「火の国って遠いし、飛んでてもつまらねえんだよな……うん」

昨夜はあのまま椿を抱きしめながら眠りについていた。椿も眠れていたらしく、朝起きても変わらずくっついていた。昨夜の自分の気持ちを思い出すと急に照れ臭くなったが、何も気にしていない様子の椿を見ると一人で照れて馬鹿くさいと感じた。
身支度し終え、昨日同様鳥の造形物に乗って火の国方面へ向かっていた。火の国方面は特に見るものもなく、ただ木々ばかりでつまらない。しかも数日かかる。その上目的はただの情報収集だから尚更だ。これで尾獣狩りとかなら気合いが入るもんだが。

「そういやお前、感知はどの程度のもんなんだ?うん」

後方を振り返り、問いかけた。オイラとしたことが、肝心の感知能力を確認するのをすっかり忘れるところだった。とは言っても、特に感知を必要とする場面でもないが。椿は無表情のまま口を開いた。

「感知、と言っても強いチャクラを持った者の場所を感知出来る程度のもの。暁の役には立たないかもしれない」
「強いチャクラ……いや、そうでもねえぞ。暁の目的はまず、尾獣集めだ。尾獣は強いチャクラを持つと聞いてるから、探す時には役立つと思うぞ、うん」

暁の目的は始めにリーダーから聞かされていたから、何となくは理解しているだろう。今回はただの情報収集だからあまり必要なさそうだが、いざ尾獣狩りをする時には居場所を捉えるのに役立つかもしれない。

「で、その感知能力は村にいた頃から使っていたのか?」
「使っていた……というよりは、使われてきた。遊女になってからは頻度も減ったけど」
「……そうか」

つまりは利用されてきたと言うことだろうか。椿の無感情の理由の一つとして、それも関係しているのかもしれない。そもそも遊郭でだって何故働いていたのだろう。親が賞金首にかけられるくらいの凄腕の忍だというのに、困る何かがあったと言うのか。聞きたいことはたくさんあるが、聞いたところで答えてくれないのは既に学んだ。まずは椿に心を開いてもらいたいところだが、一体どうすれば開いてくれるのか。
頭の中でごちゃごちゃ考えていると、椿の視線を感じた。

「デイダラの掌の口は、禁術?」
「えっ、口……?」

急な問いに驚いてしまった。どうもコイツの質問は予測出来ないせいか、心臓に悪い。それでもオイラについて聞いてくる辺り、全く興味がないわけでもないのだろうか。

「ああ、これは爆遁っつー血継限界だ。……っていうのは建前で、お前にだけ教えてやるが、本来は禁術だ。オイラが里抜けした理由でもある」
「……」
「更なる芸術を追求する為に、どうしても手に入れたかった能力だ。結果的に里の奴らからは追われる羽目になっちまったし、苦労もしたが後悔はしてねえ。うん」
「そう……」
「……椿は、どう思う?うん」

忍でもなかったら、この能力は気持ち悪いと思われても不思議ではない。コイツは嘘を吐くような奴じゃないのはわかっているから、素直な意見が聞きたいと思った。例え罵られても、椿なら不愉快に感じないだろうから。
椿はオイラの掌へ目を向け、少し考え込むような様子を見せたが、すぐにオイラへ視点を変えた。

「これがあなたの芸術の一つで、欲しかった能力だったのなら手に入れる事が出来て凄いと思う。自分に真っ直ぐで、目的に向かって追求し続けられるのは……なかなか出来ることではないから」
「へへ、そう言ってもらうと嬉しいもんだな、うん」

心のどこかで、椿なら罵るような事はしないだろうとわかっていたんだろう。だからこんなことを聞けたんだと思う。案の定その通りで、オイラ自身を認めてもらえたみたいで何だか嬉しかった。

「椿にはオイラみたいに芸術とか、追求したいようなもんはねえのか、うん?」
「……あったらきっと、全く違った人生を送れていたのかもしれない」
「うん?」
「私には、自分の意思も、選択する余地も与えられていなかったから。だから、そんなものある筈もない」

そう言い切った椿の顔は、変わらず無表情だがどこか悲しげに見えた。要は自分の意思がない……いや、持てない環境だったのかもしれない。それは遊女だったからなのか、それ以前の話なのか。きっとこれ以上教えてはくれないだろうから、黙って聞いている事にした。

「……そうか、お前も苦労してきたんだな、うん」
「……そんなことはない」
「隠すことないだろ。オイラには本音で話してくれ、うん」
「わかった……」

了承した椿を嬉しく思い、つい笑顔が溢れてしまう。その時だった。椿が何かに気づいたようで、反応した。

「デイダラ、誰か来る」

何者かの反応を感じ、椿は冷静に教えてくれた。全く気づくことのなかった気配に、慌ててその方向を向いた。どうやら下からオイラ達をつけてきていたようだ。

「……アイツは、」

左目のスコープでその姿を捉えた。その姿を確認すると、げんなりした。



To be continued..





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -