「そんなの、脈あり以外の何物でも無いでしょ」


私が相談料として献上したお菓子を摘まみながらそう言う友人。ここは図書室横の空き教室で司書の先生に鍵を借りて使わせてもらっている。

昨日の出来事を聞いて欲しくて、自意識過剰だよと笑い飛ばして欲しくて人目のないこの場所へと来たのだが、返ってきたのは肯定の言葉。


「いや、でも逆に仁王くんと仲良くなりやがって的な嫉妬の可能性は、」

「本気で言ってる?」


バカなの?と鋭く睨まれ、いえ、冗談です…。と机に突っ伏してため息をつく。


「それにしても、不思議なんだけど」

「何が?」


彼女の声に顔だけそちらへ向ける。


「あんた、丸井くんが好きなんでしょ、普通は喜ぶところなのになんでそんなに否定しようとするの?」


それは、と思わず口ごもる。確かに、自分の好きな人から、確定してはないものの好意を持たれているというのは嬉しいことだ。それではなぜ戸惑っているのか。それは多分、


「…自信がないんだと思う」


彼のために何かしてきたわけではない。容姿が特別秀でているわけでもない。ただのしがない図書委員の私が、アイドル的存在の丸井くんに好かれる要素なんて皆無に等しい。だからこそ、窓から見つめるだけでも充分だったのに。


「あんなこと言われたら期待しちゃう」


あんなこと言われたら、というのは違うな。あの日丸井くんが図書室に来たときから、私は貪欲になってしまった。それまで遠い人だと思っていた人が、フレームから飛び越えて現れたあの感覚。もっと話したい、触れたいという感情を持ち始めてしまったのだ。


「だったらさ、いっそのこと告白しちゃえば?」

「こく、はく?」


そうすれば自意識過剰かどうかはっきりするじゃない。と提案する彼女に、そんな無茶な…と呟く。


「じゃあ、どうしたいの?さっきからうだうだ、それで何か変わるわけじゃないでしょう?」

「それはそうだけど…」


何でもサバサバと意見を言う彼女。そこが好きなところでもあるけれど、告白しろだなんて言われると思っていなかった。煮え切らない返事の私に彼女は続ける。


「まさか、丸井くんがファンをよく思ってないってこと気にしてるの?」


う、と反応してしまった私に、図星か。と呆れる友人。


「だって、丸井くんは私のこと本にしか興味がない女だって思ってるから、警戒せずに接してくれたんだよ?それなのに、そんな裏切るようなこと出来ないよ」

「つまり、結局は他のファンと一緒かって幻滅されたくないんだ」

「……うん」

「そう思ってるのが本当かもはっきりしないのに?」

「……うん」

友人はそう、分かった。といいお菓子を片し始める。時計を見ると、もうすぐ昼休みが終わってしまう時間だった。私も広げっぱなしのお弁当を片付け、2人で教室をでる。


「私ちょっと寄るところあるからここで。あんたも鍵返しに行くんでしょ?」

「うん」

「なまえ、今日の放課後カウンター当番だよね?部活終わったら迎えに行くから、待っときなさいよ」


帰る方向の違う友人がそう言うなんて珍しいなと不思議に思ったものの、了解と返事をして彼女とは別れた。急いで鍵を返さないと掃除に間に合わなくなってしまう。早足で職員室まで向かった。


ファンだから駄目なんだよ
(好きと伝える勇気も、嫌われる勇気も、私は持ち合わせていない。)
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