現実の切なさは実に陳腐だ
「ねえナミ」
「ん、どうしたの?」
「サンジってナミやロビンにはいつもあの調子なの?」
休日の昼下がり。私達は近所のコーヒーショップに来ている。
夏季限定のマンゴージュースを飲みながら「こっちの世界のものはやっぱり美味しいわ!」と笑顔を浮かべるナミに思い切って質問してみた。

「あの調子って?」
「ええと…目がハートマークになるというか」
「ああ、女の子にはだいたいそうねぇ」
「やっぱりそうなんだ…」
私は肩を落としてエスプレッソを啜る。
苦味がきつく、エスプレッソ用です、と渡されたスティックシュガーを破ってさらさらと注いだ。

私はサンジにそういう目で見られたことがない。
優しいことには変わりないものの一歩だけ後ろに退がっているような気がするのだ。
泣けるほどではないけれど、景色がぐにゃっと曲がって足先から冷たくなるこの感覚。ああ、嫌だ。

ふふっと笑ったナミが付け足す。
「いずれ意味が解るわよ、サンジくんが臆病でなければね。…いや、臆病だからこそなのかな?」
肝心なときはこういう風に含みを持たせた物言いをするナミのことをなんだかんだ憎めない。
ガールズトークだね、と自分を茶化してエスプレッソをもう一口啜った。

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「サンジくん、お水ちょうだい」
「んナミすゎん!こんな時間まで眠れないなんて大変だ!レモン水にしたのでビタミンCを補給してください!」
寝不足は美容の大敵だ。おれは慌ててレモンを半分に切り、絞り器で果汁を絞り出した。
急いでいても力任せにしてはいけない。栄養素が壊れてしまう。

「ありがとう。…偶には***にもそんな調子で接してみたら?」
なぜここで***ちゃんの名前が出るんだ。レモン水を飲んでいるのがナミさんではなくおれだったら、間違いなく吹き出していたところだ。

それに、"そんな調子"というのはどういうことだ。
…いや、本当はわかっている。
おれの普段のレディへの態度はその辺の野郎がするような軽口のつもりではない。けれど***ちゃんには何故かそれができない。

もし***ちゃんに単なる挨拶だと思われて流されたら。
想像したら景色がぐにゃっと曲がって足先から冷たくなる感覚がした。ああ、嫌だ。

「ガールズトーク、楽しかったですか?」
弱々しく問いかけるおれに含みを持たせる微笑みを返すナミさん。苦笑いするしかなかった。

現実の切なさは実に陳腐だ
(もう、じれったいわねえ)


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