恋に落ちた犯罪者(デイダラ)

 

オイラのノルマである一尾・守鶴の人柱力、砂漠の我愛羅。そいつを確実に捕獲する為、今日は砂隠れの里へ偵察に来ていた。サソリの旦那は偵察なんざくだらねぇ、そんな事は砂にいるスパイにやらせれば十分だと全く乗り気じゃなく、結局単独で来る羽目になってしまった。暁はツーマンセルで行動するのが通例だというのに、頑固な相方を持つと苦労する。旦那は口ではあんな事言っていたが、故郷にそう何度も足を運びたくないんじゃないかと思う。旦那の過去話なんて聞いた事もないから事情とかそういうものは全く知らないが。
無音の溜め息を吐き空を仰げば、透き通るような青みを帯びていた。汚れを知らない青とはまるで正反対のオイラに、大違いだなと嘲笑った。

一尾の人柱力は風影だと耳にした。偵察とはいえ迂闊な行動は出来ない。
里に侵入する手前まで乗っていた自慢の芸術作品の一つである鳥型の起爆粘土から飛び降り、ここからは目立たぬよう暁の装束も隠し、歩いて行動する事にした。

「しかし……この砂塵を抜けてようやく里に辿り着くのか。長い道のりだな、うん」

本番は空から潜入した方が効率が良さそうだと考えていた時だった。少し先に誰かが立っていた。綺麗な長髪に透き通るような白い肌、おまけにすらりとした華奢な身体……外見からして女のようだが、里にも入らずこんなところで一体何をしているのか。疑問に思ったオイラはゆっくりとその女に近寄った。

「……おい」
「は、はい!?え、どなた、ですか……?」

俯きがちだった女は急に声を掛けられ驚いたのか、身体を震わせ目をまん丸にしてオイラを見つめていた。そこで初めて目にした女の顔は、ぱっちりとした大きな瞳に薄い唇、鼻筋が通っていてまるで人形のように美しい、芸術的な端正な顔立ちをしていて、オイラとした事が思わず見惚れてしまった。

「あー……オイラは任務でこの里に用があってここに来たんだ。お前こそこんなところで何してるんだ、うん?」
「私はこの里の者で……その、今は風影様の命でここの警備を……」

警備?こんなに隙だらけで忍でもなさそうな華奢なこの女が?
この女が嘘を吐いているというのは直ぐに察したが、何故そんな嘘を吐く必要があるのだろう。この女に興味を持ったオイラは騙されたふりをして、続けて話を聞いてみる事にした。

「へぇ、警備ねぇ。お前みたいな女がたった一人でか、うん?」
「そ、そうなんです。風影様も人使いが荒いですよね、あはは……」

女は目を泳がせながら薄ら笑いを浮かべた。あまりにもわかりやすい嘘に思わず吹き出しそうになったが、咳払いをして誤魔化した。

「その風影様は余程手厳しいのな、うん」
「で、でも普段はとってもお優しいですよ。若いのに努力されて、里の者を大切に想って下さっていて……」

一尾の人柱力の事を想い話しながらほんのり頬を赤らめた女に、眉を顰める。何故か不愉快な気持ちを覚えたのだ。

「……ふぅん。お前、風影を慕ってんのか、うん?」
「え!?そ、そんな事は……っ!」

図星だったのか、女は焦ったように否定した。そんな女の様子が益々面白くない。こいつは風影なんかにお熱だって言うのか、くだらねぇ。聞かなければ良かったと後悔しても既に遅い。
気を紛らわせるように女から目を逸らし、深く溜め息を吐いた。そんなオイラを不思議に思ったのか、女から視線を感じた。

「……なんだよ、うん?」
「いえ、あの……私、何か気に障るような事を言ってしまったのかな、って」
「別に関係ねぇよ。で?本当はどうしてこんな場所に一人でいるんだ?お前、忍ですらねぇだろ、うん?」
「な、何を「はじめっから嘘吐いてるのバレバレだからな?これ以上隠そうとするならお前には散ってもらう事になるぞ、うん?」

鋭く刺さるような目で睨みつければ、女は身体を震わせて怯んだ。別に怯えさせたかったわけじゃない。ただこいつが一尾にお熱だって事が面白くなかったからつい物騒な事を言ってしまった。
砂風が吹き、ほんの少しだけ視界が悪くなり女の表情が一瞬読めなかったが、確かに怯えた目の色を浮かべていた。

「わ、私……あなたの仰る通り、忍じゃなくて……その、家出して、ここにいました……」
「家出?」
「家族に裏切られて、行く宛てもなくて……ここで途方に暮れていたところだったんです」
「…………」
「あっ、ごめんなさい。こんな重たい話をしてしまって……」
「いや……。で?これからどうするつもりだ、うん?」
「……それは、」

目を泳がせながら困惑したような女の様子からして恐らく家を飛び出したはいいものの、後先考えておらず途方に暮れていた、どうせそんなところだろう。頭の悪い女はこれだから……と呆れて息を吐いた。

「決まってないなら愛しの風影様に助けて貰えばいいだろうが。うん」
「か、風影様に……!?とんでもないです、こんな一般庶民の事なんかでお忙しい風影様の手を煩わせるわけにはいきません……」
「里の長って言うのはそれも仕事の一つだろ、うん」

まぁ、その風影はもう時期死ぬ事になるがな、と内心毒付いた。女は変わらず困惑した様子で俯いた。
ここで女を見捨ててさっさと偵察に行っても構わないが、何故か気掛かりだ。この先どうするつもりだろうかとか、無計画に里抜けしても忍でもないこの女はすぐに殺されるかもしれないな、それならいっそオイラが連れて行こうか、なんて頭の中で考えては、それこそ身勝手にそんな事は出来ないと首を振った。

「……とにかく、家族が頼れねぇなら風影に相談してみろよ、うん」
「……はい、」

女は決心しきれない様子ではあったが、オイラと目も合わせず小さな声で返事をした。不安はあったが、そう返事をされた以上ここに居座り続けても埒が開かない。
女の無事を祈りつつその場を離れた。砂隠れの里へ侵入し、偵察任務に集中する事にした。






あれから数日が経ち、一尾を捕獲する日を迎えた。今日、砂隠れを――風影を襲撃する。
数日前の偵察任務の帰り道で再び女を探したが見当たらず、風影のところでも行ったのだろうと自己解決した。あれから女がどうしたのかわからずにいたオイラは、ここ数日ずっと気がかりだった。

砂隠れの里を前にサソリの旦那と別れ、青天の下で自慢の芸術作品の鳥に乗り里を見下ろす。見張りが何人いるかスコープを使い確認しながらも、オイラはあの女を探していた。が、いくら探しても見当たらずに苛立ちを覚えた。一体どこへ雲隠れしやがったんだ。
しかし今は女よりも一尾だ。まずは一尾を捕獲しなければ話にならない。もしかしたら一尾と一緒にいる可能性もあるのかもしれない。

暫し飛び続け、ようやく風影のいる屋敷まで辿り着いた。気がつけば陽は沈み、月が顔を覗かせていた。やはり女の姿は見当たらず、仕方なく一旦諦めて鳥から飛び降り「潜入成功」と呟けば目の前には風影の姿。探す手間が省けた、と淡い歓びから思わず笑みが溢れた。

再び鳥に飛び乗り、粘土が入っている腰のポーチに片手を突っ込み、起爆粘土を作り上げた。相手は風影。少しは楽しめそうだと愉悦した。






「ノルマクリアーだな、うん」

無事一尾を捕獲し、鳥に乗りながら余裕の笑みを浮かべた。サソリの旦那を待たせすぎているから早急に引き返すべきだが、最後にどうしてもあの女に会いたかった。
敵襲を躱しながら上空を飛びつつ女を探した。すると少し離れたところに民家のような建物を見つけ、何となく気になったオイラは近寄りながら民家と周囲を上空から目視した。

「…………!」

民家の扉の前にずっと探していた女がいた。ようやく見つかった安堵から思わず笑みが溢れる。すぐに下降し女の近くで降りれば、女は怯えたように後退りし、民家に入ろうとしたところを咄嗟に腕を掴み制止した。

「っ、いや……!」
「随分と探させやがって……風影が用意した民家か?うん?」
「っ……あなた、まさか暁だったなんて……」
「ああ、隠してて悪かったな。で?風影はこの通りだ。お前はこれからどうするつもりだ、うん?」

粘土の鳥に捕らえられている風影を目の当たりにして、女は顔を真っ青にさせて口元に手を当て言葉を失っていた。愛しの風影がこのザマだ、衝撃を受けて当然だろう。

「どう、して……何でこんな酷い事……」
「これがオイラの任務だからな。で、早く質問に答えろよ、うん」
「……風影様がいないんじゃ、もう生きていても仕方ありません」
「あ?」
「私を殺すならここで殺してください」

普段は辿々しく、どこか自信なさげな口調だというのにこの時だけははっきりと言い切った女に、少しばかり驚いた。

「……お前みたいな女、殺したって何の価値もねぇよ。うん」
「…………」
「オイラと一緒に来いよ。……ま、拒否権はねぇけどな」
「え……?」
「別に悪いようにはしねぇよ。もう風影にも頼れねぇしお前、行く場所ないんだろ?あれから……気になってたんだよ、うん」

オイラの言葉に女は驚いたように目を見開いていた。自分でもこんなに素直に気持ちを伝えた事に驚いた。普段なら無駄に高いプライドが邪魔をして、素直に胸の内を明かす事なんて出来ないというのに。
身勝手に女を連れ去ってはいけないと思っていた筈なのに、自分の気持ちに気づいてしまった今はここで連れ去らない方が後悔するであろう事はわかりきっていた。それに、万が一何かあってもオイラが責任を取ればいいだけの話だ。コイツだって誰にも頼れず野垂れ死ぬよりずっといい筈だろう。
元々大きい瞳を更に大きくさせている女に、愛おしさが募る。もう、自分の気持ちをどんなに誤魔化そうとしても無駄だった。オイラはとっくにこいつに惹かれちまっていると。
冷たい夜風が女の細くて綺麗な髪の毛をパラパラと靡かせる。女は真剣な表情を見せながらも、どこか不安を滲ませたような瞳をオイラに向けていた。

「風影の事なんて、すぐに忘れさせてやるよ」
「…………!」

女を横抱きにすると、驚きと恐怖からか咄嗟にオイラに両腕を回してきた。距離感が縮まり、いつになく胸が高鳴った。

「そういやお前、名は?」
「……椿、です」
「椿か。オイラはデイダラだ。暁はお前にとっちゃ居心地のいい場所ではないだろうが、オイラが必ず守ってやるから心配すんな、うん」
「…………」
「さて、行くぞ。うん」

椿を横抱きにしたまま鳥に飛び乗ると、恐怖心からか椿の腕に力が入ったのが伝わってきた。そんな姿すら愛おしいと口角が上がる。
必ず椿をオイラのものにするとほくそ笑み、飛び立った。


fin




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