放課後。

私は友人に言われたとおり図書室で彼女を待っていた。1人も利用者がいなかった図書室はとても静かで、久しぶりに集中して本が読めた気がする。

今読んでいるのはネットで話題になっている恋愛小説。偶然見つけたブログでの評価が高く、コメントに惹かれたので思わず買ってしまったのだが、思った以上に面白い。コテコテの恋愛小説は今まで食わず嫌いして避けていたけれど、こんなに楽しめるのは現在進行形で恋をしているからだろうか。また他の作品を読んで見るのもいいかもしれない。


(この女の子、両想いなんだからさっさと告白しちゃえばいいのに)


そう思って、ふと自分も友人に似たようなこと言われたのに人のこと言えないじゃないかと少し笑ってしまう。

そういえば、迎えはまだだろうか。彼女の部活は、比較的早く終わるから部活生の帰宅ラッシュに巻き込まれないのだと言っていた気がする。そうなればとっくに来ても良い頃だけど…。何かあったのかな。


(一応、戸締りは済ませておこう)


窓を閉めようと窓側に近づくと、自然とテニスコートが目に入った。男子テニス部の練習は終わっていてテニスコートでは下級生と思われる部員がコート整備をしていた。……なに無意識に赤色を探してるんだ自分、と脳内で喝をいれつつ戸締りを進める。

すると、小走りでこちらに向かう足音が聞こえてきた。やっと友人が来たようだ。まるで丸井くんに初めて図書室で会ったときみたい。あのときはすごく緊張したな、と最後の窓の鍵を掛けながら思い出しているとガラッと扉が開く音。


「遅かったね、何かあった?……ぇ」


そう言いながら入り口のほうを振り向けばそこにはあの日と同じ赤色の人物が立っていた。


「あのよ。……話があるんだけど」


待って、何でここに丸井くんがいるんだとか、やっぱり友人は遅すぎないかとか、頭が混乱して丸井くんが何を言っているのかの理解も遅くて返事に思わず詰まってしまう。

それを気にしていないのか、ずっと斜め下に目線をやって私の顔を見ないあたり本人も余裕がないのか分からないけど、話を続ける丸井くん。


「みょうじは、俺のこと知らなかっただろうと思うけどさ、俺はみょうじのこと知ってたんだ」


ずっと前から。そう続いた言葉に、思わず、え。と声が漏れる。


「2年のとき、みょうじ、ジャッカルと同じクラスだったろぃ?」

「あ、うん」

「俺、それで教科書借りに行ったりしてたんだ。そのときのみょうじ、毎回毎回本読んでて、何か大人だなって思ってた。初めはそれだけ」


確かに、休み時間とか暇さえあればずっと本を読んでいた。クラスの仲良い子も気を利かせてそっとしてくれてたし。集中すると周りが見えなくなるタイプだけど、まさか人気者の丸井くんが来ても気づかなかったなんて。どうりで覚えていないはずだ。


「それからしばらくして、ある日弟を迎えに図書館に行ったら、ちょうど読み聞かせしてて。弟に読み聞かせのお姉さんのことは聞いてたからどんな人だろうと思って覗いてみたらみょうじでびっくりした」


だって、あんなに笑うなんて想像出来なかったし。

そう言って、丸井くんは照れ臭そうに笑いながら頬を掻いた。


「それから気づいたら目で追うようになっちまってさ。なんだ、普通に友達と話して笑ったりするんじゃねえかとか、本当に本が好きなんだなとか勝手に思ってて、まあ、話しかけるつもりは全然なかったんだけど。でも、3年になって、柳が仲良くなったって言ってるの聞いたらなんか気に入らなくてよぃ」


何処からか入ってきた風に揺らされた髪が視界に入る。やばい、どこか戸締りし忘れてるじゃんと思う思考は残されていなかった。丸井くんが話すたびに顔が熱さを増してくる。
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