忍具の整理をしようと食堂を通ったのが間違いだった。誰かの話し声がするとは思ったんだ。それでもオイラは気にすることなく食堂の入り口まで入り込んだ。
声のする方向へ目を向けてみれば、そこにいたのは椿とイタチ。ただ話しているだけじゃない。何やら親密そうにイタチが椿を抱き寄せ今にもキスしそうなところで、驚きの余り持っていた忍具ポーチを落としてしまった。ヤバイ、とすぐに来た道を引き返したからオイラだとは気づかれなかっただろう。

「なんで……」

最近の椿は以前と違ってオイラを避けていた。あんなにもべったりだったくせに話しかけもしやがらねえ。態度にこそは出さないが、ずっと気になっていた。最初はやっと解放されたと清々していたのに、日が経つにつれ苛立ちが込み上げていった。気に食わなかった。あんなにオイラが好きだと言っておきながら急に避けるなんて。
そしてイライラしていた矢先にこれだ。まさかイタチに乗り換えていたなんて思いもしなかった。オイラが椿を嫌いだと冷たくしていたからだろうか。ああ、クソ、面白くねえ…!

「畜生が!」

自室に戻って床に散らばっていた作品をぐしゃりと投げつけた。せっかく造形した芸術作品だったのに気にもならねえなんて。
椿がイタチのものになったなんて信じられない。あいつはオイラが好きだとずっと言っていたのに何で急に?何でよりにもよってイタチなんだよ…!

ぐしゃりと粘土を握り潰す。再び投げつけようとした瞬間、ドアをノックする音が聞こえてきて堪えて返事をした。

「デイダラ、明日の任務だが…何してやがる」

サソリの旦那だった。部屋に散乱した粘土、そして粘土を握りしめているオイラの姿を見て冷め切った表情を浮かべる旦那。軽く溜め息を吐き粘土を床に置き旦那に向き合った。

「…別に関係ないだろ。何の用だよ、うん」

「明日の話をしに来たんだが…」

旦那はオイラの部屋に入りドアを閉めると、床に腰を下ろしオイラの顔を見てきた。穴が空くんじゃねえかってくらいに。

「な、なんだよ!」

「デイダラ、お前なんでそんなにイライラしてんだ?」

原因はわかっている。でも旦那にこんな話をすべきか一瞬悩んだが、誰かに話すことでこの苛立ちも少しは収まるかもしれないなと話してみることにした。
普段だったら絶対こんな話はしないが、自分じゃ押さえきれない程に腹が立っていたから。

「……椿が、イタチに乗り換えやがったんだよ。あんなにオイラに付き纏っていたくせによ…うん。しかもここ最近避けやがるんだ」

「それで腹が立つわけか」

旦那の言葉に核心を突かれたような気持ちになり、顔を歪めた。返事をしないままいると旦那は続けて話した。

「…お前、何で腹が立つかわかってるのか」

「あぁ!?わかってりゃ悩まねえよ!うん!」

つい苛立ち旦那に怒鳴ってしまった。しかし旦那は楽しそうに笑ってやがる。一体何だというんだ。

「お前がそこまで馬鹿だとはな。その腹立つ理由、教えてやろうか」

「え、旦那わかるのかよ、うん!?」

馬鹿と言われたことにはムカつくが、理由を教えてくれるという言葉にオイラは目を輝かせ旦那に向き合った。怒ったり目を輝かせたり忙しい奴だなと自分でも思う。
旦那は仕方ねえな、と口を開いた。

「椿のことが好きだからだ。だからイタチにとられた事が腹立つんだろ。最近避けられてんのが腹立つのもそういうことだ。どうだ、図星だろ」

「……、は、?」

オイラが?椿のことを好き?そんな馬鹿なことあるかよ。あいつがオイラを好きなわけであって、オイラは好きでも何でもない筈だ。今までずっとそうだった。そうだった筈なんだが…確かに旦那の言うことも当たっている。気がする。
あいつが避けるようになってから気になるようになったし、腹が立つようにもなった。イタチにとられたのを知った時は堪忍袋が爆発するかと思った。
嘘だろ…オイラが椿のことを好きなんて。でも確かにイタチにとられたくねえ。オイラの側にいてほしい。この気持ちは間違いない。旦那に言われるまで全く気がつかなかった。

「…気がつかなかった。けど、今更知ったところでアイツはイタチの物になっちまったし、気がつかない方が良かったのかもしんねえな、うん」

「その事だが、椿がイタチの物になったって…多分勘違いだと思うぜ」

「なっ、何で旦那にそんな事がわかるんだよ!うん」

「何でって…アイツはうざいくらいにお前のことが好きだったろ?そう簡単に乗り換えるかよ…よくうるさいくらい、お前の話を聞かされたもんだ」

旦那は楽しそうに口角を上げ立ち上がった。

「ま、椿に告白してみることだな。今まで冷たくして突き放していたバチが当たったんだろ」

「告白…っ、なんでオイラが!」

「別にプライドが許さねえならしなくていいんじゃねえか?その間にイタチにとられても知らないがな」

それは困る。けどオイラが告白するなんて、と顔を顰めた。きっとこのままだと後悔する羽目になるのもわかる。旦那の言うことが正しいのも不本意だがわかる。答えはもう出てしまった。
旦那は楽しげな様子で部屋を出て行った。他人事だと思って(しかもオイラのことだから尚更だろう)思い切り楽しんでやがる。今度は旦那に腹が立ってきたが、旦那がいなかったらこの気持ちに気づかなかったのも事実。今回ばかりは感謝するしかねえな。うん。

「つっても告白って…」

一体どうすりゃいいんだ。ストレートに気持ちを伝えればいいんだろうが、未だかつてそんな事をした経験は皆無だ。昔から女は寄ってきたから、まさか自分から告白しようとする日が来るなんて思いもしなかった。誰にも相談するわけにもいかねえし、こればっかりは自分で考えるしかなさそうだ。
深くため息を吐き、オイラはどうすべきか真剣に悩んだ。ったく、こんなに頭を悩ませるなんて任務以外ではあり得ねえってのに、うん。




To be continued..





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