Sweet?(後編)1



「なまえさん、久しぶり!どう?新しい部署は?」

うちの担当に書類を持ってきてくれた彼女に、いつもみたいに話しかける。今の部署での仕事ぶりを聞きながら久しぶりに楽しく会話をしたいと思ったから。

「忙しくて…大変ですけど何とかやってます…」

けれども、返ってきたのは力のない笑顔と元気のない声で、予想と違う反応に戸惑ってしまう。

「そうか…今度、ご飯に行きませんか?送別会とかもちゃんと出来なかったから…」

気を取り直して、本題を切り出せば一瞬君は大きく目を見開く。

「…残業が多くて、中々時間が…」

ところが、すぐに俯いてしまった。
以前と違い、言葉をかけてもあまり反応はない。

「そっか…残念だな」

部署が替わってしまうと、繋がりが薄れてしまうのは仕方ないものだと分かっているが、それでも寂しくなってしまう。

「すいません、失礼します…」

そのまま、それ以上の会話もなく彼女は足早に去っていってしまった。

もう、何も信じられないーーーー

そんな事を思わせる彼女の哀しげな表情に胸騒ぎを覚えた。


「ちょっと、いい?」

「あ、おあいてリーダーお久しぶりです」

昼休みになまえさんと同じ部署に配属された女子社員を廊下で待ち伏せして話しかけた。彼女は昔、同じ担当で仕事をしていたため、話を聞きやすいからだ。

「なまえちゃん、可哀想ですよ。仕事も出来るし、頑張ってやってるのに、あのリーダーが…」

「そうか…そんな事が」

「しかも、事あるごとに派遣社員だからって、他のメンバーの前で嫌味を言ったり怒鳴る事もあるんです…私達も止めたりするんですけど…本当、見てられなくて…」

「酷いな…それは」

あまりの事に驚きを隠せない。
この間の君の表情の裏にはそんな出来事が隠されていたのか。

新しい部署でのなまえさんの様子を初めて聞いて、事態の深刻さに初めて気が付いた。まさか、君がそんなに辛い目にあってたなんて思わなかった。


「おあいてリーダー大丈夫ですか?さっきから、怖い顔してますが」

「大丈夫だ。何でもない」

休憩後、デスクに戻ってパソコンに向かいながらもその事ばかり考えてしまい、書類を持ってきた部下にまでも心配される始末。

悪かった…
俺がきちんとしていればこんな事にはならなかったのに…

後悔だけが押し寄せてくる。

このままでは仕事にならないから、モヤモヤとした気持ちを落ち着けるために、喫煙所へと向かった。

なまえさんの経験のためになるならと手放したけれど…

あのリーダーもそこまで低能だとは思わなかった。
俺もまだまだ人を見る目がないと、自分の未熟さに嫌気がさす。

新しい派遣社員が来ると聞いた時、正直そこまで期待していなかった。
以前来た人は、少し仕事がキツくなるとすぐに辞めてしまった事もあり、あまりよいイメージが持てていなかったのだ。

「本日より配属されました。よろしくお願いいたします」

初日の挨拶の時に、きちんと皆の前で挨拶をして深々とお辞儀をした君。

誰もいない喫煙所。
壁にもたれて煙草を吸いながら、初めて出会った時の事を思い出す。

「おあいてリーダー!何言ってるんですか!」

楽しそうに雑談する彼女の笑顔や、俺の説明を真剣に聞いて熱心にメモをとる表情、褒められて喜ぶ光景が次々と思い出される。

もっと近づきたいと願う気持ちと、今度こそはこの手で守りたいと思う気持ちが胸の中に広がっていく。

まだ、君がこの会社に来てから数ヶ月しか経ってないのに、こんなにも俺の中で
存在が大きくなっていたなんて…

そして、ある決意を胸に、灰皿へと吸殻を押し付けて、オフィスへと戻った。



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