隠れた優しさ(角都)

 
/ほのぼの


角都はただ恐ろしい人なんだと思っていた。いや、最早最初は人だとも思えていなかったのかもしれない。
目つきも鋭いし、マスクで覆われた顔は表情がわからず一層恐怖心を掻き立てる。彼の能力だって人外すぎて最初は驚いたものだ。グダグダ言ったけど、とにかく彼は怖かったってこと。
それでも仲間となった今はそんな恐怖心、どこかへ行ってしまった。全くもって怖くない。…っていうのは、さすがに言い過ぎか。怖い時は怖い。でもそれ以上に良いところも見つけることが出来た。

角都はお金にはうるさいけど、絶対無駄遣いはしない。行動も計画的で一切無駄がなくて、とても頼れる存在だ。何より強くて一度味方として信頼してもらえれば、全力で守ってくれる。案外、優しい一面もあるってこと。

「角都ー少しは休憩しようよー」

今日は珍しく角都と二人でリーダーから依頼された任務をしていた。普段は飛段もいるか、芸術コンビと組まされるかって感じなんだけど。
途中、角都から「換金所へ行く」と強制され付き合ったが、一度換金所へ行ったらとにかく長いのだ。受け取ったお札は一枚ずつきちんと数えないと気が済まないし、新たな賞金首の情報はないか問い詰めていたりと無駄に時間がかかる。こんなこと角都に言ったら半殺しにされるんだけどね!

そんなわけで一回の休憩もなく、ただ歩き続けたりしていて流石に疲労が溜まってくる。だから角都に休憩を提案したのだが…

「このくらいで根を上げるとは、修行が足りていないな」

「だって…今日は朝早くから任務に出たじゃない?朝ご飯も食べていなかったし「飯くらい三日食べなくとも死にはしない」

ひどい。私が話しているのに遮った!
むっすーとむくれると、そこでようやく角都の足が止まった。そして私を見て

「ガキかお前は…。仕方ない、五分だけだからな」

数歩歩き、近くの木陰へ行ったかと思えばそこへ腰を下ろす角都。私は顔を輝かせ小走りで角都の隣へ腰を下ろした。
ほらね?角都はなんだかんだ言ってこういう優しい一面があるんだ。だから私は角都のことが好きになったんだと思う。この気持ちは、絶対に伝えることはないんだけどね…。

「角都は普段休憩しないの?」

「しないな。飛段が休憩すると騒ぐことならしょっちゅうだが、それを引きずってでも先へ行くからな」

飛段…可哀想に。まぁ彼は不死身だから疲労で死ぬことはないだろうけどさ。
確かに角都と飛段で組んだ時、休憩なんてした記憶が一切ない。よっぽどの長期任務だったら流石に休憩するんだろうけど。

角都と二人、木陰に腰を下ろしているだなんて不思議な感じだ。大体並んで座るなんてこと自体滅多にない。思わぬプレゼントをもらったくらい、嬉しくて堪らない。でも、いざ二人っきりになると何を話して良いのやら迷ってしまう。角都は本(かと思いきやビンゴブックだった!)を読み始めちゃうし、あまり邪魔も出来ない。もう見つめているだけでも幸せ!と気づかれないように角都を堪能することにした。

「……おい、椿」

「え?何?」

「何故そんなに俺の顔を見る」

あれ、バレてたみたい。誤魔化すように笑みを浮かべると、返ってきたのは怪訝な表情だった。だって本当のことなんて話せるわけないし。角都が好きだから見てたのーって?いやいや絶対無理!

「お前も物好きなヤツだ」

「え…?」

「大抵の奴は俺のことは怖がって目も合わせようとしないというのに。女で穴が開くほど見られたのは初めてだ」

「そりゃ、最初は私だって角都のこと怖かったけどね?でも今は全く怖くない…寧ろ、」

そこまで言って、しまったと口をつぐんだ。危なく本心を伝えてしまうところだった。伝える気はないけど、こんなタイミングで伝えるなんて論外だ。フラれたら(フラれるに決まってるけど)帰り道ものすっごく気まずくなる…!

「寧ろ、なんだ」

「な、何でもないの!忘れて!」

「ほう、俺に隠し事をするとは偉くなったもんだな。椿?」

角都が私を見ている。たったそれだけで気持ちが昂るのがわかった。というかドキドキが止まらない…!角都がかっこ良すぎるのが悪い。

「…まぁ、お前が何を言おうとしたかなんて聞くまでもなくわかっている」

「……え?」

「お前は何でも顔に出すぎだ。忍なら少しは隠すことだな」

私から顔をそらした角都は、ほんの少し照れた様子でそう言った。
待って、言うまでもなく角都に私の気持ちバレちゃったってこと…!?いや、それよりもっと前からバレていたとか?じゃあ、角都はどう思っているんだろう…って、やっぱ怖いから聞きたくない!でも気になる!

「角都は、私のことどう思ってるの…?」

勇気を振り絞って聞いてしまった。だって、きっと今しか聞けるタイミングはないと思ったから。後悔だけはしたくなかったから。

角都は横目で私を見ると、一言だけ、

「お前は大切な相棒だ」

はっきりそう伝えてくれた。私にはその一言だけで十分すぎる程に幸せで堪らなかった。

満面の笑みを浮かべると、角都もほんの少しだけ目が細くなった気がした。それはとっても優しい目をしていて、やっぱり角都は優しいと再認識した瞬間だった。

そんな角都が、私はやっぱり大好きです。



fin




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -