入れ替わっちゃった!(デイダラ)
/ラブコメ
今日は朝目覚めた時から、なんとなく嫌な予感がしてたんだ。何か悪い出来事が起こるんじゃないかって。
その予感が的中するとは、まさか思わなかったんだけどね?
それは、アジトの廊下を歩いていた時に起こった。
朝ご飯を食べ終え、自室までの道をのんびり歩いていた時だった。
前方からデイダラが物凄い勢いで走ってくるのが見えた。…が、あまりの勢いに避けることが出来ず私は叫んだ。それはもう、ぎゃあああっと色気もなく。
叫んだと同時に私に激突してきたデイダラ。必然と私は床に倒れ込む。いや、突き倒されたと言った方が正しいか。
「椿!悪ィ、大丈夫か!?うん!」
「いったーい!ちょっと、何すんのよデイ……」
デイダラの顔をみて、私は驚きの余り言葉を失った。正確にはデイダラじゃない、目の前にいるのは紛れもなく私だったのだ。デイダラ…いや、私も硬直していた。
え、どういうこと!?と頭の中でパニックを起こす。そこでハッとして自分の容姿を確認した。
掌には唇、長い金髪…そして、胸もない。股間に何か違和感。間違いなく、私はデイダラになっていた。
「「嘘ォォォォ!!?」」
波乱の一日が幕を開けたのだった。
*
まずは冷静さを取り戻さねば、と私とデイダラは一旦デイダラの部屋へと向かった。
そこで改めてお互いの姿と自分の姿を再確認する。間違いなく、お互いの中身が入れ替わっていた。
「ちょ、なんでこんなことに…!?何で私がデイダラに!?」
「少しは落ち着け。いや落ち着いてもいらんねえけど…!こんなこと現実に起こるもんなのか…!?」
デイダラもデイダラでパニックになっている。そりゃそうだ。中身が入れ替わっただなんて…そもそもどうやったら戻るの?
「あれ、オイラ椿になったってことは…」
恐る恐るデイダラは両手を自分の胸元へ、そして胸を鷲掴みにした。ちょっと待って!自分の胸元って、私の胸なんだけど!?
「ちょ、デイダラ何やってんの!?」
「すげえ…オイラ本当に女の体になってるぞ…うん」
興味深そうに胸を揉むのをやめないデイダラ。その頭を容赦なく叩いた。ごめん、私…!
「痛ェ!いいだろ、別に今はオイラの身体なんだからよ、うん!」
「ちっがーう!!紛れもなく私の身体!勝手に触ってんじゃないわよ!」
「…にしても椿、意外と胸でかいのな、うん」
「はぁ!?」
「ほら、普段は衣で覆われてるからぺったんこに見えるだろ?意外だなぁと思って…っ、げ」
私が怒りで震えていることに気付いたデイダラは、焦ったように話すのを停止し「わ、悪かった!うん」と謝罪してきた。うん、でもね?ぺったんこはないんじゃない?
だって小南なんて衣を羽織っていても巨乳だってわかるんだけど。私だけぺったんこって…!っていうか、日頃からどこ見てんのよ!バカダラ!
「…まぁ、一旦保留にしてあげるわ。それより私とデイダラが入れ替わったこと、他のメンバーに知られたら厄介よね…」
「それもそうだな。こうなったら他の奴らにはバレねえようにするしかないな…うん」
「…デイダラ、私の顔で変な口癖言わないでよね」
「なっ、変!?そんなこと言ったら椿だって女口調はダメだぞ!一瞬で怪しまれるから、うん!」
はっ、それもそうか…女口調のデイダラなんて、一瞬で怪しまれるに決まってる。特にサソリ辺りなんて怪しむどころかドン引きするかもしれない。いや、きっとされる。
そうこうしている内に、任務の時間になってしまった。今日はデイダラはサソリと、私は不死コンビと任務の日なのだ。つまりは私はデイダラの姿でサソリと、デイダラは私の姿で不死コンビと任務を遂行しなければならない。(それにしてもややこしい)
「じゃあデイダラ、しっかりやってよね」
「わかってる、うん」
…本当、心底心配だ。そういう私もうっかりしないようにしないと。今は、デイダラにのりきるという第二の任務を遂行しなければならない。
そして私(外見デイダラ)はサソリと任務(壊滅した里の調査)へ向かうことになった。
サソリはヒルコに身を隠している。言っちゃ悪いけど歩くスピードが亀並みに遅い。とにかく遅い。そんなこと本人に言ったら半殺しにさせられるのわかってるから、言わないけどね。
今のところ頑張ってデイダラ口調を真似てるお陰か、サソリは気付くことなく至って普通の態度。このまま気づかれることなく一日が終わればいいんだけど…。
…いや、待ってよ。一日経ったって戻れる保証はどこにもない。本当に戻れるんだろうか?そもそも原因は?まぁ、どう考えたってデイダラが激突してきたせいだと思うけど!
「…デイダラ、何百面相してやがる。鬱陶しいぞ」
低音で突っ込まれた。どうやら思いっきり顔に出てしまっていたらしい。ていうか鬱陶しいって!別に喋ってないんだから良くない!?顔くらい放っておいてよ。
「えっ、あぁ、ちょっと考え事してたんだ…うん」
「ほう、お前が考え事なんて珍しいな。何を考えていた?」
「サソ…旦那には関係ないことだ、うん」
サソリ、と言いかけて慌てて旦那に言い換えたけど、普通に「サソリの旦那」と呼べば良かったことに言ってから気がついて落胆した。
「…まぁいい。ところでだ、今日は起爆粘土の鳥は出さないのか」
そこでハッとした。そうだ、デイダラといえば起爆粘土。移動手段だって鳥に乗って上空移動することも多いだろう。
けど今、中身は私だ。起爆粘土なんて使えない。戦闘にでもなったらどうすればいいのだろう。そんな初歩的なことも忘れていた。
サソリは起爆粘土を出さないデイダラに、そこで初めて疑問に思ったらしい。
「べ、別にいいだろ、ちょっと粘土が足りないんだ…うん」
「…まぁ、別に構わねえがな」
サソリはそれ以上問い詰めることもなく、また沈黙の時間が訪れる。
サソリとデイダラって、普段どんな会話してるんだろう…?私とサソリだったら私がふざけた絡みをして、サソリに冷たく突き放される…というのが日常なんだけど、デイダラがどう絡んでるのか想像出来ない。芸術について語り合ってるとか?ああダメ!私、芸術なんてこれっぽっちも理解出来ない!
でもこのまま沈黙もつまらない…というか何だか気まずい。二人はそれが普通なのかもしれないけど、私は黙ってるのがどうにも苦手なのだ。
ただ無言で歩く(いや引きずる?)サソリに目線を向ける。そもそもヒルコの中に入ってるのってキツくないんだろうか。サソリ自身が傀儡だから何とも思わないんだろうか。普通の人間だったら、あんな密閉空間苦痛でしかないと思う。
…あまりの退屈さに、サソリのヒルコについて延々と考えてしまった。そうこうしている内に目的地へ到着した。
「はぁ、着いたな」
壊滅した里の調査…って言っても、本当に壊滅して時間が経っているんだろうなといった印象を受けた。
「俺はあっちを調査するから、てめえは向こうを調査しろ」
「はいはい、わかったよ、うん」
「…デイダラ、お前やけに素直だな」
「え!?」
「いつもならもう少し突っ掛かってくるだろ。そんなに素直に言うこと聞くとは…」
まさか、何かやらかしたのか。ギロリと私を睨みつけながら問うサソリ。何かをやらかしたというわけではないけど(あながち嘘でもないけど)徐々にサソリに見抜かれている事実に焦る。
「い、いやそんなわけないで、だろ!うん!」
「何か不自然だな…お前。そうだ、お得意の芸術について語ってみろ」
ええええ!!?無理だよ芸術なんて全くもって興味ないんだから!それを語れと?いや無理なんだけど!何をどう語れっていうの!?
「え、あの…っ、そりゃ!芸術は一瞬の美だ!爆発命!うん!」
こ、こんな感じだよねいつものデイダラって。とにかく一瞬の美を愛する芸術家。いつもタラタラ芸術について語ってくるけど、そんなの興味もないから流し聞いてた自分を初めて恨んだ。せめて、ちゃんと聞いていれば今頃…!
「爆発命、ねえ?ククッ、くだらねえな…椿?」
ぎくりと背筋が凍る。確かにサソリは私の名前を口にした。見た目は紛れもなくデイダラだというのに。
「え…っ、なんでわかったの!?」
「はぁ、始めっから気づいてるに決まってんだろ。その仕草、どう考えたって椿なんだよ」
自分では無意識だが、どうやら私にはそういう仕草があったらしい。デイダラはそんな仕草はしない。サソリには最初から気付かれていたようだ。
「…で、何でデイダラの外見になってんだ。変化の術なんかじゃねえだろ?」
そこまで見抜かれていたとは…さすがはサソリ。伊達に歳食ってないわね!
「おい、口に出てんぞ…」
再び睨まれ、しまったと手で口を覆うが手遅れだ。
「…まぁいい。後で覚えておけよ。で、本物のデイダラはお前の中にいんのか?」
「そう…!そうなの!よく気づいてくれたわサソリー!」
思わず抱き着こうとすると(ヒルコだろうが関係ない!)一瞬でかわされてしまった。内心舌打ちすると、サソリはそんな私はお構いなしに考え込んだ様子。
「…ま、入れ替わっちまったもんは仕方ねえか」
考え込んだ様子は本当に一瞬だった。けろっとした様子でそう言い放ったのだ。じ、冗談じゃない!
「ちょっと!他人事だと思って!」
「現にそうだろうが。まぁいい、続きは任務を遂行してからだ」
そのまま騒ぐ私を放置し、里の調査に行ってしまったサソリ。ほんっと薄情なんだから…!
「仕方ない、私も任務はしないとね…」
サソリ同様、里の調査を開始した。
*
日も暮れて、任務も無事終了した。私とサソリはアジトに戻り、デイダラとも合流した。
今は私とデイダラ、サソリ(もう気づいてるから一緒にいてもいいかということで)でデイダラの部屋にいる。ちなみにサソリはヒルコから出て本体の姿だ。
「…で、無事今日一日終わったけど、これからどうするかだな、うん。つーか椿、即効旦那にバレてんじゃねえかよ」
「仕方ないじゃない!つい…っていうか、サソリの観察力がすごすぎるのよ!」
「観察力…というか、そもそもの原因は俺だからな」
「「……は?」」
サソリのまさかの言葉に私とデイダラは意味がわからない、と言いたげな表情でサソリを見た。
「ちょ、え、どういうこと!?」
「説明しろよ旦那!うん!」
「そんなに慌てるな」
「「慌てるわ!!」」
あれ、中身が入れ替わったせいかデイダラと息が合うようになった気がするよ。別に何にも得しないけどね!
サソリはため息を吐くと、淡々と説明し出した。
「てめえらの朝飯に、俺の新薬入れ替わり薬≠仕込ませてもらった。まさかこんなに上手くいくとは思わなかったがな」
ドラ●もんの道具か!と突っ込みたくなったが、怒られることが目に見えたので黙っておくことにした。
「安心しろ、一晩寝りゃ元通りになる」
「それなら良かった…って!そうじゃない!ちょっとなんてことしてくれたのよ!」
「そうだぞ旦那!今日一日どれだけ苦労したと思ってんだ!何回も口癖出そうになって角都に怪しまれたんだからな!うん!」
でも、てっきりデイダラと激突したせいだと思ってたんだけどなぁ。タイミング的な問題だったのか。それにしても薬を飲まされていたなんて、全然気づかなかった…!
怒りやら悔しいやら色々な感情が入り混じり、おかしな気持ちになってくる。
「ま、戻ることがわかって安心しただろ。安心したところで二人で風呂にでも入ってこいよ。相手の身体は自分で洗った方がいいだろ?」
クックと笑いながら、サソリは立ち上がりデイダラの部屋を後にした。
残された私たちは、また叫ぶ羽目になった。
結局風呂に入らないわけにもいかず、デイダラと風呂に入ってお互い自分の身体は見ないように相手の身体を洗うというシュールなことになったが、仕方ない。
翌朝。無事お互いの身体に戻っており安堵やら感激やらで、また二人して叫んだ。角都やサソリに「うるさい」と怒られたのは、言うまでもないけどね!
fin