意識し始めた瞬間から(デイダラ)

 

「あーっ!デイダラ、私のアイス食べたでしょ!?」
「はぁ?名前書いてなかったんだからわかるわけないだろ、うん!」

真昼間に突然叫ぶ椿を、何事かと思い目を向ければ内容は至ってくだらないことだった。大体名無しのアイスなんて、誰のかわかったもんじゃないし食べちまうだろ、普通。それでも喚き続ける椿に、堪忍袋が爆発するオイラ。

「ああもううるせーな!アイスごときで騒いでんじゃねえよ、うん!」
「アイスごとき!?ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ!」

気の強い椿はオイラがキレたくらいじゃ怯むどころか、寧ろ怒りがヒートアップする。言っておくが、こんなのは日常茶飯事だ。全く可愛げのない女とはコイツの事だろう。そもそも女として見たこともない。胸もないし、この通り気が強いし、何より餓鬼だ。実は男なんじゃないかとさえ思えてくる時があるくらいだ。女っていうのは小南みたいな色気のある奴の事を言うんだろう。
怒りの治らない椿は、オイラの胸倉を掴み有りったけの怒りをぶつけてくる。

「人のアイスを食べたんだから、弁償してよね!」
「はぁ!?アイスなんて五両もあれば買えるだろうが、うん!」
「お金の問題じゃない!!」

ヒートアップする言い争いを面倒に感じ、さっさとアイスくらい買ってきてやろうかと頭の片隅で考え始めた時だった。

「椿ー、何カリカリ怒ってんだよ」

椿の背後から飛段がやって来て「機嫌直せよ」とオイラの胸倉を掴んだままの椿に、まさかの膝かっくんをしていった。急な事に驚いた椿はバランスを崩し、目の前にいたオイラに抱きつく羽目になった。

「なっ、ちょ、飛段!?」
「ほーら、機嫌直ったろ?いい加減怒るのやめとけよなー」

へらへらしながら飛段は去っていった。どこをどう見たら機嫌が直ったように見えるのか謎である。
そんな事よりも、オイラは動揺していた。椿に抱きつかれたことなんかなかったし、例え抱きつかれても女と意識してもいないから何も感じることはないと思っていた。しかし、男にない胸の膨らみを身体で感じ取ってしまい、オイラは確実に意識してしまっていた。椿を、女だと。今までぺったんこだと思い込んでいたが、意外とある。胸だけじゃなく、身体つきもどこか柔らかさがあって、男のものとは違っていた。

「何なの、急に膝かっくんとか……アイツは餓鬼かって!」
「……」
「はっ、ご、ごめんデイダラ!」

未だ抱きついたままである事にようやく気がついた椿は、慌ててオイラから離れ謝罪した。多分オイラは、別に、とかありきたりな返事をしたんだと思う。頭がぽーっとしていたせいで、記憶にないが。

それから気がつけば自室にいて、椿とどう解散したんだか全く記憶になかった。覚えているのは、抱きつかれる前までの記憶と、椿の身体の感触。胸が当たったくらいで意識しちまうなんて、オイラそんなに初心だったかよ……情けない。しかし、女っ気のない暁にいる以上、今まで女に触れることなんてなかった。突然の感触に驚いたんだろう、それが女だと意識してなかった椿だったから、尚更。
これから椿に会う度、胸元に目線がいっちまいそうで不安だ。そして確実に今までとは違った見方をしてしまうだろう。

「ああクソっ……何でこんな事になっちまったんだ、うん」

男なら誰もが持っている下心。オイラは今まで特にそんなものはなかったと思う。それが急に芽生えてしまったなんて。しかも椿に対して。これからどうすべきか悩みどころだが、気にし過ぎも良くない筈。一先ずアイスってうるさかったから、買ってきてやる事にした。







「えっ、本当に買ってきてくれたの?」

ぶっきら棒にアイスを手渡してやれば、目をまん丸にして驚く椿。まさか本当に買ってくるとは思いもしなかったんだろう。普段のオイラなら買いに行く筈もない。しかし、椿はすぐに満面の笑みを浮かべ嬉しそうな様子を見せた。余程食いたかったらしい。やっぱり餓鬼だ、と内心毒を吐いたが、すぐに先ほどの胸の感触を思い出し、一気に顔に熱が集まるのがわかった。

「デイダラ……?」

様子のおかしいオイラを不思議に思ったのだろう。椿は首を傾げながらオイラの名を口にした。

「べ、別に何でもねえよ!やっぱりお前は餓鬼だなと思っただけだ、うん」
「なっ、餓鬼じゃないわっ!」

赤面している事に気づかれないよう、すぐに背を向けた。すると、背後から再び椿がオイラを呼んだ。

「……なんだよ、うん」
「アイス、ありがとう。溶ける前に食べちゃうね」

声だけで嬉しそうな様子が伝わってきて、思わず微笑んでしまう。背を向けているから椿に気づかれる事はないだろう。餓鬼に変わりはないが、愛らしく思う。女だと意識して、こんなにすぐ気持ちが変わるのも自分で驚いてしまうが、これ以上自分の気持ちに嘘は吐けないと自負した。

「椿、」

振り返り名を呼べば、美味しそうにアイスを頬張りながら首を傾げる女の姿。

オイラの気持ちを伝えたら、一体どんな反応をするだろうか。馬鹿にするだろうか、それとも驚くか……もしかしたら、照れたりするのだろうか。
椿の反応を想像しながら、一生に一度しかしないであろう告白を、オイラはする決心をした。椿は、どんな反応をするかな?……うん。



fin





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