「ほら。そっちのゴミ寄越せよ。それぐらい片付けてやるから。」
「ありがとう、先輩。」
それにしても何が『超ウルトラなカツサンドスペシャル』だ。 期待ハズレにも程がありすぎるだろ。 『超ウルトラ残念カツサンドスペシャル』に改名するべきだと思う。 値段だって、えっと・・・。通常のカツサンドと、あれ?いくら差があったんだっけ?
「ん?」
そう思ってゴミ回収ついでに、サンドイッチを包装していたビニールのパッケージを見る。 するとそこには『カツサンド』と確かに記載されているが、『超ウルトラ』とか『スペシャル』とか何処にも書かれていなかった。 その代わりに『ただのカツサンドです』と購買のおばちゃんが手書きで書き加えた文字があった。
「・・・・・・・・・。」
これは限定と通常のカツサンドを間違えて買わないようにと、その日だけ書かれるある意味、限定なカツサンド。 けどいつものカツサンドと何も変わったことはない。 つまりオレが今さっきまで食べていたモノは・・・。
「あ!やっぱり俺が片付けるよ!」
「・・・・・・・・・。」
「年上の先輩にゴミ持たせるわけにはいかないもんね。はい、回収。」
「・・・・・・・・・。」
「それじゃあ先輩。俺、先に教室戻るね。」
そんなオレの様子に気づいたコイツは、ハッとしていきなり慌て始めた。 そして人からゴミを掻っ攫うように奪い取り、スタコラサッサと去ろうとする。
「・・・の前に、だ。今すぐお前に訊きたいことがあるんだが。」
ので、ガシッと捕まえて逃亡阻止。
「お前が買ってきたそのカツサンド、さ。本当は限定じゃなくて通常のだったんだろ?怒らないから正直に言ってみ?」
「な、ナンノコトカナー?」
「とぼけんなッッ!!」
「わ?怒った!先輩、怒らないって言った瞬間に怒った!」
「当たり前だろうが!!」
『超ウルトラなカツサンドスペシャル』だと思って食べてたカツサンドは、ただのカツサンド。 通常のカツサンドを『超ウルトラなカツサンドスペシャル』だと思わさせて騙した罪は、とても重い。
「仕方ないでしょ!1番乗りで購買行ったのに超ウルトラなんちゃらサンド既になくて買えなかったんだもん!通常のだって譲ってもらうのに倍額かかって大変だったんだから!」
「開き直るな!買えなかったら買えなかったで、素直にそう言えばよかっただろ!」
「だって先輩が買ってこれなかったら別れる言うから・・・。」
「だからって嘘ついてまで人を騙すな!!」
食べ物の怨みは非常に恐ろしい。 たかがカツサンド。されどカツサンド。 そんなことの為に激怒するオレもオレだが、コイツがやらかしたことは、とてもとても許しがたい行為だ。 すると、
「・・・うん。そう、だったね。」
今度は変な言い訳することなく、コイツは素直に頷く。 急に物分かりが良くなったのか、シュンと静かにおとなしくなる。
「先輩の言うとおり、買えなかったのなら買えなかったで始めからそう言うべきだったね。・・・ごめんなさい。」
そして深々と頭を下げてまで、謝ってきたのだ。 コイツが嘘ついてまでやらかしたのは、オレの無茶ぶりなパシリが原因。 この様子を見る限りでは、きっとそうまでしてオレと別れたくなったと言い張るだろう。 裏の裏まで何を考えてるか分からないけど、何が彼をそうさせているのか。
「もういいって。もういいから頭上げろよ。」
とはいえ、いつまでも下級生に頭下げさせたままは注目の的になってしまうので直ぐにやめさす。
「あ!また今度出るとき、次はちゃんと買ってくるから!だからー・・・。」
「次って。次、出てくるのは半年後。その頃にはお前と別れてるだろ。」
「それでもちゃんと買ってくるから。絶対!」
「いや、いいって。もういいから、買ってこなくていいから。その頃まで関わってくんな。今回のことはもういいから、許すから。」
どちらにしろ今回の原因はオレにある。 コイツと別れたくてワガママきかせた結果、こうなってしまったんだ。 それぐらい分かってるし、そこへさらにワガママを重ねるつもりもない。
「次、嘘ついたらソッコー破綻な。よく覚えとけ。」
「うん、分かった。よく覚えとくよ。もう嘘つかないって。」
・・・慣れてないことはするもんじゃないって、よく分かったしな。
そうして過ごした昼休み。 オレの無茶ぶりパシリは失敗に終わったものの、結局それが原因で羽前 篝と別れることなく終わった。 コイツの企み。もう少し転がせて泳がせておけば、何なのか分かるようになれるだろうか。 遠くても三ヶ月の辛抱。 そこまで付き合わされるのなんて、やっぱりゴメンだ。 さっさとその企みを掴んで、コイツとさっさと別れさせてもらおう。 こうしてオレ、斉藤 崇とコイツ、羽前 篝の付き合いはまだまだ続くのでした。
つづく |