入学、しました

『立海大附属中学校○○年度新入生の皆さん。入学おめでとうございます』


そんな言葉から始まった校長先生の挨拶は、すでに10分以上経つが終わる気配を見せず、すでに睡魔に負けている生徒もちらほら。もちろんブンちゃんもその1人だ。

私は結局、家族と話し合った結果立海大に入学することに決めた。親を通じてブンちゃんにもそのことは伝わったみたいだけど良くも悪くも何も起こらず、相変わらず避けられ続けた。まあ、ブンちゃんが受験をやめるという最悪な事態は避けられたし良かったかな。

受験も特に問題なかった。応用問題はあれど伊達に前世の記憶があるわけではない。変なミスさえしてなければ満点近いのではないかというくらいの自信はあった。(トップの成績だと新入生代表挨拶があるのか、面倒くさいなー)とか思ってたけど、そんな話は来なくて、あんなに自信満々だった自分が恥ずかしいんだか情けないんだか……。まあ受かったんだし良しとしよう。


「新入生代表挨拶」


おっといけない。

いつの間にか校長先生の話は終わったようでちょうど新入生代表の生徒が壇上に立ったところだった。

あの子が入試1位ってことだよね。凄いなぁ私が普通に小学生してたらあんな問題解けそうにもない。おかっぱで小柄なせいか一瞬女の子かと思ったけど、制服を見るとどうやら男子生徒らしい。


「---新入生代表、柳蓮二」


そう締めた彼は一礼をし席の方へと戻ってくる。その姿をぼーっと見ていると私の一列前の席についた。なんだ同じクラスだったのか。……あれ、さっきも座ってたっけ?前に行くとき全然気づかなかった。どんだけ考え込んでたのよ私。


「………」


なんて思ってたら柳くんが振り返って目があった……と思う、正直糸目だからあまり分からないけど。さすがにガン見しすぎたかと一応会釈しておいた。


さて、次は上級生による校歌斉唱。入学式ももう終わりだ。



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「葵、ちょっといいか」

「っあ、うん、何?」


……びっくりした。まさか、ブンちゃんから話しかけてくるとは思わなかったから。思わず変な声が出ちゃった。

入学式も、そのあとのホームルームも終えてお母さんと合流しようと向かっていた頃。急に声をかけられたと思ったら、妙に真面目な顔をしたブンちゃんで。ここじゃなんだからと、どこかへ移動しようとするブンちゃんの後ろをついていく。


(ブンちゃん、背伸びたなぁ)


久しぶりに間近でみた背中は随分と大きくなっていた。あの頃はまだ私の方が背が高かったのになぁ。思わず頬が緩んでしまう。

ブンちゃんが足をとめたのは裏庭だった。ベンチも置いてあってお昼も食べられるらしい。日当たりはいいし緑も多くていいかもしれない。


「あのさ、話なんだけどよぃ


ーーーもう、必要以上に関わらないようにしたいんだ。家でも、学校でも。あと、呼び方も。まあ、呼び方は関わらなければ呼ぶ機会もないだろうけど一応…」

「ちょ、ちょっと待って?」


待って。理解できない。そりゃあ、ブンちゃんの様子から明るい話ではないと思ってたけど。


「なんで、いきなりこんな」

「……確かに今更だけど、俺たちが幼馴染だって知ってるやつ少なくなった今がちょうどいいだろぃ」


そう伝えるブンちゃんは真剣な目をしてこちらを見ていて本気なんだと嫌でも分かった。

(……これは、何を言っても聞いてくれないやつだ)

知らないふりして説得すればいいのに。そのことがわかってしまう自分が悲しい。


「……うん。そうだね。さすがにこの歳になって今まで通りだと恥ずかしいよね。分かった」

「……じゃあ、それで。俺、もう行くから」

「うん。分かった」


ブンちゃんの足が遠のいていく。私は笑えていただろうか。ブンちゃんがこの目をするときは大抵何かを決心した時だ。……きっと大きな意味があってのことだろう。

それに、あれだ。原作に関わらないためにもいい機会じゃないか。



だから……泣くな。




「〜〜っ」


泣いちゃダメだと思うほど視界はぼやけていく。ブンちゃんが離れていくことは前から覚悟していたことなのに、想像以上にショックな自分に驚いた。

きっと、私は安心していたんだ。どんなに気まずくなったって幼馴染だという事実は変わらない。でも、ブンちゃんはそれをもないことにしようとしている。それがとても悲しくて……。

ブンちゃんが話しかけてくれたとき、少しでも昔みたいに戻れるんじゃないかと期待した私がバカみたいだ。

いや、違うな。もともと立海に進んだのも下心があったのかもしれない。また一緒に登校したり、お互いのクラスを行き来したり……そんな都合のいいことをどこかで思ってたんじゃないの?


「……ほんと、ばかだなぁ」


涙はまだ止まりそうにない。どうしよう、お母さん心配してるかも。

早く泣き止まなきゃ。大丈夫。だって、私は……


「……大人なんだから」
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