お砂糖がちくちくする(デイダラ)


 
シリアス / 愛無し / BADEND



「椿は本当にかわいいな……うん」

私の耳元で甘い言葉を囁いてくれる。金色のさらりとした綺麗な長髪が私の首筋を撫でるように靡き、こそばゆさから口元が緩む。その金髪の彼は、私の大好きなデイダラだ。彼はいつだって優しい。こうして私に優しく、まるでお砂糖のように甘い言葉をたくさんくれる。時には甘すぎて胸焼けしてしまうくらいに、彼は優しくしてくれるのだ。きっと彼も私の事が好きなんだと、数日前までは思っていた。
――だけど、違っていた。自惚れもいい所だった。デイダラは、始めから私なんか眼中にもなかったんだ。


ある日、いつも通り甘い言葉をくれるデイダラに一つの我が儘を言った。私の言う事は否定しないし、いつもならお願い事や我が儘な事を言っても叶えてくれるのに、このお願いだけは違っていた。初めて断られてしまったのだ。予想外の返答に驚き、悲しくて涙が滲んだけど、デイダラは気にする素振りも見せてくれなかった。普段は甘すぎるくらいに優しくしてくれるというのに。

「どう、して……?」
「…………」
「どうして、キスだけはダメなの……?いつもは、どんな事でも叶えてくれるじゃない」
「……椿」

デイダラは私の目を見つめた。その瞳は、私を映し出していないような冷たい瞳だった。

「キスは、好きな奴じゃねーと出来ねえよ、うん」

その言葉ではっきりとわかってしまった。いや、伝えられたんだ。「お前なんか好きじゃねえよ」と。
デイダラの瞳を見て、察した。いつも甘やかしてくれて、優しくしてくれるのは、私に対してではなかったのだと。私を映し出していないその瞳は、他の誰かを映し出している事に気がついてしまった。いつからなのかは、わからない。もしかしたら、初めからそうだったのかもしれない。私は、最初から誰かの身代わりにされていたのかもしれない。
デイダラは、ずっと私を見ていない。どんなに甘い言葉をくれても、もう喜べない。悲しくて、苦しくて、胸がちくちくと痛むだろう。お砂糖のように甘いと思っていたデイダラの言葉は、本性を知ってしまうと角でちくちくと攻撃するように、私に痛みを与えた。

「デイダラ……」

あなたは、誰を見ているの?誰に想いを寄せているの?次々と浮かび上がってくる疑問は口述する事を許されず、震える唇を必死で噤むしかなかった。



お砂糖がちくちくする
(いつか私を見てよ、なんて願うのは贅沢なの?)




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