七夕のお願い事(デイダラ)

 

「ねえ、デイダラは短冊になんて書いたの?」

今日は7月7日、七夕である。暁も任務だったりですれ違うメンバーもいるが、一応笹の木を準備し、しっかりと短冊も用意してある。短冊を用意したのは私だが、笹の木は意外な事に小南である。小南もロマンチストなところがあるから、私が声をかけるとノリノリで協力してくれた。普段の彼女からは考えられないけど。
既にいくつか短冊が飾られているが、私は彼氏であるデイダラと一緒に飾りたくて、一緒に飾ろうと約束していたのだった。デイダラはくだらないと言いつつも、しっかりと短冊を書いてくれていた。そして冒頭の言葉を問いかけたのだった。

「なんてって……決まってるだろ、うん」

なんだ、デイダラも私との将来のことを願って書いてくれたのか。やっぱり恋人同士、以心伝心なんだ……と感激したのも束の間、デイダラの短冊に目を向け驚愕した。

『今年も一瞬の美を追求するぞ!』

確かにそう書いていた。そんなに綺麗な字じゃないのは、まぁいいとして。そもそも短冊ってお願い事を書くんじゃないの?これじゃ宣言文なんだけど。デイダラ、七夕の意味を知らないのだろうか。

「で、椿はなんて書いたんだ?うん?」
「えっ……や、やだ!秘密!」
「はぁ!?何でだよ、うん!」

私はこれからもデイダラと一緒に仲良く過ごせますように、と書いた隅っこに、どうか結婚出来ますように!とまで書いてしまっているのだ。こんなの小っ恥ずかしくて見せられたもんじゃない。特にデイダラには。

「そ、そんなことより他の短冊も見てみようよ!」
「オイラは椿のが気になる……うん?何だこれ」

デイダラは一つの短冊が気になったようで、手に取った。その隣で安堵する私。その短冊を横から覗き込んだ。

『ジャシン様へいけにえをたくさんささげられますよーに!こづかいアップ!』

名前を見ずともわかる、確実に飛段だ。しかも漢字を書けないらしくひらがなばっかりで非常に読みづらい。唯一、様だけは書けたようだ。

「小遣いアップは短冊に書くより角都に言ったほうが早そうだけどな、うん」
「でも言ったところで叶わないだろうね……あ、これは」

私が目に入ってきた短冊は、先程の飛段のとは違い綺麗な字で書かれていた。

『またいつか弥彦に会えますように』

こ、小南っ……!これは確実に小南だ。切ない……叶って欲しいけど、小南にはまだまだ元気でいてもらいたい。いや、これリーダーの短冊ってオチはないよね?リーダーこんなに字綺麗じゃないよね、多分。

「おい椿。話を逸らしてねえで、さっさと短冊見せろ。うん」
「だ、駄目!絶対バカにされる!笑われる!」
「オイラがお前のことを笑うわけないだろ。それとも、よっぽどくだらない願い事なんじゃねえだろうな、うん?」
「それをくだらないって言ったら怒るけどね?」
「ったく、往生際の悪い奴だ、うん」

一瞬で手に持っていた自分の短冊を取り上げられてしまった。デイダラは真剣な顔をして私の短冊を読んでいる。……終わった。笑われる結末しか想像出来ない。こんな恋愛にうつつを抜かした願い事、アホらしいと呆れられるかも。下を向き、ぎゅっと目を閉じた。すると優しく頭を撫でられ、不思議に思い顔を上げた。

「なるほどな、願い事ってのはこういう事を書くのか、うん」

やっぱりデイダラは短冊に書く意味を履き違えていたらしい。妙に感心しながら私の短冊を真剣に見つめている。急に恥ずかしくなって、赤くなっていく両頬を隠すように手を当てた。

「けど……わざわざ願う事じゃないだろ、これ」
「え?」
「短冊に書いて願わなくたって、これからもずっと一緒にいるし、結婚だって……っ」

そこまで言って、デイダラは慌てたように自分の口を手で覆った。どういう事か理解出来ず、私は首を傾げた。

「え、どういう事?」
「な、何でもねえよ!と、とにかくだ。こんな願い事はとっくに叶ったようなもんなんだから、意味ないぞって事だ、うん」
「叶ってないもん!私は……その、いつかデイダラと結婚したいって思ってるから、お願いした方がいいじゃない!」
「……だから、結婚するつもりだって。うん」

その言葉をすぐには理解出来ず、キョトンとした顔をしてしまう。少し経ってからようやく言葉の意味を理解し、顔が更に真っ赤になっていくのがわかった。そしてパニックを起こす。

「へ、……え!?ちょ、ちょっと待って、それ嘘じゃないよね!?」
「こんな恥ずかしい嘘吐いてたまるか!ずっと考えてたっつの、うん」

デイダラの顔が心なしか赤く染まっているように見える。照れ臭そうにそっぽを向いて、さっさと短冊を飾っている。そんな彼が愛おしくて、背後から堪らず抱きついた。

「ぅん!?」
「ねえ、夢じゃないよね?嘘じゃないよね?本気にして、いいんだよね……?」
「だから嘘じゃねえって。お前はオイラが結婚したいと思えるくらい、夢中にさせた女だ。責任は取ってもらわないとな、うん」

抱きしめていた腕を解かれ、デイダラは向かい合わせになるよう私の方へ身体を向けると、そのまま唇を重ねた。

「これからもずっと、一緒だからな。うん」

短冊にお願い事を書かなかったら、この夢は叶わなかったんじゃないかって思う。七夕にお願い事をすると、本当に叶うのかもしれない。

私は幸せを噛みしめながら、満面の笑みで頷いた。



fin




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