堕ちた先の世界 [ 3 ]

「ルーシィちゃんお疲れさまーもう出てくれていいよー!」
「はーい!…じゃ、お言葉に甘えて、今日はこれで失礼しまーす。」

「…あ!ちょっと待った待った、忘れてたよ今日の分の給料。………はい!」
「あ…いつもすみません。無理言って住み込みで働かせてもらっているのに、日払いにまでしてもらって…。」

「なーにいいさ!愛しの彼の情報がいつ来るかわからないからねぇ!」
「…いっ…いと!??…違います!!そういうのじゃないんです!!」

「はっはっは、それにルーシィちゃんみたいなべっぴんな子が来てからお客も増えたしねぇ!」


ルーシィは旅の資金のために、街を移る毎に色々な仕事をしていた。
今回、辿り着いたこの街では酒場のウェイトレスをしている。
肝が据わった恰幅の良い女主人が経営しているこの酒場に情報収集のためにやって来たルーシィは、
この賑やかな雰囲気や人の良い女主人を慕ってやってくる客達を見て、すぐにここで働きたいと志願した。

ここにいると、少しだけフェアリーテイルにいた時のような気分になれる。
人が温かくて、賑やかで、まるでフェアリーテイルのような場所だった。

それから何日も働き、毎日酒場に来る客からナツの情報を得ようと試みていたが、一つも手に入らずにいる。
ここだけじゃない、どの街もそうだった。
もしかして、ナツは追手が来ることを考えて、人目に触れない様に移動しているのかもしれない。
いや、例えナツの居場所がわかったとしてもナツは鼻が効く。
近づけばルーシィの匂いに気付いて逃げていくかもしれない。
それでは、会うことなんて不可能だ。見つけようがない。

ルーシィは途方に暮れかけていた。









仕事を終えた後、女主人から与えられた部屋へと戻り、シャワーで汗を流したルーシィは、
部屋の隅に置かれたトランクケースを見つめる。
その中の奥に、いつも身に付けていた鍵を隠すように入れたままだ。
ギルドを出てから一度も星霊魔法を使っていない。

なぜだかわからない。ただ使う気になれずにいた。
魔導士として生きていくのを辞めてしまったかのように。

いつも一緒にいてあんなに仲良かったはずなのにルーシィに何も告げずに行ってしまったハッピーとナツ。

その喪失感に押しつぶされそうになりながら、ルーシィは部屋に一つだけある椅子に座り机に額を直に押し付ける。
いつもルーシィはそうやって少しの間、目を瞑る。

涙は出ない。

ナツが、もう一度笑ってくれるようになるまで、ルーシィは何があっても泣かないと決めた。
だけど、そんな決意がなくとも涙は出ずにいた。


(きっと……、苦しすぎて涙が出ないんだ……。)

(私の心、止まってしまったみたい。働いている時は笑えるんだけどな……。)

(……一人でいると最後に見たナツを思い出してしまう……。)


皆が必死で、ナツを止めるために炎に立ち向かって行った時、ルーシィはナツに立ち向かうことも、鍵を向けることもできなかった。
どんな時でも表情豊かで生き生きとしていたナツが、瞳に色を宿さず冷たく堅い表情で皆を攻撃した、あの顔が忘れられない。
その、痛みを抱えているのであろうナツの瞳を見ることも、そのナツに攻撃することもできなかった。
ただナツの様子に衝撃を受けて、ナツの様子を見ていることしかできなかった。
ナツが行きたいなら、好きな場所に行かしてあげたい、ルーシィはそう思った。




でも今はすごく後悔している。


どうして一人で行かしてしまったのか。





「………………ナツ。…………どこに……いるの。」

「……ルーシィ。」

「!!?」


一人でいたはずの部屋に突然響く自分以外の声。
ルーシィは反射的に体を起こし、声が聞こえた方向に体を向ける。


「……ロキ!?」
「ごめん。本当はルーシィが呼んでくれるまで出てくるつもりはなかったんだけど……。」

「ロキ、何しに、」
「皆、心配している。帰ろう、ルーシィ。」

「…………ごめん。帰って。」
「あんな置手紙だけで皆が納得すると思ってるの?ギルドに戻って皆と話した方がいい。」

「……帰って!」
「ナツを探すつもりなんだろ!?それなら皆と一緒に探したほうが!僕たちだって」

「一人で探したいの!評議院にナツを連れて行きたくないの!帰って!」
「………………。」

「私は……皆と同じやり方でナツを助けたいんじゃない……!評議院に連れて行くことがナツを救える事だって思えない!」
「ルーシィ、ナツを早く連れて行かなければ、ナツの立場がどんどん悪くなるんだ!わかってるだろ?」

「わからない!!あんな状態のナツを捕まえて裁くより、もっと違うやり方で………!」

「不可抗力の行為だったとしても、罪を償わなきゃだめなんだルーシィ!!
罪を背負ったまま生かされるのは…………ルーシィが思っているより辛いことなんだ………!」


獅子宮の星霊は、かつて自身の罪に押し潰されそうになりながら生きていた頃を思い出し、その想いを重ねて声を荒げた。
獅子宮の星霊の苦しそうに歪む瞳を見たルーシィは、声を震わせる。


「ロキ…………。それでも…私は、皆を敵に、回しても、ナツを……」

「………僕もフェアリーテイルの魔導士なんだよ、ルーシィ。」


獅子宮の星霊の言葉にルーシィは一瞬瞳を揺らしたが、唇を堅く結び、強い光を宿した瞳を獅子宮の星霊に真っ直ぐに向けた。


「私は、私のやり方でナツを助けに行く。評議院に連れて行かせない!皆と……敵対してもいい!ロキが………
フェアリーテイルの魔導士として私の邪魔をするなら、」

「わかった、ルーシィ。言わなくていい。」

「………………ごめん、ロキ。」


ルーシィの言葉に獅子宮の星霊は傷ついたように視線を外し、ルーシィの言葉を遮った。握っていた拳は震えている。
二人の間に沈黙が広がる。
しばらく、獅子宮の星霊の様子を黙って見つめていたルーシィに、獅子宮の星霊は、視線を外した状態のまま静かに告げた。



「ルーシィ………、僕との契約を解除してくれ。」



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