10

 

「大蛇丸に会ったせいで無駄に疲れたな……うん」

あれからしばらく移動し、丁度良さそうな場所を見つけ今宵はそこで野宿することにした。野宿でも構わないと言った椿が、何だか逞しく思える。忍でもない女なら、普通は嫌がると思うが。
手早く薪を集め着火すれば、焚き火の側で椿と並んで腰掛けた。横目で椿の表情を窺うように確認すれば、どこか儚げな瞳は焚き火を映し出していた。一体何を考えているのだろう。考えても、問いかけても、事実を返してくれる事はないだろうが。

「……さて、明日も早いしそろそろ休むぞ、うん」
「……デイダラ」
「うん?」
「今日は私を使わないの?」
「え、どういう…「性欲処理に」

言葉を遮るように、相変わらずの無表情で言い放った。自分を物として扱っているのが、口振りから表れている。先程まで焚き火を映し出していた瞳には、オイラが映し出されていた。
椿には、オイラがどんな風に見えているのだろう。ただの客のような存在なのか、それ以下の下らない男としてなのか、それとも、少しは仲間として意識してくれているのか。しかし、感情のない女という事はわかっている。仲間意識なんか、ある筈がなかった。それでも感情がないなんて、本当は最初から信じちゃいなかった。自分自身がそう思い込みたいだけなのかもしれないが、現に今日、怒りの感情を露わにしていた。感情のない人間が、そんな事をする筈がない。
どちらにせよ、自分を物のように扱う椿に苛立ちを覚えていた。もっと自分を大切にして欲しかった。少なくともオイラは、仲間だから大切に思っている。いつからかはわからないが。自分が大切にしたいものを物のように扱われるのは、例え椿自身でも良く思える筈がなかった。

「……椿」
「何」
「もうお前を、性欲処理として使うのはやめだ、うん」

そう言い放てば、椿は少し驚いたように目を見開いた。しかしすぐに元の無の表情へ戻ったかと思えば、一層冷酷な目をオイラに向けた。

「……もう用済み、そういう事?」
「は……?」
「デイダラにとって私は、性欲処理機でしかない。現にあなたは私を専属処理機にした。それしか必要とする理由もないから。もうしないと言うことは、用済みと言う事を指している、違う?」
「……っ、お前な、いい加減にしろよ、うん」

近くにあった木を思い切り殴れば、衝撃で木屑が飛び散った。流石の椿も驚いたようで、一瞬身体が跳ね上がっていた。しかし、鋭い目つきで睨みつけても、椿は怯まない。怒りが収まらないが、女相手に手を出すわけにはいかない。必死で怒りを抑えていた。

「オイラがいつ、お前の価値は性欲処理でしかないなんて言った?確かに最初は、そういう気持ちもあったから専属だって言ったが、そんなつもりはとっくにねえ。セックスばかりするからか?最初にお前はオイラ専属だって言ったから、そう捉えていたのか?」
「…………」
「オイラは椿の事、仲間だと思ってる。だから自分を物のように扱うお前が腹正しくてならねえ、うん」
「…………」
「お前がどういう事情があって無感情なのかも、自分を大切にしねえのかも知らないが、暁に……オイラと組んだ以上、もっと自分を大切にしろ。性欲処理機だなんて、そんな物みてーな名でお前を認識したくねえんだ、うん」
「…………」
「だから、そんな認識してほしくねーから、性欲処理として使うのはやめだって意味だ、うん」
「……私は、デイダラにとって何?」

言いたい事を伝えると、そんな言葉が返ってきた。仲間だと思っているが、ただの仲間とは違う。愛おしいような、気にかかるような、もっと大切な存在。……だが、その存在の名を何というのか、今はわからない。しかし、椿のことをもっと知りたい。この気持ちは確かなものだった。

「……いや、答えなくていい。でも、人として扱ってくれているのは、痛いくらいに伝わってきた」

何で答えるべきか、頭を悩ませていると、椿は答えを求めるのを拒否した。

「そんな風に扱ってくれる人なんて、今までいなかったから。物として自分を扱う事しか知らなかったから、その事で気を悪くさせたのなら詫びる」
「……いや、オイラこそ悪いな。事情も知らねえのに怒ったりして、うん」
「話していないのだから、知らなくて当然の事。本当は、少し前からデイダラになら自分の話をしてもいいのではないかと、考えてはいた」
「そうか。……っ、うん!?」

予想外の椿の言葉に、すんなりと頭に届かず、少し遅れて馬鹿みたいに驚いてしまった。椿は、やはり表情を崩す事はないが、どこか優しい目を向けていた。驚きを隠せないオイラは、開いた口が塞がらなかった。




To be continued..





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