ハロー新しい世界

月曜日、青い空に朝日が眩しい。なんと清々しい朝だろう。今日から本格的に立海生としての生活がはじまる。

なんとか目の腫れもひき安心したのもつかの間、同じ電車に乗っている新入生だと思われる立海生のほとんどがグループができていることに気づいた。きっと同じ小学校とかでもともと知り合いだったのだろう。

クラスでもこんな感じだったらどうしよう、すでに出来上がったグループの中に入るのは大変だなぁとまだ見慣れぬ窓の外の景色をみながら考える。まぁでも、せっかく2度目の青春を過ごす機会を与えられたのだから楽しまないと損だろう。

よし、もうあーだこーだ考えるのはやめて平和に立海生活エンジョイしてやろうじゃねーの。

と、思ったはいいのだけれど。


「………」


……なんか凄い見られてるんですけど。


「あ、の?」

「………」


どうしたものか。無事学校につき、さあ靴を履き替えようと思ったらこれだ。おかっぱ頭の少年がじっとこちらをみて動かない。それだけなら気づかないふりをすればいいのだけれど、彼の真後ろにあるのがまさに私の靴箱なのだからとても困っている。私の困った視線にも気づいているだろうに、はたから見ればなぜ見つめあってるのかという謎の状況である。

確かこの子は新入生代表で挨拶してた子だよな。ええと、名前なんだったっけ。


「柳蓮二だ」

「へっ?」


タイミングよく自己紹介するものだから驚いてまぬけな声が出てしまった。なるほど柳くんか、名乗られたところで正直余計どうすればいいのか分からなくなってしまったけど名前を教えてもらったからにはこちらも返すのが筋というものなのだろうか。


「あ、どうも。私は」

「春名葵、クラスは1年C組で出身小学校は神奈川第三」


………なんだなんだ。私の言葉を遮ったかと思えばスラスラと口に出されるのは私の簡単なプロフィール。もちろん、話したことはこれが初めてで柳くんに興味を持たれるようなことをした覚えもない。クラスでの自己紹介もまだなのになぜ知っているのか。「何か間違いがあったか?」と首をかしげるその姿は可愛らしいが間違ってないからこそ恐ろしいのであって……というか今眼を開いた?糸目だと思っていたけどまさか今まで目を瞑っていたのだろうか?


「ちなみに、俺も1年C組だ。よければ教室まで一緒にいかないか?」

「はぁ。別に構わないけど」


私の返事を聞くと同時に、では行くぞと言わんばかりで歩き出す彼。
友達ができるか不安だった通学路。もしかして彼が友達第一号になるのだろうか?悪い人ではなさそうだけど謎の多い一癖も二癖もありそうな人だ。
でもそれもこれから知っていけばいいのかな。入学式のときも今日もなぜ私を見ていたの?とか、なんで私のこと知ってるの?とこいろいろ疑問だらけだけど、とりあえず姿勢良く歩いて行く彼に伝えたいことは、


私、まだ靴履き替えてないんだって。


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教室に着くまでの間、柳くんとは色々と話をした。いや、話すというよりは柳くんが様々な情報を提供してくれたという方が正しいのだろうか?初めは柳くん個人の簡単なプロフィールなどクラスメイトとして普通の会話だったものがいつの間にか立海の成り立ちに代わっていたのだから私の発した言葉といえば「へえ」「そうなんだ」の2種類のみだ。(さすがに入学生の出身小学別の人数を把握していたのは引いた)


「そして、立海は部活動にも力を入れていることでも有名だ。特にサッカー部とテニス部は全国規模でみても強豪と呼ばれるにふさわしい経歴を持ち………」


そこからまた長々と野球部はこう、吹奏楽部はこう……と細かい情報を話す柳くん。先輩ならともかく同じ一年でこの情報量とは恐ろしい。テニス部が強いのはまあ、「知って」いたわけだけど他の部活も結構強いんだ……文武両道ってやつ?


「春名は何か部活に入る予定はあるのか?あるなら是非データにとっておきたいのだが」

「いや、データって何……」


開いてるのか開いてないのかよくわからない目が心なしかキラキラしている気がするのだけど…….。でも、部活かぁ。前に中学生してたときは帰宅部だったから入ってみるのも面白いかもしれない。でも今聞いた限りじゃどの部活も凄そうだしなぁ。


「帰宅部も視野に入れつつ、見学して決めようかな。そういう柳くんは決めてるの?」


私に聞いてきたからにはもう目星をつけてるのだろうかと、質問してみる。相変わらず読めない表情をしてるけどどうなんだろ。柳くん見た感じ文化系の部活が似合いそうだよな……文学部とか。


「俺か?俺はテニス部一択だ」


もうすでに入部届けは記入済みだ。と微笑みながら教えてくれる柳くんに、私の足が止まる。ちょっと待って。え、テニス部?ってあのテニス部?待って、え?


「う「嘘でしょ?と、お前は言う」


あ、それなんか聞いたことあるやつ……

してやったりといった表情の柳くんに前世の記憶が蘇る。なぜ名前を聞いてすぐ思い出さなかったんだ私。平和に立海生活エンジョイするっていう目標、早くも雲行き怪しいです。
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