仁王くんに話しかけられてからというもの、3年になる前丸井くんと何かあったっけ?と考えてはみたが特に思い当たることはなかった。テニス部に興味が無かったとはいえ、有名人の丸井くんと何かあれば覚えてるはずだ。

うーん……。


「なまえ、ぼーっとしてないでさっさと混ぜちゃって」

「あ、ごめん」


思考とともに手も止まっていたらしく、友人に怒られてしまった。ちなみに今は調理実習の時間で今回作っているのはカップケーキだ。料理は卵料理しか作ったことがない私は、皆の迷惑にならないようにと混ぜる、切る、などの単純な作業を請け負っている。


「よし、出来た!!」

「結構、上手く出来たね」


出来たもののうち一つを皆で分けて味見する。うん。美味しい。良かった、私が計量に関わっていたらこんなに上手くは出来なかっただろう。あとはラッピングだ。他の女の子たちは可愛らしくリボンやらレースやらで飾っていく。もちろん、自分用だとそこまで頑張る必要はない。それぞれお目当ての人がいるわけで、


「ねえ、だれにあげるの?私は幸村くん!」

「私は赤也くん!」

「あんたほんと、年下好きだよねー」


こういうときにテニス部の人気さを実感する。たまにサッカー部の誰だとかバスケ部だとかでてくるけどやっぱりすごいなー。


「私は丸井くんかなー」

「、」


それでも、出てきた彼の名前に思わず反応してしまう。それに気付いた友人が、ねえ、と小声で話しかけてきた。


「なまえはあげなくていいの?丸井くんに」

「いや、いいよ。私が渡しても多分丸井くん困っちゃうし」


私のシンプルなラッピングを見て、本当に渡す気は無いのだと思ったのだろう。…ならいいけど。とそのまま他愛のない話を続けて授業が終わった。


「あ、丸井くん!これあげるー」

「私のも良かったら!」


クラスへの帰り道、3年B組の前を通ると、早速渡そうと丸井くんに女子が群がっていた。相変わらずすごい迫力。

それに笑顔で対応する丸井くんもすごいけど。

私が嫉妬するだけの資格も無いのに、丸井くんの笑顔をこれ以上見たくなくて、足を早めた


ーのだが。


「なまえちゃんは誰かにあげないんか?」

「げ、」


げ、とは酷いのう。と全然そうは思ってない表情で前に立ちふさがる仁王くんに思わず眉間に皺がよる。またお前か。正直、あの一件で仁王くんは私の苦手人物に認定された。しかも、この前は苗字だったのにランクアップしてるし。まだ、B組の前なので、丸井くん、丸井くんと女の子の声がうるさい。


「で、あげないんか?カップケーキ」

「……あげる気無いんで」


嘘。本当はあげるだけの勇気が無いだけ。


「ほう、それは残念じゃのう。てっきり俺にくれるかと思っとったんに」

「いや、誰かにあげるとしてもそれは無いです」

「まあ、あげる気無いんならちょうどいいナリ。俺にくれ」


この人は相変わらず意味がわからない。こてんと首を傾げて両手を出してる仕草はなんか似合ってて逆にむかつく。


「は?あの、話聞いてた?」

「やっぱり敬語なしの方が可愛いぜよ」


会話が通じない……。
どうしたものか。正直、さっさと帰りたい。一応この人もテニス部。今現在廊下にいる女子からの視線が痛い。これはぱっとカップケーキを渡してちゃっちゃと立ち去るのが得策かな。


「……もういいです。これあげるんで、できればもう関わらないでください」


思わずため息がでてしまったが、あい変わらずニヤニヤ顏の仁王くんにカップケーキを押し付け再び歩き出す。

ありがとさん。と少しだけ嬉しそうな声を背中に、勇気があったなら丸井くんもこうして受け取ってくれたのだろうかと、未練がましい考えが頭をよぎった。


私だけに笑ってなんて
(どうせ行動は出来ないくせに。)
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