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「あっぱぁ〜!」

「セフナ〜!」


保育園に入るなり、すぐさま俺を見つけて駆け寄ってきたセフンを抱え上げる。
大人しそうな子だと言われがちなセフンだけれど、実はとてもおしゃべりで表情豊かな子だ。

わが子ながら、本当に賢くて愛らしい子だと思う。
…ちょっぴりぼんやりしていて、のんびり屋さんなところもあるけれど。

ぽっぽして!とせがむセフンの頬に軽くキスをしてやれば、きゃあきゃあと声を立てて嬉しそうに笑った。


「お帰りなさい、ジュンミョナ」


ふわりとした優しい声に前を向けば、セフンの担任であるイーシンが教室から出てきたところだった。

抱いていたセフンを降ろして、帰りの支度をしておいで、と背中を押してやる。
その小さな背を見送って、イーシンに向き直った。


「いつも夜遅くまでごめんな、」

「ううん、大丈夫」


中高と学校が同じだったイーシンは、俺の大親友であり、良き理解者だ。
セフンのおっとりさはイーシンに似たのだろうかと思う程、彼にはずっとお世話になっている。


「今日はね、みんなでクリスマスの唄を歌ったんだ。セフナ上手だったから、また聴いてあげてね」

「ふふ、わかった」


早速帰りに聴かせてもらうよ、と話をしていたら、帽子を被ってリュックを背負ったセフンが教室から飛び出してきた。
足元に抱き付いてきたセフンの勢いに一瞬ふら付きながら、その元気の良さにイーシンと2人でけらけら笑う。

適当に巻かれたマフラーを綺麗に巻き直してやって、セフンを一日見てくれていたイーシンにお礼を言った。


「セフナ、先生にバイバイして」

「いーしんてんて、たようならっ」

「うん、さようなら。また明日ね」


ぺこりとお辞儀するセフンの頭を撫でて、小さくて温かい手と自分の手を繋ぐ。

ばいばーい!と振り返りながら手を振っているセフンに倣って俺もイーシンに手を振り、園の門を潜った。


「セフナ、今日は新しいお歌習ったんだって?」

「うんっ」

「あっぱも聴きたいなぁ」

「ききたい?あっぱ、てふなのおうた、ききたい?」


俺を見上げてくるセフンを見つめ返しながら頷くと、ふふん、と得意気に足を跳ねさせるセフン。
ねぇ、歌ってよ、ともうひと押しすれば、セフンは仕方ないなぁ、と嬉しそうに歌い始めた。


「わぁ、上手だなぁ〜」

「えへへ。ねぇね、あっぱもいっとにうたお?」

「え〜、あっぱはだめだよ〜」

「だいどぉぶ〜!」


ねぇねぇ、と繋いでいた手をぶんぶん振られて、思わず苦笑い。
ちょっぴり恥ずかしかったけれど、再び歌い始めたセフンと同じように歌い出せば、存外気持ち良くて。

もうすっかり夜だと言うのに、2人して大きな声でクリスマスソングを歌い歩く。
近所迷惑かなと思いつつも、たまにはいっか、なんて。

隣で楽しそうにはしゃぎ歩くセフンに微笑んで、クリスマスの夜が楽しみだなぁ、と心の中で呟く。
当日は、先ほど頼んで来たクリスマスケーキを彼が届けてくれる手はずになっている。
宅配もしていると言うから、セフンを驚かせてやりたくてお願いしたのだ。

今日出会った、まだ少し幼さの残る青年。
一見すると、うちのセフンの様にどこかクールな印象を与える彼がオススメだと言って指さしたのは、生クリームがたっぷり乗ったホワイトケーキだった。

甘いものは苦手だけれど、強いて言うならビターチョコレートケーキがいい、とでも言いそうな、あの男の子が。

数刻前の出来事を思い出して、くすりと笑う。
彼が届けてくれるケーキに、きっとセフンも喜んでくれるだろう。

隣で機嫌良く歌い続けているセフンのはしゃぐ姿を想像して、俺も心を躍らせた。





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