ひとりじゃなくなりたかった(デイダラ)


 
過去捏造 / シリアス甘


ある日の昼下がり。日常と化しているアート制作に取り組んでいた。粘土を見ていると、不意に幼少期の頃を思い出した。

餓鬼の頃から、一瞬の美に目覚める以前から粘土で作品を作ることが生きがいだった。アカデミーでも暇さえあればアート制作をしていたし、そのせいで浮いた存在だったらしく虐め紛いな事もされてきた。ずっと一人だった。それが当たり前だとも思っていたから、平気だと自分に言い聞かせていた。本当は辛かったのかもしれない。餓鬼の頃からオイラは強がりだったし、こんな環境のせいか他人に弱みを見せる事など絶対になかった。

そんなオイラを初めて認めてくれたのは、アイツだったんだ。


「どうしていつもデイダラをいじめるの!?いいかげんにしなよ!」

粘土しか友達がいない根暗なヤツ、きもちわりー、等と暴言を吐かれている時だった。クラスメイトの椿がいじめっ子に向かって言い放ったのだった。椿とは一度も話したことがなかったし、名前しか知らなかった。それにそんな事を言ったら今度は椿が虐められるのではないか、と不安に思った。けど椿は気にする素振りも見せず、ただ強かった。怒った顔で睨みつけ、余りの形相にいじめっ子は狼狽えていた。

「な、なんだよ!こんなやつのことかばうのかよ!」
「そんなことかんけいない!デイダラがなにをしたっていうの!?」

覚えてろよー、とありきたりな台詞を吐いていじめっ子達は逃げていった。オイラはただ驚いていた。女に助けられたのも情けないが、それより勇気のある奴だと。

「ねえ、いつもなにかつくってるよね?」
「う、うん、そうだな……」
「いつもすごいなーっておもってたんだ。ねえ、なにかみせて?」

興味津々に目を輝かせながらオイラの作品を見つめる椿。恐る恐るたった今作った作品を手渡せば、椿は大切なものを扱うかのように優しく、そして一層目を輝かせ満面の笑みを浮かべた。

「すっごーい!ねんどでこんなステキなものがつくれるんだね!」
「ステキ……?」

初めてそんな事を言われた。いつもキモい、だの変な形だ、等と罵られてきた。自分の作品を見て笑顔になってくれた人は一人だっていなかったんだ。
それなのに椿は、心の底から嬉しそうに、興味津々にオイラの作品を見ている。それがどれだけ嬉しいことか。初めて自分の芸術が認められたんだ。

「デイダラ……?」
「っ、あれ、なんで……」

頬に一筋の温かいものが伝って、初めて自分が涙を流した事に気がついた。まさかオイラが泣くなんて、と驚きを隠せなかった。椿は驚いたような様子を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。

「わたし、これからもデイダラのつくったものがみたいな。みせてくれる?」
「……けど、オイラといたらいじめられるかもしれないぞ、うん」
「たとえいじめられたとしても、なかまがいたらこわくないでしょ?」

仲間。その言葉に再び驚いてしまう。オイラと仲間になってくれるというのか。

「だから、これからもよろしくね。デイダラ」

優しく粘土作品をテーブルに置くと、椿は握手を求めてきた。驚きを隠せず、数回目をパチクリさせてしまう。それでも断る術はないと、握手に応じた。すると椿は嬉しそうに可愛らしい笑みを見せた。

「きょうからともだちだよ!わたしにも、ねんどのつくりかたおしえてね?」
「う、うん……!もちろんだぞ!」

積極的にオイラを受け入れてくれた椿の優しさが、どれだけ嬉しかったか。粘土作品に興味を示してくれた事だけでも本当に嬉しくて、仲間になってくれた事も嬉しかった。そこで気がついたんだ。オイラ、本当は一人でいるのが辛かったんだと。芸術を認めてもらいたかったし、仲間が欲しかったんだと。

一人ぼっちが好きな奴なんて、きっとどこにもいない。

あれから月日も経ち、オイラは里抜けした。まるで後を追いかけるかのように椿も里抜けをして、今では暁の仲間として一緒にいる。
あの頃から椿は、オイラにとって大切な仲間であり……今では大切な、彼女となったんだ。もう一人ぼっちになることは、きっとないだろう。


ひとりじゃなくなりたかった
(仲間がいるって、温かくて幸せな事だ)





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