共に(デイダラ)

 

初めて椿と出会った時、純粋に綺麗だと思った。まるで新たな芸術を感じた時の感覚と同じように。もしかしたら椿はオイラの思い描く芸術よりも美しいのではないかと錯覚する程だった。別につき合いたいとかオイラのものにしたいとかそういう感情はなく、ただ儚く美しいと反射的に感じただけだ。
そしてそれは、今目の前に咲いている一輪の花を見つけた感情と似て非なるものだった。

「美しい……が、椿とは違う。椿の美しさは他に例えようがないな、うん」

そう思うものの、オイラはその花から目を離せずにいた。椿の美しさとは違うが、どこか似たものを感じたからだ。椿にこの花をくれてやったら喜んでくれるだろうか。柄でもない事するなと笑い飛ばされるだろうか。自分でもらしくないと思ってる。けど、何故か椿にこの花を渡してみたくなった。どんな美しい顔をするのか、この目で見てみたいと思ったのだ。

「花なんて、柄でもねぇよな」

自分が一番よくわかっている。わかっているのに身体は正直なもので、気がつけばその花を摘んで手に持っていた。椿の美しさとは別物だが、やはりその花は美しかった。なんという名前なのか花に詳しくもないオイラにはわからないが、見ていて飽きさせない、芸術的な花だった。

「デイダラ、何してるの?」

背後から椿の声が聞こえ、オイラは慌ててその花を背中へ隠し椿の方へ振り向いた。

「あれ、今何か隠さなかった?」
「そんなわけないだろ。それよりどうした?こんな場所に来るなんてよ、うん」
「ちょうど任務帰りなの。そしたらデイダラの気配がしたからつい探しちゃった」

椿は端正な顔立ちで微笑を浮かべた。その美しさに思わず見惚れてしまうところだった。オイラの気配を感じたからといってわざわざ探すなんて、変な奴。けどそこが椿の可愛いと思うところでもあるが。
咄嗟に背中に隠した花をどうするか目を泳がせていると、不審に思った椿はオイラの顔を覗き込むようにして表情を伺った。

「ねぇ、やっぱり変だよ?どうしたの?」
「あー……ちょっと、椿に渡したいもんを見つけてな、うん」
「えっ、私に?なになに?」

わかりやすいくらい嬉しそうに目を輝かせる椿。そんな椿を見てオイラも笑みが溢れた。そっと背中に隠していた花を椿の前に差し出せば椿は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに透き通るような綺麗な瞳をオイラに向けた。

「綺麗な花……えっ、この花を私にくれるの?デイダラが?」
「……、そうだ、なんだ?柄でもねぇってか、うん?」
「誰もそんな事言ってないじゃない。……嬉しい、けど」
「けど?」
「もったいないよ、私にこんな綺麗な花。似合わないもの」
「何言ってんだ。こんな花よりお前の方がずっと……」
「え?」
「い、いや何でもねぇ。とにかくこの花はお前に似合うと思って摘んだんだ。受け取らないとは言わせねぇぞ、うん」

照れ隠しも相まってつい強気な言い回しをしてしまった。もっと正直に伝える事が出来れば可愛げがあるというのに、無駄に高いプライドが邪魔をしてそれは困難だった。

「ふふ、デイダラから花をもらう日が来るなんて夢にも思わなかったな」
「オイラも誰かに花を摘む日が来るとは思いもしなかったぞ、うん」
「ありがとう、デイダラ。この花、枯れないように大切にするからね」
「別に……花の命は短いだろ。枯れたってなんとも思わねぇよ、うん」
「……私も」
「うん?」
「私も枯れないように、少しでも永く生きるから」
「……何言ってんだ。お前は永く生きろよ、うん」

美しい花の命は短い。それと同様に美しい椿の命も永くはない。直接聞いた事はなかったが、随分前から察していた。けど忍ならいつ死んでもおかしくはない。椿も、オイラも。明日には、もしかしたら次の瞬間には死んでいるかもしれない。そんな厳しい世界で永く生きる方法なんて果たしてあるのだろうか。
別に永く生きたいとは思わない。ただ最期は芸術的に、儚く美しく散って死にたい。一瞬の美を追い求める芸術家としてはそれが本望であり、現実にさせたかった。そしてそれは椿と一緒ならどんなにいいだろうかとずっと頭の中で思い描いていた。口では永く生きろと言いながら、心の中では椿と共に儚く美しく散りたいと願っているのだ。そんなオイラを知ったら椿はきっと幻滅するだろうが、美しいものとは常に一緒でありたいと願うのは芸術家としての宿命だろう。

オイラと共に散ってくれと言葉にしたら、椿はなんと返してくれるだろうか。幻滅するか、微笑んでくれるのか、それとも……。


fin




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