ひっそり、こっそりと(角都)

 

俺には以前、片思いをしていた女がいる。その名もズバリ、椿だ。何故過去形なのかと言うとな、俺の相方である角都と付き合い始めちまったからだ。椿は俺と同い年くらいなのに歳の差ありすぎじゃね?と最初散々突っ込んだが、椿には関係なかったみたいだ。寧ろ、その歳の差がまたいいらしい。俺には理解出来ねーけど。

今日も角都と椿は仲良しだ。俺としては椿も角都も大切だから、二人が仲良しなのは嬉しいようで少し寂しい気がする。三人でいるのもつまらねーわけだ。ムスッとした顔で二人を観察していると、角都が椿の手を握った。これには流石の俺もびっくりして凝視してしまう。だって!あの角都が自ら手を繋ぐなんて!有り得ねえーっと内心叫ぶ。

「お前は餓鬼か。フラフラと色んなところへ行きすぎだ。迷子になるだろう」
「えー?そんなことないよー……でも、角都と手を繋げるのは嬉しいな」
「……ふん」

あの角都が照れている。しかもあんなのただの口実で、本当は椿と手を繋ぎたかったんだろう。角都と言えば短気だしすぐに殺意が湧く奴だ。ましてや女に優しい角都なんて知らなかったし、知りたくもねえ。けど椿にだけは違ってた。短気どころかいつも気に掛けてるし、眼差しから優しい。話し方だって俺に対するのとは偉く違ってる。角都としては孫みたいな可愛さなんだろうって最初は思ってたが、違うらしい。ちゃんと恋人として好きみたいだ。流石の角都も好きになるのは若い女、って事だな!

「あ!ねえ角都、お団子屋さんがあるよ!ちょっと食べていきたいなー」
「……仕方ない、少しだけだぞ」

あっっりえねえ!!あのドケチな角都が甘味処に寄るなんて!俺が言ったらこんなところで無駄遣いする気か、ってぶん殴られるくらいの発言だっていうのに。俺だって食いてーよ!
二人は腰掛けると何やら楽しそうに話している。角都の目元が心なしか細く、微笑んでいるように見えるのは気のせいだろうか。つーか、とにかく幸せ全開の二人に胸焼け寸前だ。

「私はみたらし団子にしよっかな。角都は?」
「俺は甘い物は好かん。茶を貰うとしよう」

そういや角都ってば甘いもん嫌いなんだよなぁ。好きって言われても意外でしかねーけど。椿は言わずとも甘党で、アジトにいてもよくチョコレートとか食ってるイメージ。それであんなに細いんだから不思議だ。

「甘味処に寄るなら飛段も誘えば良かったかな?」
「飛段?アイツがいるなら寄らん。無駄遣いしすぎる」

即答する角都に苛立ちが募る。くっそ腹立つぜ!俺には優しさの欠片もねえんだから。角都の相方を努められるのは俺くらいだってのに、少しくらい優しくするべきだと思わねえ?まぁ団子だったら三本は頼むだろうがな!

ああそうそう。ちなみに俺はどこから二人を見ているのかって?茂みの中からひっそりとに決まってんだろ!角都は鋭いからバレないように必死で隠れてるんだけどな。恐らくバレてねー筈だ。

「食べたらどうする?換金所へは行ったし、また賞金首狩りに行こうか?」
「……いや、区切りもいい。たまにはゆっくりするか」

驚きの余り叫びそうになるのを何とか堪えた。時間があったら賞金首を探す、そして狩るのか角都だと思ってたのに、ゆっくりするか、だと……!?ああダメだ、これ以上気味が悪いくらいに優しすぎる角都を見ていると見る目が変わってきそうだ。あんなに甘々な角都、これ以上見たくねー!

「ほんと?角都とゆっくりするなんていつぶりだろう……!嬉しい!」
「……ふん」

あーあれは確実に照れてるな、角都の野郎。椿は気持ちをストレートにぶつけてくる奴だから、それがまた可愛らしいんだよな。ストレートすぎて角都は照れちまうんだろうけど。角都ももう少し素直になりゃいいのになぁ。

「あ、私角都と一緒に行きたい場所があったの。景色のすっごく綺麗なところなんだけど……そこに行ってもいいかな?」
「構わん。お前の行きたい場所ならいくらでも付き合ってやろう」

うげえ……マジかよ角都。椿の前ではそんなに優しいのかよ。人に付き合う事なんて絶対する筈ない、無縁だと思ってたってのに。彼女ともなると、ああも違うものなのか。つーかアレ、本当に角都?

「椿、少し待て」
「へ?」

角都はそう言い立ち上がると、茂みに向かって腕の伸ばした。そして思い切り首根っこ掴んで引っ張りだしたのは、俺……って、痛い痛い痛い!!
騒ぐ俺を無視して角都の目の前まで引きずり出された。

「ちょ、いってえよ角都ぅ!!」
「え、飛段!?」
「貴様がこそこそ会話を盗み聞きしている事など、とっくに気づいていた。何をしていた?」

椿に向けるものとは偉く違い、恐ろしい形相を向ける角都。なーんだ、とっくにバレちまってたのか。つまんねえなぁ。

「いいだろ別に。俺の休暇をどう使おうが勝手だろ?椿と角都が気になったから観察してたんだよ、ゲハハ!」
「貴様って野郎は……」
「ま、まぁ角都、その辺にしてあげてさ。はい、そしたら飛段はこのまま帰ってね」
「はぁー!?俺も一緒に行っていいとかじゃねーのかよ!?」
「今日は角都と二人でいたいの。今度一緒に遊んであげるからさ、ね?」
「う……」

椿にそうまで言われてしまったら引き下がらない訳にもいかない。角都は鋭く睨んだままだったが、素直に引き下がってやることにした。

「ったく、しゃーねえな。お前ら二人には、今度ジャシン様への祈りに付き合ってもらうからな!」
「そんなくだらん事、いつも付き合ってやってるだろうが」
「くだらんってなんだよ!」

ギャーギャー騒ぐ俺を笑いながら見ている椿。いつものごとく呆れる角都。二人がラブラブで仲良しなのもいいけど、やっぱ三人でいるのも最高に楽しいじゃねーか、とつまらねえと思ったことをこっそりと訂正してやる事にした。



fin




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