インストールされた超魔法 [ 8 ]

「ルゥーーシィーーー!!」
「ナツー!!無事かーーー!」


ルーシィは皆がこちらに降りてくる気配を感じ、さらに慌てだした。
この状態を皆に見られる訳にはいかない。ルーシィは、めいっぱい力を込め手足をばたつかせようとする。

ッゴッ!


「っっっっっっっ!!!!!!!!!」


突如ナツが声にならない声を上げて、仰け反るようにルーシィから離れた。ルーシィは何か良からぬものを蹴ってしまった気がしたが、今は深く考えたくない。
とりあえず、離れてくれたことに安堵しながら痛みが残る手首を擦った。


「ルゥーーーーーーシィーーーーーーー!!」


ハッピーがものすごいスピードで降りてきた。

「ハッピー!」

ルーシィはハッピーを受け止めようと手を伸ばす。ハッピーは伸ばされた手を確認するとうれしそうにルーシィの胸に飛び込んできた。


「おいナツ!!!」
「ナツ!…………ルーシィ?正気に戻ってるのか!??」


後に続いて降りてきたグレイとエルザはハッピーがうれしそうにルーシィの胸元にいるのに気付き、驚いてルーシィを見た。


「…うん。とりあえず戻ってると思うんだけど…」


そうルーシィが答えると、うずくまった状態で何故か唸っていたナツが顔を上げた。


「………なんで、戻ったんだ……?」
「しっ知らないわよ!!!!?」


ルーシィは思わず、先ほどの感触を思い出して、全身が熱くなるのを感じた。





ナツ達の攻撃によって鍾乳洞にある鍾乳石は跡形も無くなってしまい、大きく抉られ茶褐色の岩肌をみせていた。
鍾乳洞とはいえなくなったが、更に広くなったその空間の奥にある抉られた穴から一行は這い出るように脱出する。


「ルーシィ。…よく生きていたね。オイラ途中で気失っちゃって…なんでこうなってるのかわからないんだけど…」

「…ロキのおかげで目がやられていたからな。とにかくどこにいても当たるように四方八方に氷の槍をぶっ放してやったぜ。」
「えええぇぇ!??よくないよっ!!!ルーシィとオイラに当たってたらどうするんだよっっ!!」

「…ん?ハッピーなんて的の小さいもんに当たるわけねぇだろ?」

「………えええぇぇぇぇ!!???グレイがひどいよぉーー!」

ウァーンとルーシィにしがみつくハッピーにグレイが慌てて、冗談だバカと付け加える。

「安心しろ、ハッピー。グレイはお前の周りにちゃんとシールドを張っていたんだ。
 私もそのおかげで存分に力が使えた。ルーシィはナツが守ると、信じていたしな。」


エルザはそういってナツに微笑みかける。ナツは、ニカっと清清しい笑顔見せ「おう!もちろんだ!」と答えた。
その様子にルーシィはほんの少し頬を赤らめ、そしてこのチームの一員で本当によかったと心から思い、ハッピーを抱く両腕に少しだけ力を込めた。

ルーシィの様子が戻ったのを確認した一行はすぐにギルドに戻り、マスターに報告すべきだと思っていたが、
ルーシィから受けた属性を持たない不可思議な魔法によって思うように体に力が入らないでいた。
引きずるようにして、言う事のきかない体を前へ前へと進めていく三人の仲間の後ろで、
ルーシィは申し訳なさそうに見、その胸に抱かれたハッピーは一つの疑問を投げかける。


「…あれ?そういえばロキはどうなったの?」
「「……………………。」」

「グレイ?エルザ?」

「…………………まぁ、あいつは星霊なんだし、」
「…大丈夫だろう」


グレイとエルザの答えにハッピーは目を見開いて尻尾を震わせる。
星霊界にいるであろうロキを想い、天を見上げたハッピーは、空一面にロキの爽やかな笑顔を見た気がした。


「ルーシィ」


いつのまにか隣に来ていたナツがルーシィに声をかける。


「な…なによっ」


ルーシィはナツの顔を見た途端、詠唱を止めるために仕方なくやったのであろうナツの行為を思い出し、顔を赤らめた。

(落ち着け私!!あれは仕方なかったのよ!!)

ナツは何も言わず、ジィとルーシィを見詰めるだけだ。
ルーシィは上がっていく心拍数を抑えようと無意識にハッピーを抱いている腕に力を込めた。


「……いつもの、ルーシィ…だよな?」
「……へ?」


確認するかのように、尚もジロジロとルーシィを観察するナツ。


「そっ…そんなに見ないでよぉ…」


いつもなら激しくツッコミをしている所だが、皆を傷つけた罪悪感からか、手を出す気分になれない。
ルーシィはドキドキと高鳴る心臓を抑えたかったのだが、ギルドに着くまで終始監視とも思える視線に耐えることになった。

ナツ達と共にギルドに戻ってきたルーシィは、皆の歓声に迎え入れられる。
そして、事の発端である古文書がハートフィリア家所有の土地から発見されたものだと聞き、
ルーシィは皆にその古文書を見てから正気に戻るまでに思い起こされた、今は亡き母との思い出の記憶を皆に説明し始めた。


「おそらくその古文書は…お母様が…。私小さい頃にお母様の部屋から続く隠し部屋を見つけてしまって、そこにあった古い本を見ていたんです。
確か、表紙に青い石がはめこまれた黒い大きな本で、その本を見てから今回と同じように文字と図形が…頭に………」


思い出しながら話そうとしたためか、ルーシィの頭の中にその文字と図形が浮かびあがる。すると、言葉が途切れてしまった。
説明しようとする言葉ではなく、頭に浮かぶその文字を言葉にしてしまう……だめだ……戻っていなかった…………?
絶望感が襲い、音と視界が遠のいていく中、ルーシィは両手を掴まれ唇に自分の物ではない唇が押し当てられた感触を感じた。


「……………………………………………」


ギルドに流れていた時間が止まった。皆、その光景に目が離せずピクリとも動かない。
ルーシィは、全身に血液がまわり熱くなる感覚と共に意識が急浮上した。


「……っっっにすんのよぉぉぉぉぉぉ!!!?????」








その時ハッピーは、今まで数々と見てきたルーシィのツッコミのレベルがあがる様を見た。
目に見えないハイキックがナツの顎にクリティカルヒットしたかと思えば、そのまま頭頂部に踵落としが炸裂する。

ハッピーは、地に崩れ落ちていくナツの姿をスローモーションで眺めながら、なぜか言葉では言い表せない感動を感じ、瞳を潤ませた。


「ルーシィが!ルーシィの!!見た!!?……これだよグレイ!!」


久しぶりに見ることができたルーシィのツッコミに感動したハッピーは、グレイの髪の毛を引っ張り頭を左右にガクンガクンと振らせる。
それより前の出来事の方が重要だったのだが、そのハッピーのテンションにつられ、グレイは、目を見開いたまま自分の意識とは別のことを口走った。


「……おぉ。やっぱ…ルーシィは…こうじゃないとな……。」


そのグレイとハッピーの言葉を機に、ギルドの皆は徐々に止まっていた時間を取り戻し始める。


「ってぇ……ルーシィ、戻った、か…?」


ルーシィの攻撃で、意識を手放し仰向けで倒れていたナツは、ゆっくりと起き上がりながら観察するようにルーシィを見て言った。
その様子に先ほどの行動の意味を理解し、ルーシィは更に顔を赤らめながらナツに抗議した。


「……おおおぉぉおお乙女の唇に何てことするのよっっっ」
「…だって、さっきだってそれで元に戻ったじゃねぇか……」

「……そそそそそうみたいだけどっ…もうちょっと……躊躇とかなんか………しなさいよっ!!」


ギルドの皆は二人の掛け合いに、今もギルドに戻ってきた時もルーシィが正気を取り戻していたのは、ナツの行動の結果だと気付く。
マスターは何かにふと思いつき、ルーシィに声をかけた。


「ルーシィ、昔に同じようなことがあったんじゃな?」
「…ぁ…は、はい!」

「その時には何か手は施したかの?」
「マ…お母様が、私に……どうやったのか小さかったのでわからないんですが、何度か魔法をかけてたようでした。
これでもう大丈夫だと…それで次の日からは正常に……でも今までずっとそのことは忘れてて…」

「ふむ!…忘却の魔法じゃ!」
「…え?」
「マスター、それは一体…?」

エルザが、問いかけたところでマスターは試すようにもう一度ルーシィに問いかける。


「ルーシィ。古文書の中身はどんなんじゃったかの?」
「…え……………」


途端に思い浮かぶ文字と図形。自分の意識が再び遠のくのを感じる。ナツが慌ててルーシィの手を掴んだ。
ルーシィはその次のナツの行動がわかり、再び顔に血が昇るのを感じながら、慌ててナツの顔面にパンチを繰り出す。
その様を見てマスターは満足し確信を得たように、膝を威勢良くポンと叩き立ち上がった。


「これより、ルーシィを一旦隔離する!…ナツ!お前も一緒じゃ!」

「えぇ!?」

「…………へ?」



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