永遠の春を待っていた(サソリ)


 
私がサソリに片思いするようになって何年が経つだろうか。こんなに長く片思いしているのに一向に実る気配がない。サソリは身体も心も人形になったんじゃないかってくらい、恋愛感情が全くない。見せないだけなのか、それは謎めいているけど。早く私にも春が来やしないだろうかと願い続けて何年経ったことか。いっそのことサソリの事は諦めるべきじゃないか、と考えたことも何度もあるけど、どうしても無理だった。サソリに恋する事はやめたくてもやめられなかった。

「おい椿、何を考えている」

私がぼんやりしていたせいか、サソリは若干険しい表情で問いかけてきた。そうだ今絶賛任務中なのを忘れていた。と言っても壊滅した里の調査だからそう難しいものではないけど、ぼんやりしていた私を見てサソリは苛立ったのかもしれない。

「ごめんごめん、ぼーっとしてた」
「はぁ……お前な、仮にも任務中だ。少しは集中しろ」
「わかってるよー……」

集中なんて出来るわけないじゃないか。隣に大好きなサソリがいるのに。しかも何故か今日は本体だし尚更集中力なんてどこかへ行ってしまう。本体のサソリはヒルコと違ってかなりのイケメンで、毎回見惚れてしまう。毒舌なのも捻くれた性格なのも、どれも最高にかっこいい。あの顔面を見たらどんなことをされても許しちゃう。何なら傀儡にしてくれたら一番幸せかもしれないなぁと思って以前頼み込んだことがあるけど、却下された。お前のような傀儡はいらねえ、と。そういえば何で私みたいな傀儡はいらないんだろう。能力的なこと?雑魚はいらないと?首を捻っても拉致が開かないから、そのままサソリに問いかけてみる事にした。

「ねえサソリ。前に私みたいな傀儡はいらないって言ってたけど、何でいらないの?」
「お前な……そんなくだらねえこと考えてやがったのか」
「くだらないかもしれないけど気になったの。ねえなんで?」

サソリは再び溜め息を吐くと、その綺麗な瞳に私を映し出した。

「……お前を傀儡にしちまったら、もう話せなくなるだろ」
「へ?」
「だから、お前から話せる事をなくしちまったらつまらねえだろうが」

それはつまり、私と話していたいということだろうか。そう捉えていいのか。傀儡にしたら傍にはいられるけど、話が出来ないからつまらない、そういうこと?

「サソリ、私と話すの好きなの?」
「戯言を抜かすな、話すのが好きなんじゃねえ。お前の価値観がなくなるって事だ」
「え、ええー……それは酷い」
「……ま、嫌いではないがな」

照れ隠しのように顔を背けながら、小さな声で呟いた。そんなサソリが愛おしくて堪らない。そんな一言でも嬉しくて、私はつい、

「私はサソリが好きだよ」

そう告白してしまった。任務中だということも忘れて。大体今まで一度もした事はなかったのに、勢いってやつだ。案の定サソリも驚いたようで目をぱちくりさせている。顔面が綺麗すぎて本物の人形のようだ。

「好き、だと?」
「……、うん、ずっと。もう何年もサソリのことが好きだよ」
「ああ、だから傀儡にしろだの言ってきたわけか。そうまでして俺の傍にいたいのか」

私はすぐさま頷いた。サソリは呆れたような表情を見せたが、すぐに微笑んだ。あの、サソリが。普段は怒りの感情しか見せないのに微笑んだことに私は驚いてしまった。

「お前を傀儡にしたいとは一度も思った事はねえ。生身のままでいいから、傍にいろ」
「え?」
「生身の人間で傍にいてほしいと思ったのは、椿が初めてだ」
「私、サソリの隣にいてもいいの?邪魔にならない……?」
「邪魔ならさっさと殺してる。俺が殺さずにいるのは、お前が必要だからだ。わかったらずっと隣にいろ」

サソリの言葉にただ驚くばかりだった。ねえ、それって告白だと思ってもいいのかな。何ならプロポーズと捉えてもいいくらいの台詞だった気がするんだけど。そんな事サソリに聞くもんなら、今の台詞自体取り消されてしまいそうだからやめておいた。

「この話は終わりだ。さっさと任務継続するぜ」
「へへ、そうだね」

傀儡じゃなくて、生身のままでもずっと隣にいてもいいだなんて、こんな幸せあるだろうか。私にもようやく春が訪れてくれたのかな。

この春が、永遠に続いてくれるといいのに。



永遠の春を待っていた
(私が永遠に生きられれば、それは永遠の春になるかもしれない)



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