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ぱたんとパソコンを閉じて、椅子に掛けていたコートを片腕に掛ける。
デスク横に置いてあった鞄を持ち上げると、俺の前の席に座っているウーファンが顔を上げて時計を見上げた。
「ああ、もうこんな時間か」
やっぱりお前は要領がいいな。
そう言って苦笑するウーファンのデスクを覗き込むと、先ほど見た時より書類が増えているような気がする。
彼は充分機転が効くタイプなのだけれど、面倒くさがりのくせに何だかんだ人が良いから、様々な仕事を一手に引き受けてしまうのだ。
対して俺は、なるべく定時で帰宅出来るようにしてもらっている。
保育園に通っている息子の迎えに行って、夕食を作らなければならないから。
自分の仕事は出来るだけその日中に終わらせるようにはしているのだけれど、どうしても終わらないことだってある。
その時はいつも彼が引き継いでくれるから、本当に感謝している。
と同時に、とても申し訳ないのだけれど、彼はいつだって快く引き受けてくれるのだ。
「ウーファン、いつもごめんね…」
「気にするな。俺は帰りが遅くなっても平気だから」
ははは、と冗談めかして笑う同僚に肩を竦める。
手伝いたいのは山々だけれど、俺はこれからセフンを迎えに行かなければならない。
手にしていた鞄とコートを一旦椅子の上に置いて、給湯室でコーヒーを一杯淹れて。
はい、とウーファンに差し出すと、彼はまた人の良さそうな顔で笑った。
「ありがとう、ジュンミョン」
「どういたしまして。仕事、頑張ってね」
お先失礼するね、と続ければ、ウーファンは早速コーヒーに口付けながら片手を上げて応えた。
そんな彼に小さく笑って、今度こそ部署を後にする。
少し急ぎ足でエレベーターに乗って階下まで降り、鞄の中に詰め込んでいたマフラーを首に巻き付けながら外に出た。
まだ18時半を回ったばかりだと言うのに、外はもう真っ暗で。
肌を突き刺すような冷たい夜風に身を縮め、赤みを帯び始めた手で鞄を掴み直した。
しばらく歩いてビル街を抜けると、駅周辺の街並みは一気に明るく輝かしくなる。
あちこちから流れ聞こえる音楽に包まれながら、街を彩る電飾や雑貨に目を向けた。
毎年この時期になると思うのだけれど、一年は本当にあっという間に過ぎ去ってしまう。
言っているうちにクリスマスが来て、年末の慌ただしい時期を過ごし、新年を迎える。
来年のおせちはどうしようかと考えながら歩いていると、数回買いに寄ったことのあるケーキ屋の前で、サンタクロースの帽子を被った若い店員が売り子をしていた。
見ると、クリスマスケーキの予約販売を受け付けているらしい。
そう言えばケーキの予約をまだしていなかったな、と店の前まで近づくと、ぼんやりとした様子の、正直あまり愛想の良くない男の子と目が合った。
「…いらっしゃいませ」
大きくはない声でそう言った彼は、寒いのか、背中に回した両手を擦り合わせている。
表情こそ仏頂面だけれど、一応客の前だからか寒いのを我慢している様子が何ともいじらしい。
可愛らしいな、と小さく笑って、彼の目の前に置かれたワゴンに視線を落とす。
中には予約の紙らしきものと、デコレーションケーキのチラシ、数種類のちょっとした焼き菓子が置かれている。
3種類のケーキの写真が載ったチラシをじっと見ていると、店員の男の子が遠慮気味に、あの…、と声を掛けてきた。
「よかったら、チラシ持って行ってください」
「ああ、うん、ありがとう」
おずおずといった様子の彼に微笑んで、チラシを一枚手に取る。
これを貰って帰ってセフンと一緒に決めようと思ったのだけれど、忘れるといけないし…。
う〜ん、と少しの間写真のケーキと睨めっこをして、ふと目の前の店員さんを見上げる。
俺を不思議そうに見つめ返してくる彼に、ほぼ無意識のうちに問いかけてしまっていた。
「店員さんだったら、どれが食べたいですか?」
「、は?」
「あっ、ごめんなさい、急に」
「え、あ、いえ…」
一瞬きょとん、と俺を見て、すぐに逸らされてしまった視線。
こういうところでついつい店員さんに話し掛けちゃう癖、何とかしないとなぁ。
なんてこっそり苦笑しながらチラシを折り畳もうとすると、その上に軽く置かれた長くて綺麗な指。
顔を上げると、店員の彼が、これ、とまた小さな声を発した。
「え?」
「…これ。オススメ、です」
俺の個人的な意見ですけど…。
そう言った彼とチラシを交互に見てから。
彼が何だか恥ずかしそうにぷいっと顔を背けてしまうまで、俺は目の前の青年のことをぽかんと見つめてしまっていた。
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