暴走するジェミニ [ 10 ]

ナツは、真剣な面持ちで、場をわきまえずにズカズカとルーシィに歩み寄る。
浴槽に手を掛け、そのまま湯に浸かるほどの勢いで身を乗り出し、ルーシィの顔を覗き込んだ。

「…ルーシィ!!!聞け!」

ルーシィは、先ほどのハッピーの発言の後のこの状況に、軽くパニック状態に陥っていた。
近づいてきたナツに対し、手当たり次第に浴槽の湯を投げつける。

「で………出てけぇええーーー!!!!」


体が熱い。顔も熱い。
そしてこんな時に限ってハッピーの言葉が何度も過ぎる。


(違う違う違う違う!!好きな相手の入浴中に堂々と入ってこないでしょ普通!!?)


ナツは目を強く瞑り、文句を言わずに真正面からルーシィの攻撃を受け入れていた。
そのナツの様子にルーシィは思わず攻撃を止めてしまう。
そして、浴槽の湯が減り胸が露になっていたことに気付き、慌てて浴槽に深く浸かりなおした。


「「……………」」


攻撃が止まったことに気付いたナツは、ボタボタと頭から全身にかけて水を滴らせながらゆっくりと目を開ける。
ルーシィは、肩まで深く湯に浸かり顔も耳も赤く染め上げていた。


「………気ぃ済んだか?」
「……ジェミニは来てないし何も聞いてない。早く出てってよ。」

「…そ、そうか、あ!でもジェミニがこの先オレのことで何か言い出しても本気にすんなよ!?」
「わかったからとりあえず出てって!」

「……んだよ。短気だなー。」


安心したからか先ほどまでの焦りはどこかに消え、ナツの目は半眼になる。
そのままナツは腰を下ろし浴槽に顎をのせて、そっぽ向くルーシィを観察するように見た。


「何やってんのよ…早く出てってよ。」
「…もうちょっと待てよ。」

「…なんで待たなきゃいけないのよ。てゆうか、うら若き乙女の入浴中に堂々と入ってくる神経をなんとかしなさいよ。
私じゃなかったら警察に突き出されてるわよ。」
「うら……なんだよそれ。お前、全身真っ赤だぞ。大丈夫か?」

「っ!誰のせいで!!…ってか見るな!!」


ナツの発言にルーシィは見られることに半分諦めがついてしまい、裸のままだがナツを一刻も早く外に出そうと勢いよく立ち上がった。
すると急激に視界が回り、体が傾く。


「……ぁ……れ………」


吐き気と眩暈で意識が遠のき、床に倒れようとするルーシィの体をナツは無言で支えた。


「……ルーシィ?…………………やっとのぼせたか。」


ナツは、自身のせいで浴槽から出れずにのぼせ上がってしまったルーシィを胸に抱き寄せ、そのまま大切なものを扱うように持ち上げた。
ドタドタと部屋からこちらに近づく足音が聞こえる。
やっと来たか、とナツは浴室の戸を見る。
それが壊れるように開かれるのは直ぐだった。


「ルーシィー!!」
「……遅いよナツ。」

「な!…ジェミニか!?てめぇ!…………てか………オレの姿でルーシィに何した!!?」


びしょ濡れの自分が素っ裸で気を失ったルーシィを抱きかかえている状態を見た本物のナツは、思わず色々な妄想と不安が駆け巡り、赤面する。
それに対し、ナツに扮した双児宮の星霊は、笑顔でナツに近づき、腕の中のルーシィをナツに押し付け、渡した。


「大丈夫だよナツ。ナツを完全転写して接しただけだから。ナツがするであろう行動しかしてない…
ナツが想像してることはしてないからね。…てか想像できるんだね。」

「……な!………なん…じゃ……なんで ………」

「ルーシィお風呂でのぼせちゃったんだ。(ボクがのぼせさせたんだけどね!)体冷やして水飲ませてあげて。じゃあね!」


ナツの様子に腹を抱えて笑いを堪えながら星霊界に戻ろうとする双児宮の星霊。
しっかりとルーシィを抱えながらも慌てて行かせまいとするナツ。
ナツをチラリと見た双児宮の星霊は、ナツの頭にある疑問に答える。


「レオが怒っちゃって…仕方ないからレオの協力でナツをルーシィの傍から追い出したんだよ。
レオがどうするつもりかは知らなかったけどナツの思い通りにさせないって言ってた。」
「………は?」

「でもハッピーと喧嘩して反省したみたい。よくわかんないけど。
ナツと魚の取り合いしてた時、レオが急に現れてボクを連れ去ったじゃない?
星霊界で、もういいから手を出すな邪魔するなって言われたよー。」

「へぇ、……手を出すなって………で、なんでこんな状態に…?」


ナツはルーシィを抱く腕に力を込め、目が据わる。口元が引きつる。
その様子を見て双児宮の星霊はニヤリと笑みを浮かべる。


「大丈夫だよー。言ってないし。最後にちょっとだけルーシィと遊びたかっただけ。」
(…なーんてねー。レオは良くてもあのまま引き下がるなんて消化不良だよ。)



――― この後この状況で、ナツとルーシィがどうするか ―――


―――――――― 向こうでゆっくり観察させてもらうよ。



「もうちょっとルーシィと遊びたかったけど…。早く帰らないとまたレオにばれて怒られるから帰るね。
ボクの代わりにちゃんとルーシィを介抱してね。……あ、ルーシィに、もっとジェミニを呼べって言っておいてー。」


くふふと笑いを堪えながら楽しそうにする自分の姿をした双児宮の星霊は、
きゅるんと音をたてて消える。ナツは始終、口を引きつらせたままだった。


「…うぅ…」


腕の中のルーシィが小さく呻き声をもらす。それに気付きナツは慌ててルーシィの様子を窺った。
ベッドに寝かせた方がいいのか、その前に服を?
いや、体が濡れているから先に体を拭かないと…オレが?
ナツは想像して顔を赤らめる。
ルーシィを抱えたまま意味も無く右往左往する。


(いやいやいや、拭かなくても乾きゃいいんだろ乾きゃ!)


そう思いついたナツは、ルーシィを抱えたまま全身に炎を纏った。
炎が揺らめく紅い視界の中、ルーシィの体が乾いたか確認する。
ルーシィは、苦しそうに顔を歪めていた。
それを見たナツは慌てて炎を消し、自分の行動に愕然とする。


(しまった!!体が燃えなくても、今のルーシィを熱くさせたらだめだったぁぁぁ!)


ナツは一瞬、グレイの顔が浮かんだが、急いで頭を振る。
ベッドへと走り、突っ伏したまま寝てしまっているハッピーの横にルーシィをそっと置く。
そして、ナツは着ていたベストを脱ぎ、ルーシィに被せた。


「…水だ水!!」


自分のせいでさらにルーシィを悪化させてしまったかもしれないと思い、ナツは慌てていた。
急いでコップを取り水を入れ、飲ませようとコップをルーシィに近づける。


(……しまった!!!!……飲めるわけねぇよな……)


手の中のコップを眺め、ナツは固まる。飲ませるには………いや、そんなことしたらまた…ナツは、視線をコップからルーシィの顔へと移し、
またコップへと視線を戻した。



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