愛さえも私を傷つけた(イタチ)


 
切 / 悲


「これが最後というわけではないだろう?」

イタチは優しく微笑んでそう言うけど、私にはわかっていた。これが最後だと言うことを。これから弟のサスケと闘うという事、それにイタチの身体は病でもう限界に近いという事。わかっているからこそ、イタチの手を離したくない。今離したら、二度と掴めなくなってしまう気がするから。
自然と手を握る力が強くなる。イタチは困ったように笑みを浮かべていた。イタチが困るから、いい加減離さないといけないのに離すことが出来ない。私はこんなにも我儘だっただろうか。忍としてあるまじき行為、イタチは呆れているかもしれない。俯いていると、ふわりと優しい香りが私を包み込んだ。

「俺だってこの手を離したくないさ。だが、生きていたら人間いつかは別れの時が来る。椿だってわかっているだろう?」
「……わかってるよ。でも、愛してるから離れたくないのだって、わかるでしょう?」
「わかっている。先程も言ったが、これが最後のつもりはない。お前の元へまた戻ってくる。だから……」

するりと手を解き、私を抱きしめていた腕も離れていった。イタチの温もりがなくなり、急に身体が冷えたような感覚に襲われる。

「待っていろとは言わない。だが、また会いにくる」

イタチは優しい。優しいが故にはっきりと最後だと伝えてくれない。伝えたら私が離さないことも、我儘にを言うこともわかりきっているからだろう。イタチを愛しているからこそ、笑顔で見送ることが出来ない。愛しているからこそ、こんなにも別れが辛い。瞼に涙を滲ませ、俯いた。
イタチはそれ以上私に触れて来なかった。触れたら私はまたその手を掴んでしまうし、離さない自信もあった。イタチは全てお見通しなんだろう。

「椿、顔を上げてくれ」

こんな涙でぐちゃぐちゃになった顔、絶対に見られたくなかったけどイタチの最後の願いだ。聞いてあげたい。
手で涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。儚げに微笑むイタチが綺麗だ。愛おしい。このままずっと、あなたの姿を見つめていたい。

「そんな顔にさせてしまってすまない。許してくれ」
「……違うの、イタチは悪くないの。私が、私が弱いから悪くて…、」
「椿、愛している」

普段通りの優しい声で、真っ直ぐに私を見つめて囁かれた言葉。普段ならどんなに嬉しい言葉だろう。それなのに今は悲しくなってしまう。まるで永遠のお別れの言葉のように聞こえるから。いや、きっとそうなんだろう。これがイタチの最後の言葉なんだろう。

「……私も、愛しているよ」

愛しているから傍にいてよ。病気を治してよ。そんな戦いに行かないで。私も連れて行って。口に出せない我儘が溢れ出していくが、必死に飲み込んだ。絶対に口に出してはいけない。イタチに更に辛い思いをさせてしまうから。
必死で涙を堪えながら、イタチの目を見て伝えることが出来た。

「さよならは、言わないでおく。またな、椿」
「気をつけて……また、必ず帰ってきて」

私の最後の言葉に返事をすることなく、イタチはただ微笑むだけだった。そして私に背を向け歩き始めた。小さくなっていく背中を、いつまでも見つめていたかった。走って追いかけたくもなった。それでもイタチのことを考えて、何とか堪えることが出来た。
姿が見えなくなって、私は膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。子どもみたいに泣きじゃくった。きっと、涙が枯れるまで続くだろう。

「許せ、椿……これで最後だ」

イタチが私にそう言ってたなんて、聞こえもしなかった。



愛さえも私を傷つけた
(愛しているからこそ、こんなに辛く悲しい感情がある)




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