そんなこんなで昼休み終了まで残り15分を切ったところで、中庭にてようやく昼飯。
「はい、先輩。お約束通りのカツサンドで御座います〜。」
ペリペリっと包装されてるビニールを外して出てきたのは二つ入りのカツサンド。 パット見た目は、ただのカツサンド。 けれどこれが昼時限定、曜日限定、数量限定で限定尽くしで人気すぎる品物だって言うんだから驚き。
「これで今朝のこと許してくれる?先輩。」
「まあ、今回だけな。次はないからな。」
それが自分の手に渡り、口に運ぶだけでこの緊張感。 ではでは心して。
「・・・いただきます。」
「どう?先輩。」
「・・・・・・。」
「先輩?」
「・・・・・・普通。」
「え?」
「すごく普通のカツサンド。」
これほど期待ハズレという言葉がお似合いなモノはないだろう。 美味い、不味いって問われれば、間違いなく美味い!不味いわけじゃない。あれだけ限定尽くしだったんだ。伝説級の幻級だったんだ。不味いわけがない。・・・のだが。 これがそれだって言われると普通。すごく普通。 オレはこのカツサンドの謳い文句に期待しすぎてしまったようだ。
「おっと、俺も食べないと!ではでは、いただきます。」
そんなオレの隣で奴も昼飯、いや昼パン飯にしだした。 ベリベリっと包装されてるビニールを破いて出てきたのはコッペパン。 マーガリンもなければジャムもない普通の普通、ただのコッペパン。
「なあ?それ、お前の昼飯?」
「うん。先輩のを買うのに夢中になってたら自分の分忘れちゃって。気が付いたらアンパンすらなくなっててビックリ!いやぁスペシャルカツサンドが出る日の購買は本気でヤバイね。ジャムとかも売り切られて、このコッペパンでさえギリギリすぎ!本気でもう二度と行きたくない!本気で!」
(コイツ『本気で』を3回も言った。)
でもその気持ちはすごく分かる。 オレも前に挑戦して失敗した挙げ句に他のモノも何も買えず、水道水のみで放課後まで過ごした苦い経験があるからな。 一度経験したら二度はない。あってもいいがオレはゴメンだ。 だからコイツが言った気持ちはすごく分かる。もちろんこれも大事だから2回言いましたっと。
「・・・ほら。」
「?」
そんな気持ちが分かるから。 そんな気持ちが分かったから。
「お前も食えよ。」
「え、いいの?だって先輩が・・・。」
「そんな地味なパンだけじゃ午後の授業キツイだろうが。食っていいから取れって。」
元はコイツのせいで始まりオレにパシられながらも、見事に成し遂げた戦利品。その残りの一つをコイツに差し出す。
「ありがとう先輩。じゃあお言葉に甘えて一つもらうね。お詫びにコッペパン半分あげる。」
「いらねぇよ。そんな何にもないコッペパン。」
期待ハズレだったダメージが大きすぎたのだろう。 そのせいで自分だけっという気分にはなれなかったのだ。 とはいえ、さすがにカツサンド一つじゃキツイから、あとで水でも飲んで耐え凌ぐとするか。
「俺は好きだけどね。コッペパンだけでも。ジャムとかなくてもコッペパンそのものの味はちゃんとしてるし。」
「コッペパンの味って別に普通だろ。不味くはないけどさ。お前も物好きだな。」
「うん。だから俺、先輩とー・・・。」
「コッペパンから、そっちに繋げようとするな。」
他愛なく続くコッペパン談義。
「でもカツサンドも食べればただのカツサンド。コッペパンも食べればただのコッペパン。どっちも結局は普通になっちゃうんだね。・・・人で例えても同じになるのかな?」
「それ。同じにしたら、ただ食いたいだけになるだろ。」
「だってそうじゃないの?食えれば何でもいいって言う人だって、世の中にはいるでしょうに。」
「・・・待て。それ何の話してんだ?」
「え?股間?」
「食べ物からシモの話に繋げんなッッ!!!」
こうして過ごした昼休みももうじきおしまい。 午後の授業が始まってしまう前に、さっさとゴミを片付けて教室に戻ろう。
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