「ちわーす!」
「お邪魔します……」
3人が体育館に着くと、すでに準備を終えた部員数名がそれぞれアップ等をしていた。
「スガさん!この人見学したいみたいなので連れてきました!!」
「見学?」
西谷に呼ばれ、やってきたのは3年生の菅原孝支。2人に比べるとずっと柔らかい雰囲気の彼に彼女は少しほっとした表情を見せた。
「んー、まだ大地たち来てないかんなー。ま、とりあえず座っててもらえるかな?」
「あ、はい。ありがとうございます」
どうぞ!こっちです!と、またもや2年コンビに連れて行かれ、2人の大声にいちいちビクついている彼女を菅原がうわぁ、お気の毒に。と見守っていると、日向と影山があれ、誰ですかー?と近づいてきた。
「見学に来たんだってさ。とりあえず大地が来るまでは待機してもらおうと思って」
「……あの制服、確か青葉城西のですよね」
「あの大王様と同じ学校!?」
うげえ、と顔をしかめる日向。彼らは先日、及川徹率いる青葉城西と練習試合をしたばかりだ。といっても、及川本人はケガの理由で最後に少しだけでただけだったが。それでも烏野に与えたインパクトは相当なものだった。
「っていうことは!もしかして、そのときに俺のプレーに惚れてここまで!?」
いやあ、人気者は辛えなぁ!!といつの間にか戻って来たらしい田中と西谷に、いや、西谷は出てないだろ…。と菅原のツッコミが入る。
「でも、本当になにしに来たのかな。わざわざ、烏野まできて…」
「いや、だから俺に惚れて」
「確かに。バレー部の練習だって青葉城西の方が指導者もいるし質が高いですし」
「なあ、影山!あの人なんか誰かに似てない?」
日向の言葉に、そうか?と、影山も彼女の方をみる。黒髪で癖っ毛で身長が小さい…。別に思い当たる人物はいない。本当に誰かに似てんだよ!うぁー誰だ!?とやかましくなってきた日向にやかましいわボケ!と影山が怒鳴ったとき、
「…ちわーす。何してんですか、みんなで集まって」
「月島!あれ、山口は?」
あらたに体育館に入ってきた月島。相変わらず何処か飄々としてる彼の横にはいつもいる山口がいない。
「ああ、忘れ物取りにいって「やっと見つけた!ツッキーくん!!」
さっきまで体育館の隅に大人しく座っていた彼女が急に笑顔になり、月島の元へ駆け寄って行く。西谷と田中がまさかの月島目当て!?とショックを受けたが、彼女の次の行動は予想外のものだった。
月島まであと1メートルというところで彼女はグッと拳を握りしめ、後ろに振りかぶり、走り寄るそのままの勢いで月島の顔めがけて振り下ろしたのだ。
「ツッキーくん!覚悟ぉぉぉっっわぷっ!」
ー正確には、月島に拳が届きそうなところで月島がよけ、彼女は体育館の床とキスすることとなったのだった。
「なんで避けるの!?黙って殴られなさいよ!」
…いたい。と赤くなった鼻を押さえ、彼女は座り込んだまま月島を睨む。
「お久しぶりです、愛さん。相変わらずのバカっぷりですね」
一方の月島は冷笑を浮かべ彼女を見下ろし、あ、立てます?良かったら手を貸しますよ?と、手を差し出した。一見紳士的だが、明らかに小馬鹿にしているような表情で見ているため全てを台無しにしている。
「自分で立てます!!いつも私のことバカにして」
「そんな。僕はただ事実を述べてるだけです」
「もう!なんな「ちょっと待って!?」
大人しそうな子が殴りかかったという事実と、その知り合いらしい月島に誰もがポカーンとしていたが、ようやく菅原が復活した。
「……とりあえず。この人は誰なの?あと、月島との関係は?」
その質問は誰もが聞きたかったことで、一同後ろで頷いている。
「ああ、この人は「姉さん!?なんでここにいんの!?」
……山口のお姉さんの愛さんです」
月島の声を遮ったのは今部活に来たらしい山口の声。ちなみにこう見えて高3です。という月島の紹介は、えぇぇ!お姉さん!?という部員の驚き声でまたもやかき消された。