朝目覚めると、隣で眠っていたはずの椿の姿がなかった。昨夜は身体を交えたというのに、朝になるといないなんて。こんなに虚しい朝があるだろうか。
気怠い身体を無理矢理起こし、任務の為の準備を簡単に済ませ部屋を出た。部屋を出た途端、偶然にもサソリの旦那と遭遇してしまった。

「よぉ、昨日は熱い夜を過ごせたか?」
「なっ、何言ってんだよ朝から!うん!」
「その反応は図星か。ククッ、わかりやすい奴だな」

朝一そんな会話を吹っかけられ、予想していなかった内容につい焦ってしまった。ったく、一気に頭が冴えたぞ。やっぱサソリの旦那は親父だな、うん。
旦那はオイラの背後を確認すると、首を傾げた。

「あの女はまだ寝てやがるのか」
「いや違えよ、オイラが起きた時にはとっくにいなかったんだ、うん」
「どこ行きやがったんだかな……まぁいい。今日からアイツと遠征任務だろ?精々楽しんで来いよ」
「ちょ、それどういう意味だよ、うん!」

不敵な笑みを浮かべながら旦那は行ってしまった。また良からぬことを想像したに違いない。つくづく親父を相方に持つと苦労させられる。そんな事より椿を探さないといけないな、とロビーへ足を運んだ。

「……うん?」

ロビーから何やら話し声が聞こえてきた。朝からメンバー同士が賑やかに会話する事なんて滅多にないんだが……一体誰だろうかという好奇心から、扉を開いた。

「なぁ、デイダラちゃんより俺の方がいいって。一回だけでも試しにシようぜ?黙ってりゃバレねーからよ」
「無理だと先程から断っている……」
「いいじゃねーか、金ならやるからよ」
「オイコラ飛段!何してんだ、うん!」

扉を開いた途端に飛段が椿を誘っている、まるでナンパのような光景に目を疑った。その光景が目に入った瞬間、何だか無性に腹が立ちすぐに制止すべく室内へズカズカ入っていった。

「げっ、デイダラちゃん。早いじゃねーの」
「今日から任務だからな。……じゃなくて!朝から何してんだって聞いてんだよ!うん!」
「何って、椿を誘ってたに決まってんだろ?昨日たまに借りに行くって言ったじゃねーか」
「了承した覚えは一切ないけどな、うん。つか、何で椿も一人でここに来たんだよ?」

椿へ目を向けると、綺麗な顔はやはり無表情のままだ。それでも昨日のオイラ専属だ、という約束はきちんと守っていたらしい。何も感じていないようだが、約束は守る奴なんだと少し感心した。しかし気になるのは、朝から何故一人でロビーに来たのかという事。別にダメではないが、これといった用もないなら無意味でしかない。ましてやこんな男(飛段)みたいなのもいる訳だし危険だっていうのに。

「リーダーに呼ばれたから行っただけ。通り道のこの部屋を通ったら話しかけられたから」
「リーダーに?朝からなんの用だったんだよ、うん?」
「デイダラには関係ない」

ぴしゃりと言い放たれ、流石のオイラも若干凹みそうになる。隣でゲハハと笑う飛段が心底憎らしい。

「しゃーねえ。椿を誘うのは今度にするかァ。これから任務だろ?頑張れよ」

そう言い放ち、飛段はロビーを後にした。最後の頑張れよ、は確実にオイラではなく椿に向けられたものだとよくわかった。それに対して特に返す事なく、椿はオイラに目を向けた。

「任務へはもう行く?私はいつでもいいけど」
「ああ、そうだな。オイラももう出れるから、ぼちぼち行くとするか、うん」

任務の準備はし終えていたし、言葉通り出発なんていつでも良かった。それより朝からリーダーに呼ばれたというのが若干気になったが、あれだけ冷たく返されては聞いたところで無駄だろう。渋々諦め、出発の為に外へ足を運んだ。






「これは……?」

アジトの外へ出て早急に掌の口から粘土を吐き出させ、鳥の造形物を完成させる。軽く宙へ浮かせれば、印を結び拡大化させた。毎度ながらに惚れ惚れするアートに、椿は不思議そうな様子だ。無理もないか。忍でもないし、ましてやオイラの芸術作品を見たこともない。部屋に散らばってた粘土は目にしただろうが。

「オイラの芸術作品だ。これに乗って空中移動する。ほら、乗れよ。うん」
「……わかった」

先に鳥の造形物に乗って椿に声をかける。忍でもないし、空中移動するなんて怖がるかと思ったがそんなことはなかった。一切動じることもなく、平然とした様子でオイラの後ろに乗っていた。そのまま宙に浮かび、空中を移動しても椿の表情は一切崩れない。怖さ知らずと言ったところだろうか。
昨夜の「感情はないから、何も感じることはない」と言っていた事が頭を過った。本当に感情がないのだろうか。そんな人間いるのか?感情がないって、人間じゃない。まるで機械みたいじゃないか。それをコイツに問いただした所で、答えが返ってくるとは到底思えないけどな……。

「デイダラ、どこへ向かっているの?」
「えっ……、あぁ、土の国方面だ。まずはオイラが里抜けした後にいた場所に用があるからそこへ寄って、それから火の国方面へ行く。うん」

ごちゃごちゃ考えていたせいで、急な問いかけについ驚いてしまった。今回の任務は大した内容でないものの、移動距離が長い為に遠征任務となっている。一人気兼ねなく行けると思ってたんだが、そう上手くはいかないもんだ。まぁ、丁度いい性欲処理機付きだと思えばいい話なんだが。遊郭に行く金も節約出来るしな。うん。……いやいや、本来は感知がどの程度のもんか知る為でもあったんだよな。

「つーかお前、こんな鳥に乗ってて怖くねえのか?忍でもないのによ、うん」
「私に恐怖なんて感情は存在しない」
「またそれかよ……うん」

そういやセックスしてる時、反応こそ皆無だったがしっかり濡れていた。だから不感症とかそういうものではないのだろう。感情がないって、育った環境とかそういう理由があるのだろうか。頭の中で考えた所で答えは出ないが。

しばらくの間、大した会話もせず空を移動していた。



To be continued..




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -