一瞬 or 永久(芸術コンビ)

 

真昼間、さんさんと太陽の光が窓越しから室内へ降り注ぐ。少し開けた窓から、爽やかな風が入り込んできていた。そんな心地良さから、目を閉じて日頃の疲れを癒していた。たまの休暇日。こんな風にのんびりとした時間を過ごすのも悪くないだろう。

「だから、サソリの旦那は本当の芸術ってもんがわかってねーんだよ、うん!」
「戯言を抜かすな。てめえの爆発が芸術だと?芸術をナメるにも程があるだろうが」

ぎゃんぎゃん喚くような言い争いが耳に届き、不愉快な気持ちを覚え目を開けた。せっかくの天気に癒されていたというのに、外野の声で台無しである。
声の主は、デイダラとサソリ――俗に言う芸術コンビだとは、見なくとも理解出来た。彼らは同じ芸術家だが、価値観がまるで違っている。その為、顔を合わせれば、こうして芸術論について口喧嘩になる事も少なくなかった。暁内ではよくある光景で、彼らの周囲にいたとしても、誰も気に留める事はない。だが、せっかくの癒しの時間を邪魔された私としては、不愉快極まりなかった。きっと今の私は、眉間に皺が寄っていて、怒った顔になっているんだろう。しかしそんな事を気に留めはせず、鋭い目つきで芸術コンビを睨みつけた。

「デイダラ!サソリ!あんた達は顔を合わせては喧嘩して、そのうるささが周りの迷惑だってわからないの!?いい加減学べ!そして黙って!」

怒りをぶつけるように言い放ってやれば、口喧嘩していた二人は一瞬で黙り込んだ。普段そう怒りを露わにしない私が怒鳴ったもんだから、驚いたのだろうか。キョトンとした顔をしていて、少しだけ可愛く見えた。ほんの少しだけね。

「……迷惑だ?芸術についての口論に、何が迷惑だ」
「そうだぞ、誰にも迷惑なんかかけてねえっつーの、うん!」
「だーかーら、うるさいの!声も馬鹿でかいし!せっかくのんびりしてたのに台無しじゃない!」

私の反論に、一瞬黙り込む芸術コンビ。互いに目を合わせたかと思いきや、嫌な笑みを浮かべて一斉に私に目を向けた。その視線に嫌な予感が拭えず、ゾッと背筋が凍るのを覚えた。

「な、何よ……」
「椿、この際どっちの芸術が正しいのかハッキリさせてくんねえか、うん」
「……はい?」
「そうだな。お前は永久の美≠ゥ、それとも一瞬の美≠ゥ、どっちが真の芸術だと思う?」

物凄い圧をかけながら、二人は私に詰め寄るように言葉を放った。一瞬の美だろ、いや永久の美こそが芸術だ、等と再び言い争いが起こりそうである。
私は芸術家でもないし、二人のような芸術への探究心は一切ない。つまり、芸術なんかに興味はないのだ。どっちが真の芸術か、なんて問われたところでどうでも良いというのが本音だ。しかし、そんな事を口走ろうものなら、どんな仕打ちに遭うかわかったものではない。困り果てた私は腕を組んで目を閉じ、唸りながら考え込む。……振りを見せた。

「おい椿、そんなに悩む事か。悩むまでもねえだろうが」
「そうだぞ!悩む間も無く一瞬の美≠セろうが、うん!」
「あぁ?永久の美≠アそが真の芸術だろうが」
「私の思う芸術は……」

再び始まりそうな言い争いを止めるように、私はゆっくりと開眼し切り出した。私の言葉に、一斉に目を向ける芸術コンビ。その表情はいつになく真剣そのものだ。彼らは本気で芸術に命をかけていると言っても、過言ではないのだろう。釣られて私も身が引き締まる気持ちで、言葉を続けた。

「……どちらでもないと思うの」
「「は?」」
「私は一瞬だ、永久だ、って拘りはないの。寧ろ、両方あってこそ真の芸術だと思う。二人はよく喧嘩するけど、一瞬も永久も、どちらも良さがあるでしょう?それぞれが上手く支え合って、初めて芸術となる……って、私は思うよ」

二人は私の言葉を、真剣な様子で聞き入れていた。どちらでもない、なんて怒られるだろうか。二人の信じている芸術を否定したと捉えられてもおかしくない。二人揃って機嫌を損ねられたら、後々面倒だと考えながら、二人の返答を待った。彼らは少し、考え込んでいるように見えた。だが、それは本当に一瞬の事だった。デイダラが笑ったと同時に、サソリも口角を上げていた。何がおかしいのやら、頭が追いつかない状態でいると、彼らは私に近づいてきた。
――まさか、殴られる……!?
瞬時に目を固く閉じれば、優しく頭を撫でられる感触を覚え、恐る恐る目を開けた。

「それが椿の芸術か、悪くねえな。うん」
「どちらを否定する訳でもなく、かと言って選ぶ訳でもねえ、か……椿らしいがな」

頭を撫でていたのはデイダラだったようだ。私の返答に、意外なことに気を良くしたらしい。否定された、とも捉えなかったようだ。そんな彼らに驚きを隠せないまま、交互に二人へ目を向けた。

「けどな、いつかは一瞬の美が最高だって思わせてやるからな!うん!」
「戯言を……椿には、永久の美が似合っている。一瞬の美に傾く事は生涯ねえだろうな」
「ンだと!?」
「あぁもう、喧嘩しないでよ二人共……」

やはりどちらを選ぼうが、選ばまいが、結果的に喧嘩になってしまうのか。内心呆れつつも、こんな日常は嫌いじゃないかもしれないと穏やかに思える私の心情が、一番の驚愕だった。



fin




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