私の彼氏が壊れました(サソリ)

 

サソリはクールで毒舌、俺様気質な奴であって私の彼氏だ。断じて王子様キャラではないし、甘い言葉を囁くなんて有り得ない。なのに今目の前にいるサソリは、私の知ってるサソリとはまるで違っていた。

「あの……、サソリ、どうしたっていうの?」
「何がだ?そんな事より、椿、愛しているよ」

いやこれ誰!?どこぞの王子様なのって突っ込みたいけどサソリはさぞ当たり前のように振る舞っているし、頭のネジがぶっ飛んだとしか考えられない。傀儡の故障?いやロボットかよ、ってまた一人で突っ込む。

「よぉ、旦那と椿。何してんだ?うん」
「はっ、デイダラぁぁぁ!!」
「なっ、なんだよ!うん!?」

困り果てているとベストタイミングにデイダラが現れた。助けを求めて勢いよく飛びつけば、肩を跳ねさせ驚いていた。そして華麗にドン引きされた。そんなデイダラは気にせず、今までの経緯を説明すると、デイダラはケタケタと笑い出した。

「ははっ、旦那が?王子様だって?有り得ねーだろ!うん」
「その有り得ないのが現実に起こってるの!デイダラも確認してみたらわかるから!」

未だ信じていないデイダラをサソリの前に連れて行けば、謎に微笑むサソリ。普段のサソリを知っているせいで、最早不気味以外の言葉が見つからない。サソリが笑う時って大抵良からぬことを考えている時だし。

「ああデイダラ、どうした?」
「いや椿が変な事言うからよ、何も普通じゃねーかよ、うん」
「変な事?俺のお姫様である椿がそんなこと言う訳ないだろ?」
「まぁ……うん?」

普段と明らかに違うサソリの言動に、デイダラは硬直した。今のは聞き間違いだろうか、はたまた幻聴?それとも間違えて言った?などと、今デイダラの頭の中は大混乱しているに違いない。しばらくしてようやく理解したのか、顔をサーっと青ざめながら私に詰め寄ってきた。

「ちょ、嘘だろなんだよあの旦那!!お前何をした!?うん!」
「何もしてないわバカ!さっき話したら既にあんなんだったんだから!」
「ありゃ頭のネジがぶっ飛んでんな、すぐに探さねーと……!うん!」

デイダラも考えることは私と同じようだ。やっぱり頭のネジがぶっ飛んだとしか思えないのだ。でもサソリの頭にネジなんてあったっけ?そもそも傀儡ってネジ使ってたっけ……?ああわからない傀儡のことなんて……!

「でも待って!仮にネジを見つけたところで誰が修理出来んの?」
「はっ、確かにそうだな……!砂隠れまで行かねーと不可能じゃねえのか!?うん!」

砂隠れといえばサソリの故郷だ。砂隠れにはサソリの祖母始め、傀儡使いがいたはず。けどいくら傀儡使いだって、こんな犯罪者に手を貸すなんて有り得ないわけで。何ならのこのこ里に行こうものなら、襲撃に遭うのが目に見えている。二人して途方に暮れていると、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。

「あなた達、何をしているの?いくら休暇日だからってこんなところで「小南んんん!!」

現れたのは暁の美女、天使様でもある小南である。まさかの救世主に詰め寄る私。小南の無表情で綺麗な顔が引きつって見えるのは、気のせいだと思いたい。
簡単に今までの経緯を説明すると、小南は問題のサソリへ目を向けた。目が合った瞬間に満面の笑みを浮かべるサソリを見て、普段余り表情を崩さない彼女が青ざめた。

「う……気味が悪いわ」
「流石の小南でもドン引きするよな、うん」
「ダメだわ、吐き気が催してきた……」
「ねえ流石にちょっと失礼すぎない?私の彼氏なんですけど?」

本格的に吐きそうになっている小南。サソリが普段と違いすぎてて気味が悪いのはわかるけど、吐き気を催すっておかしくない?仮にも美男子かつ私の彼氏なんですけど。
少し経ち、ようやく落ち着いたらしい小南が(どれだけ気持ち悪かったんだ)私とデイダラに向き合った。

「サソリの事だから、何か試作段階の薬品でも飲んでしまった、なんて事はないかしら。頭のネジ説もわからなくもないけど、傀儡の頭にネジなんてなさそうよ」
「た、確かに有り得る……!でもそんなミスするなんて珍しいけど」
「けど、その説が一番近そうだな。うん」

三人で一斉にサソリに目を向ける。サソリは状況を飲み込めておらず、不思議そうに首を傾げていた。普段は到底見られない、その余りの可愛さに私の胸はときめきっぱなしだ。

「さ、サソリがかわいい……!抱きしめたい!」
「おい、キモい事言ってんなよ。そんな事は二人になってからやってくれ、うん」
「そうよ、椿。そんな事されたら不愉快でしかないからやめて」
「はい……」

二人に釘を刺され、しゅんとする私。別に私がサソリに抱きついたって微笑ましい光景だと思うのだが、そう思うのは私だけのようだ。そんな事をしたら、この場にいる二人が不快感を露わにするのは火を見るより明らかである。

「それにしても……仮説が出来ても、解毒方法がわからないわね。仮に薬品が原因だとしたら、時間が経てば戻りそうなものだけど」
「そうだね、時間が経つのを待つしかないか……」
「それか大蛇丸なら薬品には詳しそうだから、奴に聞いてみるのも一つの方法ね」
「いいえ、そんな事をするくらいなら時間が経つのを待ちます」

何が悲しくて、わざわざ大蛇丸に会いに行かねばならないのだ。断固反対だ。デイダラも同じ気持ちのようで、繰り返し頷いていた。

「じゃあ時間が経つのを待ちましょう。私はこれから雨隠れに行かなければならないから、後は任せたわ」
「うん、ありがとう。小南」

薬品が原因かもしれないと閃いてくれたのは小南であったが、サソリの笑顔を見てただ具合を悪くさせてしまっただけのような気がする。まぁ、特に気にしてなさそうだったから良かったけど。
小南が去り、私とデイダラ、そしてサソリは何とも言えない時間を過ごす事となった。正直退屈でしかない。デイダラがいなければイチャイチャしたりも出来たけど、いる以上そんな事をする訳にもいかず。普段より明るい表情のサソリを見ては、胸キュンしていた。こんなサソリはもう二度とお目にかかれないかもしれないから、しっかりと目に焼き付けておかないと。

「椿、そんなに離れていないで俺の膝の上においで」
「ぶっ!!」

急なサソリの甘い言葉に、王子様を連想させられたが余りに普段と違いすぎる。デイダラに至ってはお茶を吹き出してしまっていた。でも、サソリが自らおいでをしてくれるなんて……と、妙に感動して飛び付きたくなったが、隣にいたデイダラの「やめろ」と訴えてくる痛いくらいの視線に渋々留まった。

「旦那、オイラのいるところでそんなことはやめてくれ。旦那のイメージが崩壊しちまう、うん」
「イメージ?俺は至って普段通りだが?」
「と、とにかく!椿とイチャイチャすんのは、二人っきりの時にしてくれ!うん!」

府に落ちない顔をしていたが、サソリも渋々納得したらしい。どうせなら納得しなくても良かったのに。

あれから一時間程経っただろうか。サソリの様子が少しおかしくなった。頭が急に回転し出した時には、どこぞのホラーかと思った。しかしそんな動きが落ち着いた頃、すっかり普段通りのサソリへ戻っていたのだ。

「だ、旦那……!戻ったんだな、良かったぞ!うん」
「あぁ?何のことだ」
「やっぱりサソリはいつものサソリが一番だね!」
「……さっぱりわからねえ」

サソリが王子様キャラになっていた事は、本人には言わないことにした。言ったら口封じに何か良からぬ事をされそうな気がして恐ろしいからだ。

後日わかったのだが、小南の推理通り、サソリは試作段階の薬品を誤って体内に取り込んでしまい、あんな事になってしまったのだとか。私としては時々ならあんなサソリもアリだと思うんだけど、他のメンバーは気味悪がって近寄りすらしないから、やはり普段通りが一番なのだと思った。

でも私はまたいつか、あんな風に優しいサソリを拝みたいなぁと密かに思うのだった。



fin




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