12

 

翌日になり、昨日同様に粘土の鳥に乗り、火の国方面へ向かっていた。今日は雲行きが余り良くないな、と空を見上げて感じた。
昨夜話してくれた、椿自身の話を聞いてから、自然と以前よりも距離が縮まったような気がする。

「デイダラ、火の国の調査って……リーダーが言ってた、尾獣のこと?」
「まぁ大半はそれだな。本当はオイラの大嫌いな男が木の葉出身だし適任だったんだが、生憎他の任務でいなくてな。消去法でオイラに命じられたって訳だ」

大嫌いな男と言うのは、言わずともわかるイタチのことである。どう考えたって適任だと言うのに、他の任務でいないとリーダーに言われていた。命じられた任務を断る理由もないから、受け入れたのだが。

「……一雨来そうだな」

暫し飛んでいると、益々雲行きが怪しくなってきた。雨が降ると粘土の鳥は溶けてしまい、使えない。後方にいる椿へ目を向け、一旦降りて歩く事を伝えると、すぐに頷き納得した。そのままゆっくりと下降していった。もう木の葉は目の前だというのに。

「はぁ、ついてねーな。椿、疲れたらすぐに言えよ、うん?」
「大丈夫。やはり雨だと粘土は溶けるのね」
「あぁそうだ、よくわかってんじゃねえか」

椿のペースに合わせ、ゆっくりと歩みを進めていく。相変わらず椿の靴はヒールが高いが、スイスイ歩けている事が男のオイラとしては驚きだ。それでも躓かないだろうか、疲れやしないだろうか、等と心配になってとても手を繋ぎたくなったが、敵に遭遇しても面倒だとグッとその気持ちを堪えた。
そうこう歩いている内に、ポツリと雨粒が頬を叩いた。ついに降ってきたか、と予め準備しておいた雨具を椿にも渡し、羽織った。

「やっぱ降ってきやがったな、うん」
「そうね。……けど、デイダラと歩くのは新鮮」

オイラの顔を見ながらそう言った椿に、少しばかり照れ臭い気持ちにさせられた。椿は普段通り無表情だが、目つきが優しくなっている気がする。

「っ!」

椿に気を取られ完全に油断していた。オイラを目掛けて放たれたクナイが頬を擦り、皮膚が切れ鮮血が滲んだ。

「っ、デイダラ!」
「はっ、このくらい平気だ。それより椿、怪我はねえか、うん?」
「私は平気……」
「オイラの後ろに隠れてろ、うん」

背後に椿を匿うように隠し、素早く起爆粘土を造り上げれば、小型の鳥となった起爆粘土を敵がいる方面へ向かって放った。

「喝!」

印を組めば、放った起爆粘土は派手に爆発した。初めて見たオイラの芸術に、椿は少しばかり驚いたような様子を見せた。驚かせて悪いな、と声をかけてやりたいところだったが、敵がいるからにはそうはいかない。

「……木の葉の奴らみたいだな。遅かれ早かれ、追っ手が来るだろうからここにいたら気づかれちまう。一旦退くぞ、うん」

せっかくここまで来たのに惜しいが、椿まで危険な目に遭わせるわけにはいかない。雨のお陰で視界の悪いのが幸いし、早急に引き返すことに成功した。

暫し走り、安全な場所まで辿り着いた。丁度よく洞窟があり、一先ずそこで雨宿りをすることにした。雨のせいか、ただでさえ薄暗い洞窟が一層暗く、不気味に感じる。地に腰を下ろせば、椿も隣へ腰を下ろした。

「悪いな、こんな場所しか見つけらんなくて……うん」
「平気。私はデイダラが傍にいるなら、どこだとしても気にならない」
「っ、そ、そうか」

平然とした顔でそんな事を言われ、予想していなかった言葉に、つい動揺してしまった。昨日から、椿は妙に素直に気持ちを伝えてくれるようになった気がする。それだけ心を開いてくれたということだとしたら、どれだけ嬉しいか。

「……それより、その傷、大丈夫なの?」
「へ?あぁ、こんなもん擦り傷みてーなもんだ。何ともねえよ、うん」

先程つけられた頬の傷なんて、すっかり忘れていた。指摘され、思い出して傷に触れれば痛むし、じわりと血が滲んでいたが大したことはない。それでも椿は気になるのか、用意していたらしいガーゼをオイラの傷へあてがい、手当てしてくれた。

「わ、悪いな……うん」
「私がいたから、避けきれなかったんでしょう?デイダラに傷を作らせてしまって……」
「それは違えよ。雨で視界も悪かったしな、一人だとしたって油断しちまってたぞ、うん」

心配するような目を向ける椿に、気にするなと慰めるように頭を撫でた。そんなオイラの様子に安堵したようで、ゆっくりと頷いた。

暫しの沈黙が訪れ、隣へ座る椿へ目を向けた。クリーム色の綺麗な長髪は、薄暗い中でもまるで宝石のように光って見えた。綺麗な目鼻立ちに、一際目立つ胸の膨らみ……って、どこに目を向けてるんだ、と一人で突っ込む。もう椿を性欲処理には使わないと、宣言したばかりだと言うのに。
そこまで考えて、ふとした疑問が脳裏を過った。オイラは性欲処理として、椿を抱きたいのか、と。そうではなく、抱く事で愛し合いたいのではないかと、柄にもない事を考えてしまった。待て待て待て、オイラは椿の事を好きなのか?あんなに遊女としてしか見ていなかったというのに?
以前から感じていた、愛おしく、常に気になる、もっと知りたい……椿は、大切な存在であるという事。この気持ちの意味に今の今まで気が付けなかったが、オイラは前から、椿の事を……

「デイダラ?」

余程変な顔をしていたらしい。そんなオイラを気にかけて、椿は不思議そうに首を傾げながら目を向けた。

「……椿」

気がついてしまった、椿の事を好きなんだと言う事に。しかし気がついたところで、この気持ちを伝えるべきなのか。伝えたところで椿を困らせるだけじゃないのか。ずっと感情を押し殺して生きてきた椿に、好きだと伝えても伝わらないのではないか。

どうするのが正解なのか。気がついてしまったこの気持ちは、押し殺すべきなのか。答えが見つからずに顔を歪めた。




To be continued..





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