インストールされた超魔法 [ 11 ]
「ちょっ……ナっ………!……っ!!……っ!!!」
「……っぷ………っくっく……く」
「……く……ぐふふ…」
「………?……???」
「あ゛はははっはははっルーシィおもしれーーー!!」
「あ、だめだよナツー!!……オイラ我慢してたのにー!」
ルーシィの目の前には、腹を押さえて床をバンバンと叩きながら笑うナツと、
口に噴出しそうな空気を目いっぱい詰め込んだままプルプルと震えて笑うハッピーがいた。
「……ハァ…ハァ…あー腹痛ぇ……あれ…?ルーシィ…?」
「ブフフッ…?ルーシィー?」
二人にニッコリときれいな笑顔を見せるルーシィが見える。…………と思った瞬間視界は暗転した。
その頃、その隣の部屋で術式魔法を組み込む作業を取り組んでいたフリードは、隣から聞こえる声にピクピクと青筋をたてていた。
どうも集中できない。なんなんだこの二人は。
この部屋にルーシィ達が放り込まれる前からそこにいたフリードは、二人の会話が全て聞こえていた。
色恋沙汰には興味ないのだが、こうもじれったいとさすがに腹が立つ。
男心がわからないルーシィと女心がわからないナツ、そしていい感じになったかと思えば、タイミングよく入ってくる邪魔者達。
フリードは、作業の手を止め、席を立ち、壁を睨んだ。
(やめた。ルーシィ、ナツ………………………一生そこにいろっ!)
解読に時間がかかることを見越して、何日も術式魔法をかけ続けるだけで魔力の消費が激しいからという言い訳で、
フリードは部屋の外に魔法が出ないようにする術式魔法をかける作業を放棄した。
「大丈夫ですよ、マスター。ルーシィを止める事ができるナツがいますし。
ハッピーもいるので大丈夫でしょう。…あぁエルザ、心配ない…壁越しに二人の会話を聞いていたがそんな雰囲気は微塵もなかったから。
一つの部屋に何日いても、あの二人は変わらない。」
いい雰囲気があったことは伏せ、そう告げたフリードだったが、本当に何日一緒にいてもこのまま二人が変わらなければどう説教を……
いや関わるのも面倒だからナツを一発殴ろうと思うフリードであった。
それから数日が過ぎた。
あの一件以来ハッピーとナツは、部屋の隅に追いやられていたが、ルーシィに古文書の存在を考えさせないよう言葉巧みに翻弄させたり、
ボケを繰り出して突っ込ませたりと、毎日ルーシィを疲れさせていた。
そして、そのおかげで夜になるとぐっすりと眠ってしまうルーシィだったが、ある日の夜中、ふと目を覚ましてしまう。
そのままもう一度寝ようと寝返りを打つと、反対側の壁の隅に敷かれた布団の上に座り、こちらを眺めていたナツと目が合った。
「……おー。起きたかルーシィ。」
「ナツも、目が覚めたの?」
ルーシィはベッドから起き上がり、テーブルに置かれた水差しに手を伸ばす。
二つのコップに水を注ぎ、一つをナツに手渡した。ナツはそれを受け取り、ゆっくりと口に含ませる。
ルーシィは、窓際に座り星を見上げた。その日はいつもより星が多く瞬いて見えた。
「…寝ないのか?」
ナツは、星を見ているルーシィに近づき、横に腰をおろして言う。
「なんだか目が覚めちゃった。ねぇナツ、星がきれいだよ。」
「…ほんとだ。……………なー…ルーシィ。」
「ん?なに?」
「今度から隠れて別々で仕事するのはやめようぜ。オレ達チームだろ?」
「…今回のこと、怒ってるの…?でもあれは、」
「怒ってるんじゃない。 嫌なんだ。知らないところで危険な目にあったりいなくなったり………心配になる。」
ナツは、今はいない育て親のイグニールのことを重ねて言っているのだろうか。
しかし、瞳はまっすぐにルーシィを見ていた。
「約束してくれ。オレも約束する。」
星霊魔導士は約束を破らない。それをわかって言っているのだろう。
ナツはルーシィを見つめたまま片手を差し伸べた。
(この手はなに?)
ルーシィは心の中でふと考える。
(………まぁいっか。ナツとはこれからも一緒に仕事をしていくんだから。)
「わかった。約束するよ。」
ルーシィは、差し伸べられた手に手を重ねる。ナツのぬくもりが伝わった。
とても温かく心地いいそれをもっと感じようと思い、ルーシィは目を閉じる。
ハッピーの寝息が聞こえる。それ以外は何も聞こえない。静かな夜だ。
………コツン
ルーシィは額に何かが当たったのを感じ、目を開けた。ナツの瞳が間近にある。
鍾乳洞で落下していく時に見た、貫かれるような鋭い炎の瞳ではない。
ルーシィには、とても優しく温かい瞳に見えた。
二人はそのまま動かず、時間だけが過ぎていく。
ふと、ナツが顔の角度を変え近づいた。
「………!!っわっ!ナツ!……もう、いい加減私で遊ぶのやめてよ!!」
「…………………。」
「………ナツ?」
「…………………………寝る。」
「…え。…う、うん……。」
ナツは、スッとルーシィから離れ布団に入り、すぐに寝息を立て始めた。
何か変だとルーシィは感じたが、眠気が襲ってきたため深く考えるのをやめてベッドに潜り込む。
そしてこの日が、隔離された一室で過ごす最期の一日になった。
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