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椿は確かに言った。自分の話をしてもいいのではないか、考えていたと。幻聴ではないかと自分の耳を疑った。そのくらい、驚きを隠せない発言だったのだ。一定の壁を作り続け、感情も曝け出す事もない椿が、少しは自分に心を開いてくれたと捉えて良いのだろうか。
先程の苛立ちは、椿のそんな一言でどこかへ飛ばされてしまったようだった。椿へ目を向けても相変わらず表情はないが、心情は以前とは少しだけ違ってきているのかもしれない。だから、そんな風に言ってくれたのだろうと思える。……けど。

「……椿、無理しなくていいぞ。うん」
「何を?」
「ついこの間まで、お前自身の話は一切する気もなかっただろ。それなのにこんなにすぐ、心変わりするか?無理してまで話してほしいとは、思わないからよ。うん」

椿の事を知りたい気持ちは大きいが、無理して話してもらってまで知りたいとは思わない。自分で話したいと思えるようになるまで、待つつもりだったからだ。表情がない事は重も承知だが、無意識に表情を窺うように椿へ目を向けた。焚き火に照らされた椿は、心なしか目を細め穏やかな顔をしているように見えて少し驚いた。そんな顔を見て、芸術的だ、美しい、と感動してしまった。

「大蛇丸に私の事を話されそうになった時から、デイダラがそういう人だとわかっていたから話してもいいと思った。私の口から話をしたいと。だから制止した。決してあなたに聞いてほしくないからではない」
「そう……なのか?ならいいんだが。……じゃあ、聞かせてくれるかい?椿のこと……うん」

椿は目線をオイラに向けると、静かに頷いた。一瞬目を閉じたかと思えば、少しだけ表情を曇らせたような気がした。過去のことを思い出して辛いのではないだろうか。それでも、椿が話すと決めてくれたのなら黙って聞くべきか、そう一人納得し耳を傾けた。

「……私の父は、知っての通り懸賞金をかけられた忍で、村でも上の立場だった。何故懸賞金をかけられているのかは知らないし、興味もなかった。けど、とにかく金にがめつい人でいつも金がなかった。私が遊女にさせられたのも、父の命だった」
「させられた?拒否権はなかったってことか、うん?」
「そう。そもそも私は生まれてすぐ、母親を亡くしているから片親しかいなかった。唯一の親である父から愛情をもらった事は一度もなかったし、いつも感情を露わにする事を禁じられていた。少しでも笑ったり、抵抗したりするものなら酷い暴力を受けてきた。時には罰として、村人に襲われた事もあった。あそこの村人は父の言う事は絶対で、父に逆らう事はなかったから。私だってそう。そんな環境で育っていく内に、自分の意思も、感情もなくなっていった」
「…………」
「大蛇丸に言われた事も、あながち違ってない。私は暁に父や村人を殺されても何も感じなかった。それどころか喜んだのかもしれない。いつ死んでもいいと思ってた私が、皆殺しにされて初めて生きたいと思ったのだから」
「……なぁ、感情を出すのを禁じられてたってのは、どうしてなんだ。うん?」
「……さぁ。ただ、私を嫌いだったという話でしょう。醜い顔を見せるな、と言うのは父の口癖のようなものだった。終いには遊女になって金を稼げ、と。稼いだ金はほとんど没収されてきた。隠れて貯めてきた金を、暁に連れて行ってもらう時に渡した。貯めていなかったら、暁に連れて行ってもらえる事もなく、私はとっくに死んでいたのかもしれない」
「…………」
「この遠征任務の前にリーダーに呼ばれたのも、遊女をしていた理由や本当に賞金首の一人娘なのか、確認されたから。リーダーと側にいた女には、話している」

一通り話し終えた椿は、どこか安堵した様子に見えた。

「椿、本当は感情がないってのは嘘なんだろ?」
「え……?」
「感情がないんじゃない。出さないようにしてた、の方が正しいんじゃないか、うん?」
「……そんなこと「感情のない人間は、そんな顔をしないぞ」

オイラの言葉で、ようやく自分がどんな顔をしているのか気がついた椿は、頬に触れた。涙で濡れた頬に驚いた椿は、信じられないと言った様子でどこか混乱しているようにも見えた。
そんな椿を抱き寄せ、包み込むようにそっと胸に抱き寄せた。

「よく、話してくれたな。今まで必死で押し殺してたんだろ?オイラの前では、そんな事する必要ない。すぐに感情を出せっていうのも無理だろうから、少しずつでも出せるようになってくれよ……うん」
「……デイダラ」
「うん?」
「あなたに抱きしめられていると、よくわからない気持ちになる。けど、とても安心する。デイダラと一緒にいると、私ではなくなりそうになることが何度かあって、怖かった。……それは、感情が露わになりそうで怖かった、そういう事なのだと気がついた」
「そう、だったのか……」

物心ついた頃から感情を出すことを禁じられて生きてきたというのは、どのような気持ちなのだろうか。原因である父がいないとは言え、長年染み付いた感情を露わにすることへの恐怖は、そう簡単に消えるものではないのだろう。だから、オイラといると怖いと感じる事もあったのかもしれない。
抱きしめていると、ふわりと鼻につくような椿の甘い香りに、目を閉じれば幸せに包み込まれるような温かい感覚を覚えた。最初はこの香りに、性欲しか湧き出て来なかったのに不思議なものだ。

いつか、椿が少しでも笑顔を見せてくれる日が来ればいい、来させてみせようと心の中で誓ったのだった。




To be continued..





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