「あれ、もしかしてもう返却無理?」


思わぬ人物の登場により思考停止していた頭がその言葉で覚醒する。このまま黙ってちゃダメだ。不審すぎる…!


「あ、いや、まだ大丈夫です!」


大丈夫だろうか。声は震えていなかっただろうか。顔に出るタイプではないけどむしろ無表情すぎって友達に言われるけど、赤くなっているかもしれない。出来るだけ顔を見られないようにしながら本を受け取る。


「良かったー!今日、この本返して新しいの借りて来ないと柳に怒られるんだよー、ありがとな」


あの丸井ブン太くんが、いつも窓越しで見ていた笑顔を私に向けてる……!?どうしよう。


「いえ、ただ仕事してるだけなので」


ちょっと、今の可愛くなかったかな….。にやけるの抑えるために今絶対変な顔してるし…。


「柳もひどいよなー、ミーティングに遅れた罰で俺のことパシリに使うんだぜ?あ、柳が次借りる本、カウンターの奴に聞けば分かるって言ってたんだけど……」

「あ、多分これだと思います。以前話してたので」


そう言って手続き済みの2冊の本を渡す。だから丸井くんが来たのか。きっと偶然なんだろうけど、柳くんありがとう。お礼に、柳くんの読みたがってた私物の本貸してあげよ。


「お、サンキュー!あ、そうだ、これやるよ。手ぇ、出してみろぃ」


戸惑いつつも反射的に手を出す。そこに置かれたのはグリーンアップルのガム。


「じゃあな、結構遅いし気いつけて帰れよ。みょうじ!」


え。と思考が追いつかないうちに丸井くんは去って行ってしまった。


目があったどころじゃない。
(な、名前呼ばれちゃった……)
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