変態彼女(サソリ)
/ギャグ甘
「ダメだ。絶対作らねえ」
「えーなんでよー!」
自室にて普段通り薬の調合や傀儡のメンテナンスを行っていると、俺の彼女である椿がノックもなしに入ってきた。そして入ってきた途端にとんでもねえ頼み事をしてきやがった。
俺はその頼みを即答で断ると、案の定椿は騒ぎ出した。どんなに騒がれても怒鳴られても、簡単にいいぜって答えるわけにはいかない。つーか誰が作るか。
「何でよサソリ!女になる薬作って飲むくらいいいじゃん!」
「黙れ変態。俺はそんな薬作らねえし、飲まないからな」
そう、こんな変態的な頼みごとをしてきたのだった。俺が一睨みしながら言ってみれば、ピタリと椿は大人しくなった。やれやれやっと静かになったか。全く、変態女を彼女にすると苦労する。
安堵の息を吐き、俺は傀儡のメンテナンスの続きをしようと休めていた手を動かし始めると、椿は力強く俺の腕を掴んだ。
「何しやがる!」
「サソリが良いっていうまで、この手離さないんだからね!」
「……はぁ」
ここまで来ると怒る気もなくなって反対に呆れてくる。一体なんだってコイツはそんな薬を俺に飲んでほしいっていうんだ。俺が飲んだってキモいだけじゃねえか。
「あのな、俺を女にしてどうしたいんだ?」
「え?それ言ってもいいの?」
「いやいい。やっぱり言うな」
今の一言で嫌な予感しかせず、即答で断った。椿は不満そうな顔をしていたが、気にしてらんねえ。
話が長引きそうだなと直感で感じ、メンテナンスで使用していた道具を簡単に片し、改めて椿に向き直った。
「椿にとったら男になる薬飲めって言われてるようなもんだぞ、普通に嫌だろ」
「え、そうなの?男になるって楽しそうじゃない?」
ああダメだ。どうやらこいつと俺とじゃ、頭の構造からして違うようだ。呆れて一瞬言葉も出なかったが、そこで俺は閃いた。質問を変えてみたらこいつだって理解出来るんじゃないかってことに。
「椿、お前男になったら俺とキス出来なくなるんだぜ?」
どうだ。これで男になったら楽しくないって思うに違いないだろう。近くに会ったペットボトル水を片手に椿にそう問う。
すると椿は、きょとんとした顔をして首を傾げた。
「え、そうなの?」
「そうだ。普通は男同士なんてしねえだろ?」
「サソリ何言ってんの、今の時代男同士だってエッチ出来ちゃうんだよ?」
「ぶっ」
ペットボトル水を口に含んだ瞬間、椿はそんな衝撃的な言葉を口にしたのだった。
危ね、思わず水吹き出すとこだったじゃねえか!
「バカか、俺にそんな趣味ねえんだよ!」
「えー私が相手なのに?」
「男に変わりねえだろ。無理だ」
きっぱりと切り捨てるように言うと、椿は拗ねたようで頬を膨らました。そういうところが心底ガキっぽいと思う。(そんなヤツに惚れてんだろとか突っ込むなよ)
「じゃあサソリは男だったら私を好きにならなかったってこと?」
……何なんだその質問は。ここでイエスと返答したら確実にこいつは拗ねる。拗ねるだけならまだしも、数日キスもエッチもお預けなんてなったら、俺の身が持たねえ。
腕を組み考え、(その間椿はずっとこちらを見ていた)どうにか自分の中で答えを絞り出した。
「……好きに、なってたんじゃねえの。多分な」
椿のどこを好きになったのか。それを問われると、まずは人間性と答えるだろう。無論女であることも大切な条件ではあるが、俺の芸術を理解し俺の性格に難なくつきあえ、何より俺自身こんなに信用出来る人間に出会ったことがねえ。だから、仮にこいつが男でも好きになっていたかもしれない。実際その立場になってみねえとわからないから、多分っていう言葉がつくわけだが。
椿は俺の言葉を聞いた途端に目を輝かせ、何を思ったのか抱き着いてきた。
「もーサソリ好き!大好き!一生離さない!」
「ああ、わかった。出来ればそのセリフは男である俺が言いたかったがな」
軽く椿の頭を撫でてやると、嬉しそうに頬が緩んだのがわかった。
これからも椿との幸せな時間が永遠に続くといい。いや、続かせてみせるがな。
fin