「ここも違う…」

今日は一人の仕事でTV局に来た。
アキはスタジオにいるってメールで言ってたはずなのに何処にもいない。
彼女を探して廊下を彷徨っていた。


「離して下さい!」

すると、いきなり嫌がるアキの声が耳に入る。
声が聞こえた方向に視線を送ると人通りのない廊下の隅で、彼女が誰かに引き止められているみたいだった。

「何で?連絡先位教えてよ。食事行こって誘ってるだけじゃん。」

不穏な状況を察知し、気配を殺して近づけば、最近人気の若手俳優が壁際に彼女を追い込んで、立ち塞がっている状態。

この男は純粋で爽やか、かわいい弟の様なイメージが売りだけど、実際のアイツは女癖がかなり悪いって業界では有名な話。
アイドルや女優だけじゃなく、スタッフまですぐに手を出すっていう噂は耳にした事があった。

「ねぇ、いいじゃん。せっかくなんだし…」

「困ります!止めてください!」

噂は本当だったのかなんて思っていたら、なんと奴がにやにやと下卑た笑みを浮かべながら、彼女の耳許まで顔を寄せる。

アキは純粋で真面目で優しい本当に素敵な女の子。
僕達みたいな手垢まみれの汚れた人間が気安く触れていい存在じゃない。
怒りがどんどん沸き上がってきた。

「君、バイトなんでしょ?断ったら…「おい、いい加減にしろよ!」

いつもよりも数段低い声を響かせる。
すると、2人とも驚いて僕の方を見た。

「嫌がってるんだから止めろ!その子は僕の知り合いなんだよ!」

近づいて彼女の腕から奴の汚い手を引き剥がす。

「うわっ…!」

そして、そのまま腕を捻り上げてやった。
 
「お前、こんな事が表沙汰になったらどうなるかわかってるよなぁ?」

まるで、彼女を汚した罰を与える神になった様な妙な優越感に口角を上げながら、更に手に力を強く込める。
奴の腕からはギリギリと骨が軋む音が聞こえてきた。

「痛ってぇ……」

呻きながら苦痛に顔を歪めているしょうもない男に顔を近づけて

二度と近寄るな――――

そう鋭く睨み付けた。

「すいません!」

そいつは年下でしかも、明らかに格下だったから、顔色を変えてその場から逃げ去っていった。

「アキ、大丈夫だった!?」

 目を大きく見開いたまま呆然とし、壁にへたり込んでしまっていた彼女。
その無事を確認するために触れようとすると…

「!!」

君は身体をビクッと震わせ反射的に僕の手を避けた。

驚いて彼女の顔を見ると、まるで、知らない人を見る様な、遠巻きに他人を見る様な視線を僕に向けていた。

「…なんでそんな表情してるの?」

「…ごめん…びっくりして…さっきの静流君が…あまりにイメージと違って…」

話しかけるといつもなら笑顔で嬉しそうに僕を見つめるはずの彼女が、戸惑いながら伏し目がちに視線をそらす。

「…ありがとう」

聞こえたお礼の言葉も震えて小さく、明らかに怯えていた。

何だよそれ―――

僕はただ、君を守ったのにどうしてこんな反応をされなければならないのか、まったく見当がつかない。

胸の奥底の方からドス黒い何かが湧き起こり、それがあっと言う間に心に充満した。

そのまま頭が真っ白になって、次に気付いた時にはすぐ側の空いてる楽屋に彼女を引き込んでいた。
ガチャンと鍵を掛けて壁に彼女に押し付ける。

「静流君!?」

「アキは何もわかってない…!」

そしてそのまま唇を奪った。


2015.5.16
天野屋 遥か


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