インストールされた超魔法 [ 7 ]

鍾乳洞の中には、ルーシィとルーシィを守るように立ち塞がる獅子宮の星霊、
そして纏っていた炎のおかげか、唯一攻撃が効かなかったナツが立っていた。


「………ナツ。無理だ。」

「……………。」

「……ルーシィ同様、僕も何かの意思に動かされているんだ…。気を張らないと…自分の意思が効かなくなる………
……ルーシィの中で……感じたことのない魔法を感じる……きっと…それが…僕達に影響を与えて………」



ロキは、ナツのために言葉を紡ぐが、手には光を纏い始めていた。
向けられた瞳には、今まで見たことのない殺気がこもっている。
ナツは、ロキを見据えながら、背後で二つの震え起き上がる気配を感じた。


「…ナ…ツ……」
「……………ナツ……」


仲間の意志は伝わっている。
自分がすべきこともわかっている。
ナツはゆっくりと獅子宮の星霊の後方で虚ろな瞳で詠唱を止めないルーシィを見詰めた。



――― ルーシィーー!! ―――










遥か遠くから微かだけど、確かに自分を呼ぶ声が聞こえた。
胸の真ん中を貫くようなその声に意識が急浮上し、視界が広がる。
広がる衝撃と落下していくような浮遊感の中、ルーシィにはロキに迫り来るグレイとエルザの攻撃が視界に入り、
すぐ目の前に広がる炎の瞳を見た。

いや……本当に落下してる………?
何がどうなってどこに向かって落下しているのか、ルーシィにはわからない。
つたない感覚ではあったが先ほどまで鍾乳洞の地面に足をつけていたはずだ。

落下を止めようとどこかに手を伸ばそうとする。
しかし、自分の意思とは逆にルーシィは鍵を振りかざしていた。


「開け!……!!」


途中、鍵を持つ左手に衝撃が走った。強く何かに弾かれ左手から鍵がこぼれ落ちていく。
目の前に覆いかぶさり同じ速度で落下していく炎が、左手の動きを封じこんでいた。



――― 攻撃を ――― 違う! だめ! ―――



浮遊感が止まり、強い衝撃が全身を襲った。
しかし衝撃とは別になぜか痛みはさほど感じない。
落ちるところまで落ち、共に付いてきた岩くず達がガラガラと音をたてて周りに散らばっていくのが見える。
左手が掴まれた状態であると認識したルーシィはすぐさま右手で腰にある鞭に手を伸ばした。
しかし、腰に届く前に右手は囚われ、壁に強く打ち付けられた。

すぐ近くで岩くず達が転がる音が聞こえる。


ピンク色の髪が、額をくすぐる。



――― 詠唱を ――― だめ ……! ―――



自分の意思ではない意思に突き動かされ、ルーシィは唱え始めた。
ルーシィの頭の中にある意味を持った言葉と何かの図形が、言葉を紡ぐことによって目の前で実体化する。
その工程をなすすべも無く、見ることしかできないルーシィは、目の前にいるナツが息を吸い込んだのを感じた。


そして、一瞬の間の後、ルーシィの口は塞がれた。





「「………………」」


ルーシィは、頭の中が徐々にクリアになり自分の感覚が戻ってくるのを感じた。
それと同時に、唇から伝わってくる感触がダイレクトに伝わり、事態を冷静に捉えられず、パニック状態に陥る。


「………んーーー!??……ん゛ーーー!!」


目の前に覆いかぶさるナツを振り払おうにも両手がしっかりと固定されていて振り払えない。
当たり前だが、ナツもルーシィを止めようと必死だったのだ、ルーシィが必死の力を出してもびくともしない。


「んーーー!!!………っな……………つ!!…………」


塞ぎこまれている口からなんとか声を出そうと、ルーシィが顔を左右に振りながら唇を解放しようとする。
それでも強く押さえ込まれていて、はずしてもはずしても唇が重なり合ってくる。
しかし、ルーシィが必死で続けるその動きに、ナツはうっすらと目を開けた。

至近距離で、目が合う。


(もう大丈夫だから!離して!!!!)


ルーシィが瞳で訴える。ナツは薄目のまま見詰め返してくる。


「んーーー!!!………………っぷは!!!!」


ルーシィの必死の行動のおかげか、唇だけが解放された。
しかし、ルーシィが再び詠唱を始めればすぐに押さえ込めるよう至近距離のまま、ナツはルーシィの様子を窺っていた。


「ナツ!もう大丈夫だから離して!」
「…………ルーシィ、か?」

「そう!だから離して!」


疑心暗鬼のままナツは恐る恐る押さえ込んでいたルーシィの手首から手を離した。
上から、誰かが攻撃を繰り出したような大きな音が響いている。
それに合わせて小さな岩くずが降り落ちてくる。
ガラガラと音が鳴り響く中で、ルーシィは呼吸を整えようと胸に手を当てた。


「……はぁ……はぁ………私、……どうして………」
「………………。」

「あの古文書を見た時……頭の中で……文字が……」


ナツに自分に起きたことを説明しようと、ルーシィが言葉を紡いでいると、急に古文書の文字と図形が頭の中に広がった。
そのまま意識が持っていかれ、自分の意思に関係なく詠唱を………………


「……んん!??…………んーーーー!!!?」


唱え始めたところで再びナツに押さえ込まれ、唇を塞がれた。
ルーシィはすぐに感覚が戻り、大丈夫だと訴えるために声を出す。
しかし、ナツはルーシィの目を見たまま離さない。
ルーシィは戻っていなかった。次も離したら大丈夫だという核心がないからだ。

押さえ込む、払い除けようとする、の攻防が何度も続く中、上空で仲間の呼びかける声が聞こえた。



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