あのあと、また丸井くんが話題を振ったりしてくれたけど、私はさっきのことが気になってうわの空だった。そのまま駅に着き、丸井くんが何かを言い出すまえに、またね。と私はホームに向かった。


(…面白くない女だって、嫌われたかな)


でも、それでいいんだと思う。そしたら、今日みたいに帰り道に誘われることもなければ、図書室に来ることもないだろう。また窓から眺める日々に戻るだけだ。


そう、思っていたのに。


あの日から一週間後の放課後。ここは図書室、ではなく屋上庭園の横にあるベンチ。

テニス部勉強会事件がきっかけで何人かの図書委員に窓の秘密がばれ、ちゃんとカウンター当番に来るようになった。それはいいのだが、「今、丸井くんと目があっちゃった!」「あ、見て赤也くん怒られてるー!」と、ひと気のない図書室にはよく響く音量で話すので必然的に私は移動することになる。


そこで、選ばれたのがここである。時間によっては日差しが当たるというのが辛いが放課後はめったに人が来ないので静かだということは、1年のときからたまに使っているので確認済みである。なのでここ数日、この場所で読書に勤しんでいたのだが…


「あの、何か用ですか?」

「プリッ」


屋上にきてから、ずっとこちらを見ている銀髪の人。こんな珍しい髪色なんて当てはまるのはひとりしかいない。


「え、と。仁王くん?でしたっけ?部活はいいんですか?」

「サボり中なり。なんじゃ、俺のこと知っとったんか」

「まあ、テニス部は有名ですし」

「ほう、意外じゃのう。みょうじちゃんはそういうのに疎い方だと思っとったんに」


ほんとにそう思っているのか、目を丸くした仁王くんはすぐにニヤッとしてそう言った。正直、こういうつかみどころのない人は苦手だ。


「立海生なら、誰だって噂くらいは耳にしますよ。ていうか仁王くんこそ、私の名前よく知ってましたね」


図書委員長で一度だけ生徒の前に立ったことがあるがそのときだろうか、と考えていると、帰ってきたのは意外な言葉で。


「いや、丸井からよく聞いとるからの。テニス部はみんな知ってるなり」

「は、え?柳くんじゃなくて?」

「まあ、3年になってからは柳からも聞くようになったが、丸井はうるさいくらいじゃ」


は、いや、柳くんは本について語るからまだ分かるけど、なんで丸井くん?しかも、今の言い方だと3年生になる前から私のこと知ってたみたいな…。


「いやいやいや、ないでしょ。何言ってんの」

「信じてくれんのか。ひどいのう。まあ、暇ならテニス部の見学見にきんしゃい。歓迎するなり。あ、それと、」


喋り方、敬語なしの方が可愛いぜよ。

そう言い残して、仁王くんは屋上から出て行った。そういえば困惑しすぎて途中から敬語取れてたな。と思ったのは数分後に仁王くんの言葉を理解したときだった。


見えないラインのあちら側
(ペテン師は謎をばらまいて行きました)
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