あなたの素顔(サソリ)

 

サソリは見た目が怖いし、どこか不気味だし、ずっと近寄りがたい存在だった。声だってそんなに低い人いるのかってくらいに低いから、威圧感がすごい。そんなこと言ったら角都もそうか。そう、何気に失礼なことを頭の中で思考していた。要は混乱している、否、驚いているんだ。

何故驚いているのかと言うと、今目の前にいる赤髪の美少年が、サソリだと名乗るからだ。私の知るサソリとは天地の差である。声だって普段のように低くない。寧ろ俗に言う「イケボ」と言われる声だろう。ああどうしよう、信じられない余り動けなくなってしまった。そんな私に苛立ってきたみたいで、サソリと名乗る赤髪の美少年の顔がどんどん険しくなっていく。この短気さはサソリそっくりだ。でもこれがサソリだとしたら、私が知ってる普段のサソリは一体何者なのか、益々頭が混乱する。

「おい椿、いい加減にしろ」
「い、いい加減にしろと言われましても……!そもそも本当にサソリなの?あれ、今日エイプリルフール?」
「これ以上戯言を抜かしてみろ、傀儡にするぜ?」

この決まり文句は間違いない、サソリだ。その台詞でようやくサソリだと信じた私は、冷静さを取り戻した。未だ混乱する頭の中でも疑問は浮かんでくる。その疑問をサソリへぶつけることにした。

「えっと……あなたがサソリっていうのはよくわかった。けど、何でそんな美少年に?普段の怖いサソリは一体どこに?」
「ムカつく言い方だな……まぁいい。普段のはヒルコっつー俺の傀儡だ。こっちの俺が本体。普段はヒルコの中に身を潜める事で戦闘能力を強化してるってわけだ」
「なるほどね。でも余りに印象が違いすぎてまだ慣れないんだけど……」
「そんな事知ったことか。まぁよく言われるが……慣れろとしか言いようがねえな」

ご最もである。それにしても本体のサソリがあまりの美男子すぎて、単純であるが一目惚れしてしまったかもしれない。この顔面なら、普段通りの毒を吐かれても許せる自信しかない。ヒルコの姿で言われたら恐ろしすぎるし、極力関わりたくなかったけど。っていうか、本体美少年って何そのギャップ。漫画の主人公になれそうなレベルのネタじゃないか。ついサソリを凝視してしまうと、本気で引くような目で見られた。

「何だ、気味が悪ぃな。それ以上見るなら見物料もらうぞ」
「見物料!?いくら美少年でもそれはないでしょう!」
「ほぅ、美少年か。俺の本体は椿のタイプっつーことか?」

にやにやと嫌な笑みを浮かべるサソリに、ぎくりと背筋が凍る。完全にからかわれている。ここで馬鹿正直に「はいタイプです」なんて言うもんなら、益々ヒートアップするだろう。でもタイプであるのは事実で。それにしても当然だろうが、性格はヒルコの時と全く変わらない。なのに見た目が違うと、私自身の捉え方もこうも違うとは驚きだ。一先ず、一旦話を逸らすことにしよう、と決めた。

「そ、それよりどうして今は本体なの?私今まで見たこともなかったのに」
「話を逸らしやがったな……今はヒルコのメンテ中だ。不具合が生じてからじゃ遅いからな。メンテは小まめにしている」
「じゃあ今まで私が本体を見たことがなかったのは何でだろう……?」
「ああ、敢えてお前の前には行かないようにしていたからな。この姿で行ったら信じねえだろうし、説明も面倒だったからな」

何で言い草を……ひどい男だ。今日はたまたまと言うわけか。良いのやら悪いのやら。悶々としていると、直様サソリが口を開いた。

「で、俺の本体を見てどう思ったって?」

再び話題を戻され、やはりサソリは楽しげに笑みを浮かべている。これはもう、逃げられない。正直に伝えるのが一番早いな、と半ば諦め素直に伝えることにした。

「か、かっこいいなって……ああもう物凄く私のタイプだよ悪いか!」

恥ずかしさの余り半ギレになってしまった。ああ可愛げない……!
ストレートに言い切ったのが予想外だったのか、サソリは一瞬驚いたようだったがすぐに笑みを浮かべた。

「ほぅ、珍しく素直じゃねえか。嫌いじゃねーぜ?」
「へ、?」
「特別にもっと俺のことを教えてやる。来いよ」

強引に手を握られれば、何処かへ向かうサソリ。恐らくサソリの部屋に向かっているんだろう、けど……もっと俺のことを教えてやるって、どういうこと!?

相変わらずサソリは楽しそうで、私は頭の中がパニックを起こしている。この後サソリの部屋で何をされたのかは……わかるでしょう?
ご想像通り、めちゃくちゃに可愛がってもらう羽目になったとさ。



fin




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