ランクガアガリマシタ

「なあなあなあ、お前らさ、実際どうなの?付き合っちゃう感じ?」


ホームルーム終了後早速絡みに来たお調子者くん改め落(おち)くん。すっごいニヤニヤしてるからただ単にからかいに来たんだろうけど、私はともかく中1あるまじき迫力の真田くんによく絡みに行けるなあ……まあ、そこがお調子者たる所以なのだろう。
真田くんは急にハイテンションでやってきた彼に驚きつつも「ああ、そのことか」と律儀に体の向きを落くんに向けて答える。


「さっきも言った通り良い付き合いをしていきたいと思っているが?」


いやいや、何キリッと決めとんねん!誤解を解くどころか助長しちゃってるから!!
すごく真面目な顔で答えるものだから落くんもえ?まじ?とキョトン顔。


「落くんさあ、真田くん意味わかってないからやめたげてよ」


そろそろきちんと否定しないと思わぬ形で私の平穏な中学生活が崩れ去ることになってしまうと、思わず反論する。何かおかしいか?と怪訝な顔をする真田くんにからかわれていること教えてあげると「なっ、学生の分際で交際などたるんどるっ」と顔を真っ赤にして叫び出した。こらこら、そんな大声出すからクラス中の視線を集めてしまったではないか。真田くんは気づいてるのか気づいていないのかそのまま大声で事情を説明しはじめる。その調子で今度こそみんなの誤解を解いてくれ、真田くん。


「なーんだ、お目当ては兄貴の方かよー」

「いや、そんなあからさまに残念がらないでくれる?」

「うそうそ、ごめんて!でも春名もだけど真田って意外と面白いやつなのな!」


真田が教室に入って来たときはどこの教師かと思ったぜ!と続ける落くんに思わず吹き出してしまった。周りのクラスメイトも「それなー」「なんか空気がピシッとしたよな」と何人かこくこく頷いているし、真田くんはショックで固まってるし… …腹筋が死にそう。


「ちょっとやめたげてよ……真田くんそこらへん繊細なんだから」

「おい春名、よく分からないが馬鹿にしているだろう」

「なんでよ?かばってあげてるのに」

「では何故目をそらす!」

「いや、だって甥っ子におじさんて呼ばれてるの気にしてるんだもんね……」

「やはり馬鹿にしているではないかぁ!」


顔を真っ赤にして怒る真田くんに余計笑いが止まらなくなってしまう私。みっちゃんが背中をさすってくれてようやく落ち着くことができた。いやぁ、真田くんがこんなにいじりがいのある人だとは思わなかった。それは周りも同じだったようで真田くんの迫力に萎縮していたクラスメイトもいじり……気さくに声をかけ始めた。また真田くんも一人ひとりにきちんと対応していくものだからその生真面目さが逆に親しみやすさを生んでいるようだ。
あ、そういえば、とすっかり忘れていた柳くんの姿を探すと席から動かず手元のノートを確認していた。時折教室を見回し書き加える姿を見るにクラスメイトのデータを集めているのだろう。さすが抜かりない。


「ねえねえ、春名さん家のケーキ屋さんってどこにあるの?」


男子たちが盛り上がり、すっかり蚊帳の外になってしまった私とみっちゃん。2人で「このクラス行事とか張り切りそうだねー」と話していると女の子グループが話しかけてきてくれた。他己紹介のお陰で興味を持ってくれたらしく、場所やおすすめのケーキをどんどん聞かれる。なかには地元の雑誌で取り上げられたのを見て気になっていたという子もいてちょっと嬉しい。ちなみに、今のおすすめは旬のイチゴをたっぷり使ったイチゴのタルトだ。


「え〜、話聞いてたら食べたくなってきちゃった。今度みんなで行ってもいい??」

「もちろん!お父さんたちも喜ぶよー」

「雑誌に書いてたイケメンパティシエチェックしに行かなきゃ!」

「みっちゃん、それは何か恥ずかしいからあまり言わないで」


確かに娘から見ても同年代に比べ若々しさを保っているように思えるが、いい歳した父親が「イケメン」と称されるのはなんだか気恥ずかしい。その後もいつお店に来るかとか、学校の近くにも美味しいケーキ屋さんがあるらしいとか女子は女子で楽しくおしゃべりを楽しんだ。クラスの雰囲気といい、人間関係もなかなかな良い滑り出しではないか。


「おい春名、随分盛り上がっているが、俺との約束も忘れてはいないだろうな?」

「はいはい、ちゃんと兄さんに会わせてあげるから安心してください」


あまりに女子で盛り上がっているからって、そこまで忘れやすくないから不安にならなくていいのに……心配性すぎ。そんなに兄さんに会いたいのかと苦笑いで答える。と、そんなやりとりをしている私たちをまたもや落くんがニヤニヤして見ていた。……何か嫌な予感がするのですが。


「なんかお前らさ、カップルっていうかもはや夫婦だな!」


はい、予感的中。

しかも他己紹介の時とは違い、クラスのみんながうち溶けたこのタイミング。たしかに!よっ真田夫妻!と悪ノリするクラスメイトに頭をかかえる。


「私も空気読んで葵ちゃんじゃなくて真田嫁って呼んだ方がいい?」

「みっちゃん、やめて」


そんな騒ぎの中、視界の端っこで柳くんがノートにペンを走らせているのが見えた。おいおい、何を書いてるの。
せっかくカップル誕生の誤解は解けたというのに、こんなランクアップ求めてない!
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