堕ちた先の世界 [ 4 ]

獅子宮の星霊の申し出に、ルーシィは何も言えずに息を詰まらせた。
決意が揺るぎそうになる。獅子宮の星霊が言うように問題が大きくなる前に罪を償わせるべきだとも思う。
自分のやり方が100%正しいという自信もない。

でも、ナツが出て行った時に何もできなかったことが、悔しくて、もし次の機会が与えられるならナツを助けたいと願った。
ナツをあのままの状態で、裁くために評議院に連れていこうとはどうしても思えない。

せめて、もう一度、ハッピーと一緒になって私を困らせていた頃のナツに戻ってくれたら――――。



(私は、ナツにもう一度笑ってほしいだけなのかもしれない……。)

(これは自分のエゴかもしれない……でも、どうしてもこの気持ちを変えられない。)



それでもルーシィは獅子宮の星霊の決意に押され、何度も葛藤で揺らぐ。

フェアリーテイルに入り、魔導士になった頃よりは、随分戦いに慣れ、強くなっていたとしても
エルザやグレイの方がずっと強いし、ナツとの付き合いもずっと長い。
それにナツが心を痛めているであろう原因はイグニールとハッピーなのだ。
きっと、イグニールとハッピーじゃないと意味がない、絶対に代わりにはなれない。
もしギルドの皆より先にナツに会うことができたとしても、何を言ってもナツの心には届かないかもしれない。
またナツを暴走させることになるかもしれない。

自分には何もできないかもしれない。
それでも助けたい気持ちが変えられない。

黙り込み、逡巡するルーシィをしばらく見つめていた獅子宮の星霊は、その沈黙を破った。


「僕がルーシィの星霊でいる以上、ルーシィの動向や居場所が、鍵を通してわかってしまう……。
フェアリーテイルにルーシィの動向がばれてもいい?皆はルーシィをナツの時と同じように、力尽くでもフェアリーテイルに引き戻そうとしている。
僕がルーシィの居場所を教えれば、……すぐに皆が来るよ。」

「………」

「今回だけは……僕はルーシィの味方になれない。すぐにでも罪を償わせることがナツのためだと思ってる。だから、」

「………」

「……契約を解除してくれ、ルーシィ。……僕がルーシィの邪魔をしないように。」


促すように強くルーシィを見る獅子宮の星霊。
ルーシィは、その視線を受け、震える唇を噛み締めた。

胸が痛い。
こんな形で一番心強い、信頼している星霊を失うのか。

獅子宮の星霊との出会いや共に乗り越えてきたこと、一緒に闘って笑ったことを走馬灯のように思い出しながら、
ルーシィはノロノロとトランクケースに向かった。開けたトランクケースの奥に手を忍び込ませ鍵の感触に久しぶりに触れる。
いくつもある鍵の中から手に馴染む獅子宮の鍵をすぐに手に取れたルーシィは、獅子宮の星霊に向けて、その鍵を差し伸べた。

何度も何度も手に取ってきた獅子宮の鍵。
何度も何度も助けられた。

これが最後なら、今までの感謝を心の限り伝えるべきだ。


「…………ロキ、あの、」

「ルーシィ。星霊魔法を使わなくなっているのはフェアリーテイルを辞めたから?」

「…え………わ、わからない。そうかもしれない。」

「それは、フェアリーテイルの皆への、罪悪感……?」

「………………わからない。でも、色々思い出すのが……辛くて……」

「……もし、本当に危険が迫った時はそれでも僕達を頼ってほしい。
ルーシィが僕達を大事にしてくれたように、僕たち星霊は、ルーシィを大事に思っている。
もう、僕は、力になれないけれど……僕も、ルーシィのことはずっと……いつも想っているから。」

「……………」

「今まで、ありがとう。ルーシィは、僕が出会った星霊魔導士の中で、断トツで一番だった。」


泣きそうになりながら優しく微笑む獅子宮の星霊。自身の鍵を持つルーシィの手を両の掌でやさしく包み、そのまま持ち上げる。
獅子宮の星霊の手の中からこぼれるルーシィの指に獅子宮の星霊は祈るようにそっと口付けた。


早く言わなきゃ。私も。ありがとうって。


ルーシィの中で色々な想いが駆け巡る。気持ちが定まらず、動けない。
強い決意と迷いの周りを囲む大きな喪失感。それがどんどん大きくなってルーシィは何も言えずに固まった。
ただ獅子宮の星霊が口付けている自分の指を見つめることしかできない。

しばらくすると、獅子宮の星霊はルーシィの指からゆっくりと唇を離しながら、ごく小さな声で呟いた。


「……このまま北の方角だ、ルーシィ。」

「……………え……?」


獅子宮の星霊が何を言ったのかわからず、ルーシィは聞き返す。
しかし、獅子宮の星霊はそのまま空間を歪ませ消え行く中で、僅かに微笑んだだけだった。









このまま北の方角。








それは獅子宮の星霊が最後にくれた、確かな情報だった。



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