ふにゃりと泣き虫(デイダラ)


 
微甘 / 恋の始まり



どこからか啜り泣くような声が聞こえてくる。時折鼻を噛んでいるのか、雑音のような水音まで。一体どこから聞こえてくるのだろうと、好奇心が勝ったのがそもそもの間違いだった。

俺はそんな間違いにも気が付かずに、啜り声の聞こえる方へと足を運んだ。少し歩いた先にいたのは、丸まってしゃがみ込んでいる椿だった。
こいつは犯罪者だというのに、油断しまくりで一体何をしているというのだろう。しかもただの犯罪者じゃない。S級犯罪者だ。そんな奴がしゃがみ込んで、しかも丸まって泣いているだなんて到底信じられない光景だ。俺は呆れ返ってしまい、無意識に大きなため息を吐いた。それでも椿が顔を上げる気配はない。そんな姿に段々苛立ちが込み上がってくる。椿に至近距離まで近づき、目線を合わせるようにしゃがみ込んで思い切り髪の毛を掴んで顔を上げさせた。優しさがない?仕方ないだろ、これが俺のやり方だ。こんなやり方しか、俺は知らない。

「おい。何こんなところで泣いてんだよ、うん」
「……っ、ひっく、で、いだら……?」
「敵に見つかりでもしたらどうすんだ。お前には犯罪者の自覚はねーのかよ、うん!?」
「だ、って……!」
「だってもクソもねーんだよ、うん!」

視線を合わせながら怒鳴りつけるように言い放てば、椿は更に大きな涙を目尻に溜めた。ぽろぽろと大粒の涙が、透き通るような白い頬を伝って流れていく。女の涙を目の当たりにすれば、流石の俺も動揺を隠しきれなかった。髪の毛を掴んでいた手を離し、再び大きなため息を吐いた。

「……で、何泣いてるんだよ、うん」

別に理由なんて聞かなくたって良かった。椿がどんな理由で泣いていようと、俺からしたらどうせくだらない事なんだろうと察する事は容易だ。なのに、何故か問いかけてしまった。話を聞いてやろうとか、そんな優しさは微塵もない。なのに、自分でも理解出来ぬまま聞いてしまったのだった。

「……、粘土が、」
「うん?」
「デイダラから貰った粘土細工が、っ、なくなっちゃったの……」
「……はぁ?」

一言、泣いている理由を口にした椿は、また思い出したかのように泣き出してしまった。
俺から貰った粘土細工……一体何のことだろうと、首を捻った。記憶を思い返してみると、閃くように思い出した出来事があった。確か、あれは椿が任務に失敗して落ち込んでいた時。俺なりに励ましたけど空元気のままで、どうしたもんかと悩み抜いた結果、強くなるようにと守り代わりに花の形をした粘土細工を作って渡した事があった。恐らくその粘土細工の事だろう。それをなくして、椿はこんな場所で大泣きしていたらしい。……こんな、くだらない事で。あれ、おかしいな。何で俺は嬉しくなっているんだ?椿がこんなくだらない事で泣いているのを知って、何故嬉しいのか……わからない。わからないけど、今の椿を泣き止ませる事が出来るのは、俺だけだと言うことだけはよくわかった。

「……そんなくだらねー事で泣いてんじゃねえよ、うん」
「くだらなくなんか、っ、ないもん、!」
「そんなもん、何個だってくれてやるっつの」
「……え、」
「それになくしたって事は、それだけ椿が強くなったって事だろ。あれはお前が強くなるよう念じて守り代わりに渡したもんだ。それがなくなったって事は、椿はあの頃よりずっと強くなったって事だ、うん」
「そう、なのかな……」
「ま、こんな事で泣いてるようだとまだまだだがな、うん」
「う、」
「……今度は泣かねえように、また守り作ってやるから……いつまでも泣いてるんじゃねえよ、うん」

椿の涙を指で拭ってやれば、少しばかり驚いたように目を丸くしていたが、俺の言葉に気を良くしたらしい。椿は犯罪者とは思えぬ幼い顔で、ふにゃりと笑顔を浮かべた。

その顔を愛おしく思った事に気づいたのは、もう少し先の話。



ふにゃりと泣き虫
(こんなに幼くて、かわいい顔を見せる犯罪者なんてコイツくらいだ)



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