれず、ルーシィはナツを探し続ける。

ルーシィが、フェアリーテイルを出て行ってから、数ヶ月が過ぎようとしていた。


「おーーい!お嬢ちゃん!……あんた一人か!?」

「え?はい。」


地図を広げながら近くにある街を目指して、何もない道をひたすら歩き続けていたルーシィに突然背後から声がかかった。
振り返ると、止めた馬車から降りた夫婦が心配そうにルーシィを見ている。


「一人って……どこに行くんだい?」
「この先にある街です。……どうかしたんですか?」

「あぁ、そこの街か。それならよかった。…いやいや、引き留めて悪かったね。」
「………あ!待ってください、街じゃなかったら何かあるんですか?」


ルーシィの返答に安心して馬車に乗り込む夫婦に、ルーシィはあせって聞き返した。
なぜか胸に焦燥感が広がる。早鐘を打つ鼓動を抑えようと手で胸を押さえながら、ルーシィは夫婦の返答を待った。


「実は、街から北の方角に行ったところにある山岳地帯で、異変が起きてね。
私達はその中の山で暮らしていたんだが、住み辛くなって知り合いの所に行く途中なんだよ。
街より北には、絶対行ってはいけないよ、お嬢さん。」

「………北………山岳?………異変って一体何があったんですか?」

「数日前からひどい山火事でね。以前からこの季節になると度々起こることだから、始めの頃はすぐにおさまるだろうと
思っていたんだけど、日を増す毎にひどくなって………今では山一つが燃えていて、熱風や灰もすごくて……。」

「……山…火…事……。」

「大量の水を用意してもおさまるどころか酷くなる一方で、どうやら…普通の炎じゃなかったみたいでね、このままでは
私達の住む山にも炎が来るかもしれないし、周りの住民は皆避難したんだよ。今朝に魔導士ギルドに依頼を出しておいたから、
しばらくすれば魔導士がなんとかしてくれるだろうけど……ってお嬢さん!?」


ルーシィは、話の途中にも関わらず走り出した。焦燥感が確信を持って大きく広がっていく。
北の方角。消えない炎。
フェアリーテイルにもその依頼が届いているとすれば………。
ルーシィの足が疲れを訴えてもつれる。数日間歩き詰めの状態で、急に走り出したからだ。
言うことを聞かない自身の足に、叱咤するように、気合をいれるようにルーシィは掌で強く叩いた。


皆が来る前に。

早くナツを。

皆より先にナツを。


ルーシィは、汗が目に入りしみるのにも気に留めず、乾いた喉に空気を何度も押し込んで、焦燥感に赴くまま走り続けた。

大好きな人や大切な人に幾度も拒絶され、離れていかれるというのはどれだけの痛みになるのか。
何度か父の気を引こうとして何度も傷ついた幼い頃の記憶をルーシィは辿る。
でもそれでも会いたいと思えば会いに行くことはできた、一緒に暮らしていたのだから。

いつも一緒にいることが当たり前になっていた、ナツとハッピーが別れも告げずに手の届かない所に行ってしまった。
でも拒絶されたわけじゃない。……勝手に、いなくなってしまっただけだ。
同じような痛みを感じることができても、ナツのものは、きっと、それ以上に痛い。

ルーシィにはその痛みを想像することしかできない。
ナツに会っても何もできないかもしれない。
でも、もし、ナツに会えたら、何て言えばいい?


≪まだチーム解散してないんだから!≫

じゃあ解散するって言われて終わるかもしれない。

≪一緒にハッピーを探そう!≫

いや、ナツはもうハッピーを探す気がないかもしれない。

≪どうして一人で出て行ったの!?私も一緒に……≫

違う、これじゃきっと……だめだ。


どの言葉もナツに届かない気がする。
ギルドの皆が去っていくナツに向けて思いの丈を叫び続けた。
それでもナツは振り返らなかった。
皆が怒っても、泣いても、笑顔を向けても、ナツの表情は変わらなかった。

なのに、何て言えばいい?

迷いを残したままルーシィは走り続ける。このままぶっ倒れてしまうのではないかという危惧がめぐってきた時、
燃え盛る山岳が見えてきた。まだ距離はあるのに熱風で肌がチリチリ痛む。
何日も消えないその炎の中心には、きっとナツがいる。ルーシィには確信があった。
しかし、生身で行けば、そこに辿り着く前に命を落とすだろう。

ルーシィはトランクケースを開け、奥にしまいこんだ鍵を取り出した。


「………………。」


そこにはもうない、獅子宮の鍵を思い浮かべながらルーシィは感謝の念が届くように祈る。


(やっぱり、ロキがくれた情報はナツの情報だった。)

(ありがとう……ロキ。これ以上は私一人の力じゃナツに近づけない。だから……)

(ロキが言ってくれたように。今は鍵を使わせてもらう……ね。)


ルーシィは、腰にぶら下げた水筒を開け、宝瓶宮の鍵を水筒の水につける。
久しぶりの魔力解放。






手が震える。






ルーシィは鍵を強く握りなおし、振りかざした。



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