13

 

「デイダラ、何か言いたい事があるの?」
「え、何で……」
「そんな顔をしているから」

まるで本心を見抜かれているかのような、椿の真っ直ぐな瞳を向けられる。
椿が好きだと伝えたいが、伝えない方がいいのかもしれない。けど、気持ちを押し殺したまま、この先一緒にいられるのか。かと言って伝えて椿を困らせてしまうのは、不本意だ。どうすれば正解が見つかるのか、頭の中で考え込むが、そう簡単に見つかるものではない。

「……言いたい事があるなら隠さないで言ってほしい」
「…………」
「私の過去を話せたのは、デイダラが初めてだった。私はこの先、あなたに隠し事はしない。私では、頼りないだろうけど……話したい事があるのなら、隠さずに伝えてほしい」
「……椿」
「デイダラが私の過去を知りたいと思ってくれたように、私だってあなたの事が知りたいから」

その言葉に驚き、顔を上げた。椿は表情こそないものの、心なしか頬をほんのり赤く染めていた気がした。もっと明るい場所だったら、はっきりと顔色を読めたのに。何だって雨天で、しかもここが洞窟なんだと悔やまれる。
椿がそんな風に思うようになってくれていたなんて、本当は声が出るんじゃないかというくらいに、驚いていた。何事も無関心で、無感情だったコイツが、少しずつでも感情を露わにするという事を取り戻しつつあるのだろうか。そんな椿に、隠し事なんかしてはいけないのではないか。そう結論が出たら、答えはただ一つだった。

「……オイラ、椿に伝えたい事があるんだ。けど、それを伝えたら、お前を困らせちまうかもしんねえ。せっかく少しずつ心を開いてくれてるのに、それを閉ざしちまうかもしんねえ……それでも、聞いてくれるかい?うん」
「……どんな事でも、それがデイダラの気持ちなら聞く」

真っ直ぐにオイラを見つめる、透き通るように綺麗な瞳は純粋で、汚れを知らない。本当の椿は、こんなにも純粋な瞳をしていたのか、とつい見惚れてしまう。無意識に椿の頬を、ゆるりと撫でると一瞬だけ、ぴくりと反応を見せた。

「最初は椿の事、無表情な遊女としてしか見てなかった。けど、こうやって一緒にいる内に椿の事を知っていって、もっと知りたいと思うようになった。抱いた後だって、妙に冷めた空気になるのが切なく思うようになった」
「…………」
「ただの仲間なんかじゃなくて、もっと大切な存在なんだと気がついた。常に気にかかるし、守ってやりたくなる」
「……デイダラ」
「ここまで言ったら、もう何を言われるか、わかるだろ。うん?」

頬に触れたまま、ゆっくりと顔を近づけていく。綺麗な椿の瞳がぼやけるくらいに、近くまで。その薄く、色気のある唇にかぶりつきたくなる衝動を堪えながら、緊張で声が強張りそうになりながら、平然を装う事に必死だった。

「……椿の事が、好きなんだ。うん」
「…………!」
「最初は身体ばかりで、酷い事をして悪かったと思ってる。……けど、今は違ぇ。椿を誰にも渡したくねえし、ずっと傍で守ってやりたいと思ってる」
「…………」
「オイラと、付き合ってくれないか。うん?」

身体をゆっくりと離し目を見て伝えれば、椿は余程驚いたのか、瞬きし硬直してしまっていた。そんな椿が愛おしく、つい吹き出してしまう。

「んな反応するなよ、うん」
「ご、めん……驚いてしまって」
「椿でも、そんなに驚く事があるんだな。うん」

一瞬だけ驚きを見せた事はあったが、あからさまに驚いた様子を見たのは初めてだった。オイラに過去の事を曝け出してくれたからか、こんな些細な感情でも露わにしてくれるのが嬉しくて堪らない。余程驚いたのか、椿は何かを言いたげに唇を震わせ、視線が落ち着かない。
やはり困らせてしまったか、と椿から目を背けた。ここで「嘘だ」と言ってしまえば簡単になかった事に出来る。けど、勇気を振り絞って伝えたのだ。嘘にはしたくなかった。それに椿に嘘を吐いたなんて、そんな事実を作りたくなかった。

「デイダラ、私……好きという感情がまだよくわかってないの」
「ああ、わかってるよ。悪いな、困らせちまって。うん」
「違う」
「うん?」
「困ってなんかいない。……寧ろ、嬉しい、の」
「……へ?」

驚きの余り、とんでもなく情けない声が出てしまった。格好悪いにも程がある。椿は若干俯き加減で、唇を噛み締めている。そんなに噛んだら唇切れるぞ、と言いたくなったが、嬉しいと伝えた事が椿にとっては余程勇気のいる事だったのだろう。力強く拳を握っているのが動かぬ証拠だ。

「私は、付き合うというのがどういう事かもわかっていない。デイダラといると安心するし、大切な存在で、もっと知りたいと思う。私が心を開けるであろう唯一の人だと思ってる。……けど、この感情が好きなのか問われると、わからない」
「…………」
「だけど、あなたに好きと言ってもらえて、本当に……嬉しい」
「じゃあ……オイラの事が好きかどうか、確かめてもいいか?」
「え……?」

不思議に思い顔を上げた椿の後頭部に手を回し、ゆっくりと引き寄せて唇を重ねた。
今までセックスはしてきたものの、こうして唇を重ねたのは初めてだった。嫌がる素振りを見せるどころか、目を閉じ受け入れた椿に驚きつつ、角度を変え何度も口付けた。



To be continued..





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