bad romance1



「なまえ先輩、この書類のチェックをお願いします」

「OK。そこに置いておいて」

私が指導を担当している新入社員のおあいて君がにこにこと笑顔を浮かべながらデスクに書類を持ってくる。けれども、手が離せないふりをして、すぐに彼を席に返した。

「おあいて君、私達とランチ食べに行かない?」

「えっ!?いいんですか?」

お決まりの昼休みの光景。
後輩の女子社員達はよくランチや飲み会にあの子を誘っている。
さらさらの黒髪に、くりっとした大きな目と形のよい薄めの唇。しかも、笑う時にその口を大きく開くのがかわいいと人気が高いらしい。

皆は彼を褒めて可愛がるけれど、私はなんとなく苦手だ。


「鈴木君がよかったな。あの子の方がいい子だと思う。一生懸命だし」

「そうか?アイツ、お調子者だぞ。まぁ、お前が言う通り頑張り屋けどな」

金曜日、仕事あがりで同僚で同期のおあいて2と二人で飲みながら、今年ウチの部署に配属された新人のおあいて君と鈴木君についての話になる。

おあいて2は鈴木君の指導係だった。

「おあいてだって同じ様なもんじゃないか?頑張ってる様に見えるぞ」

「まぁね…似た様なものだとは思うけど…」

「…けど、なんだ?」

それまで、自分の皿を見ていたおあいて2がいきなり視線を私に向ける。

「怖いのよね。おあいて君」

「何が?」

「いつも笑顔だけど、目が笑ってないのよ」

「そんな奴、他にもたくさんいるだろ」

「そうじゃないの。うまく言えないけれど…」

普段私が感じているこの違和感を伝えようとしても、当てはまる言葉が見つからない。
なんとなく、そのまま沈黙してしまう。

「あれ!?先輩達も来てたんですね!」

そんな中、突然声をかけられる。
声の主は今噂をしていたおあいて君だった。
あのいつもの人懐っこい笑顔で話しかけてくる。

「お前、一人か?」

「まさか、鈴木も一緒ですよ!」

目の前で繰り広げられる二人の会話を、ただぼんやりと眺めていた。

「先輩達お疲れさまです!」

そこにひょっこり現れた鈴木君。

「そうだ、お前らもこのまま一緒に飲むぞ!せっかくだから」

そして、おあいて2の提案により、そのまま四人で飲む事になったのだった。

隣に座った鈴木君とは会話が弾んだけれど、斜め前のおあいて君の方は極力見ないようにして、避けてしまった。

 

「あれ!?おあいて2どうしたの!?」

週明け、出勤してきた同僚の姿に部署の皆で驚く。

「…金曜、飲みに行った帰りに階段から落ちた」

なんと、左腕をギプスで固定されて、三角巾でつられていたのだ。

「えっ!?またそんな事したの!?」

前、酔っぱらってた時、帰り道で足がもつれたらしく、いきなり無言でごみ置き場に突っ込んで、ごみまみれになっていた時を思い出し、今度は階段かと呆れる。

「まぁ、全治1ヶ月だし…大丈夫だ」

「俺、先輩の右腕として頑張ります!」

「…いや、俺が折ったのは左腕の骨だから」

意気込む鈴木君へのおあいて2の冷静なのに的外れなツッコミ。部署の皆がそのやり取りに笑い、私も例に漏れず笑っていた時に、不意に視界に入ってきたおあいて君は、少し離れた場所にいてぞっとする様な無表情だった。

やっぱり、彼は何処かおかしい。

1度芽生えてしまった不安は、摘み取る事が難しかった。


「ここはね、この資料が必要なの。だからチェックするのは…」

彼のデスクで仕事の流れの説明をしていても、おあいて君は虚ろな目でまるで話を聞いていない。

そう、たまにじっと、今みたいに私の顔を見てくる時がある。その大きな瞳に光はなくて、夜の海みたいに底の見えない暗いそれが私を捉えていた。

ゾクっと背筋に悪寒が走る。

「おあいて君、説明聞いてる?わかってる?」

断ち切るためにそう言えば、

「すいません、もう一度お願いします」

と眉を下げて申し訳なさそうに、さっきまでの無表情は嘘の様に笑う。

普段は人懐っこいし、仕事も出来はさておき真面目に取り組んでいるから、それが更に恐怖を煽った。


そして、不運とは重なるもので、そんな状態にも関わらず、なんと彼と二人だけで出張する事になってしまったのだった。


「じゃあ、明日は昼過ぎで終わりだから」

「…はい」

今日は、他県にある支社への視察を兼ねたプロシェクトの会議だった。

会議を終えた後の飲み会を一次会だけで引き上げて、おあいて君と二人きりで、ホテルへと向かう。

「わっ!?」

いきなりよろけて、道端にへたり込んでしまう後輩。お酒が弱いのに新入社員の男の子だからと飲まされて、かなり酔っ払ってしまい、足元がフラフラしていた。

「大丈夫?無理するから…部屋まで送っていこうか?」

「すいません…お願いしてもいいですか?」

ヘラヘラと頬を赤くして笑うおあいて君に肩を貸してホテルまで歩く。

確かに苦手だけども、嫌いじゃないし、むしろ今日は会議も飲み会も一生懸命だったから、ちゃんと介抱してあげようと思っていた。

「ほら、部屋着いたから」

チェックインをして、彼を部屋へと連れてきた。

「なまえ先輩すいません」

とりあえず、おあいて君をベッドに座らせる。

「お水用意するね?」

 そこまで酔いが酷い訳でも無さそうなので、それだけ渡して自分の部屋に戻ろうと思っていた。

冷蔵庫からペットボトルを取り出し、蓋を開けて、いつの間にか横になっている彼へとそれを持っていく。

「ほら、お水…」

近づいて差し出したところで、急に視界が反転する。

「ちょっと!?」

なんと、いきなりおあいて君に腕を掴まれて、ベッドに押し倒されたのだ。

「なまえ先輩、なんでいつも俺を避けるんですか?」

そして、私に馬乗りになったおあいて君に、そう問いかけられた。            



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