となりの彼

「えー、このクラスの担任の一宮です。担当教科は古文。ちなみに授業はばんばん生徒に当てていくスタイルですのでよろしく」

「えー!」

「はい、今えーって言ったやつ真っ先に当てるからなー」


1時間目はクラスごとのホームルーム。担任の一宮先生は割と若い男の先生だった。顔もなかなかイケメンな部類で、入学式の時はスーツをしっかり着こなしまさに好青年といった挨拶でお母様方のハートを掴んでいた。しかし、今はどうだろう。格好もポロシャツにジャージと随分ラフで自己紹介も保護者がいない分随分ゆるゆる(というか適当)だ。そのせいか緊張のとけた生徒からも何歳なんですかー?恋人はー?なんてある意味定番の質問が飛び交う。


「僕のことはまあぼちぼち知ってもらうとして、1時間目は自己紹介から始めたいと思います。ただ普通に自己紹介しても面白くもないのでまずは隣の人と話して、そのあとお互いの紹介をクラスのみんなにしてほしいと思います」


はいじゃースタートー、とリアクションする間も無く告げられた合図。周りからは戸惑いながらも隣の人と自己紹介している声がざわざわと聞こえ始めたが私はまだ動くことができなかった。別にやり方に文句があるわけではないがまだ心の準備が整っていない。こちとらついさっきお隣さんが未来の皇帝だと知って脳内処理が追いついていないというのに……一体何を話せと言うんだ。あ、自己紹介かそうか。

ちらっと横を見るとばっちり皇帝(仮)と目が合ってしまった。見た目硬派な印象の彼は私にどう話しかけたら良いか分からないようで、これは私からいかないとかと覚悟を決める。


「えっと、真田くんだったよね?さっきは名前も言わずにごめん。私は春名葵、神奈川第三小学校出身。よろしくね」

「さっきも言ったが真田弦一郎だ。小学校は神奈川第一だった。こちらこそよろしく頼む」


……なんか、アニメで見た時よりは幼い見た目だけど真田くんの口から小学校とか似合わなくてじわじわくるのに、ここからさらに成長するとか嘘でしょ。
そこから無難にプロフィールを話していき、家族構成の話になった。最近甥っ子におじさんと呼ばれるのが気になっているらしい。真剣に言う姿が微笑ましいのと2年後の年不相応な真田くんの外見を思い出し思わず笑ってしまったら、何がおかしいと不満そうな顔をされてしまった。そういうとこは年相応で、意外と可愛らしいところもあるんだなぁ。


「いや、ごめんごめん。えっと、私はね、両親と、あと2歳上の兄が1人。氷帝に通ってるんだー。」


私の家、ケーキ屋だから良ければ買いに来てねーなんてさりげなく宣言したのだが、急に難しい顔をしだした真田くんが気になったのはいいそこではなかったらしい。


「ん?……もしかして兄上はテニスをしているのではないか?」

「え、うん。してるけど。よく知ってるね」

「たわけ!氷帝の春名瑞樹と言えば関東でテニスをしているなら知らぬ者などいないぞ!」


過去に試合でもしたことあるのかと思えばそうではないらしく、まさか知らんのか!?と凄い勢いで話し始めた真田くん。さすが未来の皇帝、迫力がとても中1とは思えん……

聞くに、兄さんは相当凄い選手のようだ。なんでも、フィジカルは突出していないもののそれを充分に補う技術と頭脳で中学から出場した試合はほぼ快勝を飾っているという。その戦績もさることながら、後輩指導も熱心に行うことは有名であり、その指導を受けた選手は見違えるほど力をつけるため氷帝の影の部長と呼ばれているうんぬんかんぬん……
どうやら兄は想像以上にチートだったらしい……。


「怪我から復帰したと聞き、試合を観に行きたかったのだがどうしても外せない用があってな……どうだ、妹から見て強さの秘密はなんだと思う!?」


家で何か特訓しているのでは?と何やら期待しているような目で見られているが、家に筋トレの機材があるわけでもないし特別何をしているかは知らない。強いて言うなら毎日ジョギングを欠かさないことだろうか。

そう伝えると見るからにショボンとした真田くん。
……これがギャップ萌えというやつか。横に(´・ω・`)の顔文字が見えたぞ。おいおい兄さん凄い人に好かれてるなぁ。
私の知っている兄さんはやたらと構って来る少しウザいおバカな熱血男なんだけど。そりゃあ、進学の時も助言してくれたようにいざとなれば頼れるけど……普段がいかんせん残念だからなぁ


「えっ……と、そんなに気になるなら一度うちに来て兄さんに会って見る?」

「!?……いいのか?」

「まあ、他校のテニス部員に秘密を教えてくれるかどうかは兄さん次第だけどね」

そこは自分で何とかして、と伝えれば十分だ!と嬉しそうだ。

あからさまにガッカリされるもんだから何かしてあげたくなってしまった。まさかこんな強面に母性をくすぐられる日が来ようとは……

真田くんが横で何やらぶつぶつと考えている内に自己紹介タイムが終わり、次は隣の人をみんなに紹介する他己紹介?の時間だ。無難に出身校などの紹介と、先生の案で最後に第一印象を発表し、次のペアへ。みんな優しそう、話しやすいと無難にいう中、時折同じ小学校同士の生徒がお互いの面白エピソードを披露し、周りの笑いを誘っていた。彼はきっとクラスの中心人物になりそうなお調子者だな。

そしてとうとう私たちの番だ。順番的に真田くんが先に立つ。名前、出身校、そして家がケーキ屋ということも伝えてくれた。女子が何人か反応を示してくれ宣伝になったようだ。よしよし、でかした真田くん。あとは第一印象か……相手が真田くんなだけに気になる。


「春名とは家族も含めて長く良い関係を続けていけたらと思います!以上です」


時が止まったかのように教室が静まりかえる。

いやいやいや、これはあれだから、下手したらプロポーズな感じで聞こえるけど、テニス情報を知る上での付き合いだから、違う違う、一部の女子そんなキャーって顔しないで、なんかリアルだから。


「………なに?カップル誕生的な??」


おいこらお調子者くん!

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